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「アメリカのカリキュラム統合モデルにみるキャリア・ガイダンスの位置づけ」
−雇用可能性(employability)に着目して−

西 美江

 本論文は、アメリカで1980年代後半より進められてきた、ハイスクール段階のアカデミックな教育と職業教育のカリキュラム統合の試みについて、非営利組織(NPO)「職業研究・開発センター(CORD)」の進めてきた取組を通じて紹介している。

  そのキー概念は、「応用的なアカデミック科目」と呼ばれる「実生活や職場への応用を重視したアカデミックな教育」である。

  この「応用的なアカデミック科目」を中核とした「技術準備(Tech Prep)プログラム」では、ハイスクールにおける後期2年間の職業教育と2年制中等後教育機関(コミュニティ・カレッジ等)とを接続し、生徒のキャリア探索を確保・支援することを目的としている。

  アメリカにおいては、それまでの総合制ハイスクールの選択中心のカリキュラムは、学習に一貫性がなく、将来のキャリア選択へ向けた準備がなされていなかったため圧倒的多数の「成績が良くも悪くもない」生徒たちには、有効に機能しなかったという。「応用的なアカデミック科目」は、このような「全体の半数以上を占める成績中位の生徒たち」のための教育改革であったのである。

  「応用的なアカデミック科目」が導入された背景には、ガードナーの「多重知性論」に代表される「認知的な学習理論」の発達がある。一部の成績の良い生徒だけに有効な「講義・暗記中心の伝統的な教授法」だけではなく、生徒の持つ多様な能力に対応する学習スタイル、例えば、生徒中心の活動を重視した体験型の学習等を導入することによって、いわゆる中間層の生徒も進学準備教育と同等レベルの概念やスキルを獲得できることが実証されたという。そのため、アカデミックな教育と実生活や職業世界との関連性を示すことが「応用的なアカデミック科目」や技術準備カリキュラムにおいて重視されるようになってきたのである。

  日本においても、いわゆる進学校ではない普通科高校で進められている5教科中心のカリキュラムが生徒たちの生活や進路に充分に結びついていないがゆえに、高卒フリーターや無業者を輩出している状況を考えれば、アメリカの経験は真剣に検討されてよいであろう。

 最後に、CORDが提示するキャリア教育の「統合カリキュラム基準」では、雇用可能性(employability)がいかなる職業においても共通の「基本的スキル」として重視されていること、なかでも、コミュニケーション関連のスキルが最重要視されている点に注目しておきたい。「多様性への対応」として、人種、民族、教育、年齢といった違いを理解、尊重した上で、円滑な人間関係の構築が求められているからである。これらもまた、日本における問題状況とまったく共通するものではないかと思えるが、いかがであろうか。

 さて、本論文では、筆者自身が注釈で断っているように、1994年に制定された「学校から職業への移行機会法」をめぐる動向については、触れられていない。90年代以降の現代におけるアメリカのキャリア教育について論じる際、ぜひ言及していただきたい点である。筆者の次の飛躍に大いに期待するものである。