第4章 ひとり親家庭の子どもの家庭状況と学力
神原文子
最初に断っておかなければいけないことは、学力ということに関して、現在の日本で公表されている様々なデータの中で、ひとり親家庭の学力を捉えたデータはないということである。まず、その点を押さえておきたい。そういう意味では、児童養護施設の子どもたちや外国人児童生徒の学力実態のデータが公表されていないということと、同じような状況にある。その点を踏まえ、可能な範囲で、ひとり親家庭の現状、ひとり親家庭で育っている子どもたちの現状、ひとり親家庭の状況と子どもたちの学力との関連、そしてひとり親家庭の子どもたちをめぐる学力問題の課題について述べていくことにしたい。
1 ひとり親家庭の実態
ひとり親家庭の実態については5年おきに厚生労働省が実態調査を行っている。ここでは2003年の厚生労働省の調査を参照したい。その推定値によれば、母子世帯が122万5,400世帯、父子世帯が17万3,800世帯という数字である。ただ両方を合わせても、日本の全世帯の中でいうと3%弱というのが実態である。しかし、厚生労働省の調査が5年ごとに実施されているが、母子世帯も父子世帯も近年特に増加傾向にある。
本来ならば2003年の次に2008年に調査をする予定だったが、児童扶養手当の削減による影響をとらえる必要もあったためか、厚生労働省は2年前倒しにして2006年に実態調査を実施した。この調査についてはホームページで概要が公表されているが、推定値は明らかにはなっていない。
調査が前倒しになった背景を少し押さえておくと、2002年11月に児童扶養手当法や児童福祉法、それから母子寡婦福祉法などの法律が大きく変わったことがポイントであろう。その中でも、離別のひとり親家庭にとって特に重要な児童扶養手当というのは、2002年11月に法改定になって、全額支給の所得制限額が200万円から130万円に大幅に引き下げられ、所得が1万円上がるごとに手当が漸減するようなしくみになった。そのため、130万円~200万円の世帯で児童扶養手当が大幅に削減されることになった。しかも、金額が下がっただけではなく、5年連続で受給すると、それ以降は受給額が上限2分の1まで削減されることが決まったのである。これに対して、当事者団体などを中心とした反対運動が起こった。また、厚生労働省も、児童扶養手当の削減幅を決めるにあたって、実際に母子家庭の生活実態を把握する必要があったことから、2006年に調査が行われたのである。結果的には、不況の影響もあり、2003年の時点から2006年までの間に母子家庭の生活は大きく改善をみなかったということで、現在、「凍結」状態となっている。
次に、ひとり親家庭となる理由を見てみたい。離婚が約80%、死別が約10%、未婚の母が6.7%となっている。一方、父子家庭の場合では、離婚が74%、死別が22%である。未婚の父については、厚生労働省のデータは存在しないが、社会問題貧困研究所のデータによると、未婚の父の家庭は、全国で1万9,000世帯程度存在するようである。
さらに、ひとり親になったということの年次変化についても見ていきたい。図1は、1983年から5年おきのデータを示したものである。この図におけるポイントは2つある。1つは、ひとり親家庭の実数が増えてきていることである。そして、死別の割合が減っていて、離婚が増えてきているということである。一方で、未婚の母は必ずしも増えてはいない。だいたい6~7%程度を推移している。
ここで、ひとり親の平均像についても触れておこう(2006年全国調査より計算)。
表1-1 ひとり親世帯の平均像(2006年全国)
データの多くは、母子世帯の場合、死別とそれから生別とを分けて示される。一方、父子世帯は世帯数そのものが少ないのでまとめられているが、だいたい30代半ばでひとり親になり、その時点で子どもの年代がだいたい6歳、7歳ぐらいである。
母子世帯の平均年間就労収入は171万円、平均世帯収入は213万円という数字になっている。これについては後で詳しく見ていきたい。次に、父子世帯の平均世帯収入は398万円、平均年間収入が421万円である。これらの数字は、全世帯数の平均収入からしてどれくらいかであるかというと、母子世帯の場合は37.8%に過ぎない。父子世帯の場合では74.8%である。1世帯あたりの子どもの数は1.6人である。母子世帯、特に離別の場合は、別れた父親には養育の義務があるが、現実に日本の母子世帯で養育費を受け取っているのは19%にしか過ぎない。受け取る額は、子ども1人の場合、平均3万円で、2人の場合は平均5万円である。そうではあるが、ともかく、この養育費を受け取っている割合が19%というのが一つの問題となっている。
このように、母子世帯の収入が低いことが問題になっているが、母子世帯の貧困率はどの程度になるのであろうか。表2を見ると、1997年、2002年、2005年と全世帯の1世帯当たりの平均所得、児童のいる世帯の平均所得、母子世帯の平均所得を算出したのであるが、驚くべきは、1997年から2005年までに全世帯の平均所得が約100万円下がっていることである。そして、この不況の中、2008年ではさらに下がっていることが予想される。この全世帯の貧困率を計算すると、公式発表では14%であったが、私が計算すると20%を超えていることが判明した。それに対し、母子世帯の貧困率は63%である。これが今の実態なのである。
表2:母子世帯の貧困状況
(国民生活基礎調査と全国母子世帯等調査より神原作成)
ここで押さえておかなければならないのは、保護者の就業状況と平均収入であろう。1つ注意しておきたいことは、「母子世帯」と一括りで物事を捉えてしまうと実態が見えにくいということである。
母子世帯の中で、有職84.5%、無職14.6%となっている。この無職の人はどういう人かというと、離婚してまだ仕事を探している人、それから離婚して情緒不安でまだ働けない人、それから職業訓練を受けている人、それからお母さん自身が病気の人、子どもが病気である人、あるいは子どもが0歳児・1歳児でまだ保育所に預けることができないという人を含めて、14.6%なのである。このうち、常用雇用が42.5%で、臨時・パートが48.7%となっている。常用雇用の平均収入は257万円であるが、臨時・パートは113万円である。つまり、雇用形態によって収入が非常に違うということである。
一方、父子世帯の方は、2006年には有職97.5%、無職2.1%であるが、常用雇用の割合は年々減ってきている。かつては、男性においては正規雇用が当たり前と見なされてきたわけであるが、どんどん男性の非正規が増えてきて、父子家庭の男性の非正規雇用が6.2%となっている。それから特に、母子家庭の収入源はそれほど多くはないが、2003年から2006年にかけては年収がわずかでも増えている。しかし、父子世帯の父親の年収は2003年から2006年にかけて19万円の減少である。この点については、男性の賃金の減少が非常に大きいと言えそうである。
それでは、なぜ、母子家庭の母親たちの就労形態として非正規の方が多いのであろうか。この点を押さえておく必要がある。男性についても分析を行いたいが、父子家庭は数が少ないので詳しい分析が難しい。そこで、母子家庭の方に焦点を当てて見ていくことにしよう。
2006年度の『国民生活白書』によれば、現代日本の女性たちの就業実態は、今も昔もあまり変わっていない。これは日本の女性の働き方の特徴による。つまり、結婚前は多くが正規雇用であるが、結婚すると正規雇用をやめて無職が増えるのである。すなわち、結婚するだけで正規雇用の人が30%も減るのである。さらに、子どもが一人増えると、20%くらい正規雇用が減り、15.6%になり、そして無職が増える。この状態は、離婚して就職、再就職した場合にどういう仕事に就けるかということにも繋がってくる。
図2:女性の就業形態の推移
(平成18年度版 国民生活白書より)
2 ひとり親家庭の子どもの状況
このように、ひとり親家庭は不安定な状況になりやすいことを押さえたわけであるが、日本全国でひとり親家庭に育っている子どもは何人かという具体的な数字はない。そこで、2003年のデータから推定値で数字を求めてみると、20歳未満の子どもの数が2596万664人。同じように、2003年に母子家庭・父子家庭で育っている子どもの数は、母子世帯では193万6,000人、父子世帯では27万2,900人という数字が出てくる。全国の子どもたちの8.6%がひとり親家庭に育っていることになる。たとえば40人学級だったら少なくとも3人ぐらいはひとり親家庭で育っている子がいて普通である、という数字である。その「3人」が多いのか少ないのかという判断は難しい。あくまで、それくらいは存在するということだが、ひとり親の子どもたちというのはクラスではほとんど目立たない。
今の全国調査で明らかにできることには限界がある。しかし2003年度に続いて2008年11月に、大阪市はひとり親家庭の実態調査(以下、大阪市調査)を実施した。
この調査で特に注目したいのは、労働時間である。母子家庭で死別の場合でも一日8時間、離別の場合は一日8時間20分、働いている。一方、父子家庭の父親の労働時間は10時間30分となっている。実は、2003年の大阪市のデータから見ると、1時間ほど労働時間が増えている。年収については、大阪市は全国平均よりは就労収入で約20万円高い。しかし、やはり大都市ということもあって物価等も高く、1ヵ月に最低必要となるひとり親家庭の生活費はだいたい21~22万円となる。つまり、年収でだいたい250万円ないと生活できないのである。ところが平均年収が250万円であり、離別の母子世帯にいたっては250万円に到達していないのである。
次に、年間世帯収入と就労収入を累積率で表してみよう(図3)。一番上の折れ線が母子世帯の就労収入、2番目が世帯収入。それから父子世帯の就労収入、世帯収入となっている。縦線を入れたところは年収300万円のラインである。年収300万というのが貧困を脱出する一つの最低基準であろうと考えている。つまり、年収300万ということは1ヶ月にすると25万円であり、OECDのデータ等でも相対的な基準を考えると、やはり300万がひとつの貧困ラインであると考えられる。図3において、この基準でみると、世帯収入で母子世帯の場合は75%が貧困層になる。父子世帯の場合は約25%である。逆に言えば、母子家庭の25%は300万円以上の収入があるということである。父子世帯の場合は、経済
図3:ひとり親家庭の年間世帯収入と就労収入
的なことで言えば、75%くらいは300万以上の収入があるということである。したがって、特に子どもの学力とか進学ということを考える時に、ひとり親世帯の中で、貧困層と貧困と見なせない層との差異について検討する必要が生じてくる。
そこで、大阪市調査の母子家庭で生活している全ての子どもたちの状況を全部カウントしてみると、たとえば0歳児は7人で、7人全員が在宅保育を受けており、1歳児の場合、66.6%が在宅保育で、33.3%が保育所に入っているということが明らかになった。1歳児で6割が在宅保育ということは、母親の6割が働ける状況ではないということを示しているのである。さらに、学力あるいは進学ということで強調したいのは、16歳、17歳、18歳、19歳の中学卒の割合である。母子家庭の子どものうち中学卒の割合は、16歳で4.2%、17歳で8.9%、18歳で10.0%、19歳で10.5%となっている。おそらく中学卒に含まれる多くは高校中退と推測されるが、このような子どもの存在は2003年調査でもわかっていたことである。やはりこの層の子たちの進路、あるいは自立を考えると深刻な状況にあり、大きな支援が必要であろう。
もう一つ、学校を卒業した子どもたちの、就職状況のデータがある。15、16、17、18、19、20歳以上のデータ紹介しておこう。それを見ると、15歳、16歳ではまだ就職者はおらず、17歳で44%、18歳で46%である。一方、非常に厳しいのは、学歴別の就職状況である。すなわち、中学卒あるいは高校中退と思われる子どもたちの中で、就職している子どもは3割である。高等学校を卒業した子どもの中で就職している子は55%。そして、大卒の子どもで75%という状況になっている。つまり、学歴がもろに就職状況に影響しているわけである。しかも、このほとんどが10代なのである。はたして、現在、就職できてない中卒、高卒の子たちが、この先就職できるのであろうか。それは非常に厳しいと思われる。
さらに、母子家庭のお母さん方に、子どもにどこまで進学してほしいか、ということを聞いた質問項目と年収とのクロス集計をみた。そこから明らかになったのは、年収が300万円以上であれば、子どもは「大学まで行ってほしい」と希望している割合が高い(50%以上)ということである。ところが、300万円未満であれば、「大学まで行ってほしい」という希望はせいぜい40%、あるいは30%ぐらいとなる。むしろ、「子どもの自由に任せる」という回答が一番多くなっているという状況も見受けられるのである。そういう意味では、母子家庭の子どもの進学状況も家庭の経済状況にもろに影響を受けているのではないだろうか。
以上を簡単にまとめると、ひとり親家庭における子どもの中卒率の高さと大学進学率の低さ、そして、子どもの階層差と進学との関連が見えてきたように思われる。
3 ひとり親家庭と階層
ここからは、別のデータを用いて、ひとり親家庭と階層との関係を見ていきたい。
全国調査も大阪市調査でも、対象は母子家庭・父子家庭・寡婦である。そのため、母子家庭とそうでない家庭の比較、父子家庭とそうでない家庭(男性が世帯主で夫婦と子どもがいる家庭)との比較が可能なデータがないのが実情である。やはり全体との比較の中で、母子家庭の位置づけを明確にしたいと私は考える。そこで、日本家族社会学会が1998年、2003年、2008年に行った「全国家族調査」のデータを用いたい。10,000のサンプル数で北海道から沖縄までカバーしており、年齢は28歳から77歳までを対象としている。
そこで、2003年のデータをもとに、階層差、それから家族関係を見てみたいということで、分析を行った。(注)
まず、未婚か既婚か、子どもがいるかどうか、離別かどうかということで、年齢によって収入が異なるのかということを見てみた。男性の場合、有配偶で、未婚の子どもがいると、年齢が上がるにつれて、順調に収入が増えている。離婚した父子家庭の男性の場合も、ゆるやかではあるが収入は増えている。むしろ、少し驚いたのは、未婚で子どものいない男性の収入が、年齢が上がるほど下がっているということである。しかし、この理由についてはよくわからない。
一方、女性の場合、有配偶で未成人の子どもありは、世帯収入であるが、順調に上がっている。それから、未婚で子どものいない女性も上がっている。それに対して、離婚をして未成人の子どもがいるという女性の場合が、一番低くなっている。同じ男性、同じ女性であっても、配偶関係と子どもの有無によって年収が違うのである。
次に、「常勤で未婚」「常勤で離別」、それから「常勤で既婚」「臨時で既婚」「臨時で未婚」「臨時で離別」というカテゴリーに基づいて、女性の年齢ごとに変化を見てみた。すると、配偶関係には関係なく、女性でも常勤雇用であれば、給料が上がっていくことが明らかになった。ところが、臨時の場合は、年齢が上がってもほとんど給料が変わらないことも、同時に明らかになったのである。
そこで、離婚女性のみのデータを見てみよう(図4)。働き方によって、どの程度給料が違うのであろうか。離婚して子どものいる女性でも、常用雇用で働いている場合は、比較的高い給料をもらっていることがわかる。48歳から57歳で700万円くらいの給料をもらっているのである。ところが、その他の働き方の場合は、200万円あるかなし、しかも年齢が上がっても給料が上がらないという状態なのである。つまり、同じひとり親家庭と言っても、母親の雇用形態によって、収入が全然違うのである。
図4:離別未婚・未成人子あり
女性の就労形態別・年齢別の世帯年収
4 リスクとしての結婚と離婚
「女性にとって結婚はリスクである」ということを押さえておこう。なぜなら、男性にとっての結婚の意味と女性にとっての結婚の意味は違うからだ。どう違うかというと、女性にとっての結婚は、先が見えないのだ。それから、「関所」であるかのように、女性は結婚によって進路選択を迫られる場合が少なくないのである。たとえば、仕事を辞める、名前を変える。さらに、ライフスタイルの変更を余儀なくされることが少なくない。
一方で、男性の場合は「トンネルか鉄橋」を通過するかのように、同じレールの上を走るだけで全然変わらない。乗り換えもなしなのである。これは大きな違いではないだろうか。
次に、女性の家族形態別の常勤雇用割合を見てみたい。まず、未婚で子どものない女性は56.5%が常勤で働いている。結婚していて、子どものない状態で35.8%、子どもが一人生まれると15.5%である。この数値は、たとえ子どもが成人しても増えていない。離婚していて未成人の子どものいる女性は頑張って常勤についても43.8%。そして、子どもが成人した離婚している女性の場合は、32.6%という状況である。やはり、女性たちが常勤に就いていないことによって、安定した収入が確保できていないと言えるのである。
以上のようなことを踏まえて、図5を作成してみた。現代日本の平均的な女性ライフコースを描いたものである。たとえば、高校進学はむしろ女子の方が多いが、大学進学になると男子の方が多くなる。さらに就職の際には、高卒で男性100に対して女性84.4、大卒で男性100に対して女性88.8という賃金格差が生じるのである。そして、結婚の平均初婚年齢は、男性29.8歳、女性が28.0歳。ここに約2歳の差がある。そうすると、結婚時の収入は、一般には男性の方が高くなるのである。共働きが難しくなって、男性と女性とどちらが退職するとなると、収入の低い方がやっぱり辞めざるを得ないことになる。だから、多くの場合、女性が退職するのである。12%から15%の女性はフルタイムで働くが、他は無職になるというわけだ。
そして、仮にコンフリクトが起こって離婚を余儀なくされると、子どもの81%は、母親
が親権者になっている。女性の方が少ない収入であるにもかかわらず、母親が親権者になる可能性が高いのである。さらに、先に述べたように、常用雇用で年収300万円以上が12%、常用雇用であるが年収300万円未満が28%。臨時パートで平均年収113万円が全体の44%、そして無職が14%である。加えて、別れた夫が養育費を払わない、こういう中で、母子家庭がスタートするのである。
もう一つ、非常に細かく分類した「全国家族調査」のデータを紹介したい。女性のデータであるが、夫婦の学歴と、夫の雇用形態、妻の雇用形態を組み合わせて、それぞれの世帯の平均年収を求めた。そうすると、たとえば、夫婦が大卒・常勤で共働きの場合は、世帯年収が1000万円を超える。一方で、ひとり親家庭、母子家庭の平均年収は187万円なのである。こういう状況下で、19歳から24歳の第1子について、大学進学率を求めてみた。すると、ひとり親家庭の大学進学率は11.8%となった。大学進学率の一番高いカテゴリーは、「夫婦が大卒で妻無職」である。その割合は、実に82.4%にも上る。
おわりに
これまで述べてきたことを踏まえて、どういうことが言えるかを整理してみたい(図6)。図中では、子どもの学力はブラックボックスとなっている(データが存在しないので)。
まず、母親の学歴から見ると、日本の場合、母親の学歴と結婚した配偶者の学歴は同等という同類婚の確率が非常に高いこと(同類婚傾向)が知られている。そして、配偶者の学歴は経済力にも強く影響するのである。ここで、もし離婚した場合、離婚後の就労には、母親の学歴がやはり影響を与えるのである。母子家庭になったときに、世帯収入が低くて、しかも母親の学歴も低かったら、それが子どもの学力に影響する可能性が非常に高いということが考えられる。
さらに、親の進学期待も重要である。親の進学期待に対しても、世帯収入と親の学歴が影響する。そういう意味では、両親が揃っていて、世帯収入が高いほど、そして親の期待が高いほど、おそらく子どもの学力も高くなり、進路選択も押し上げられるだろう。
では、仮に両親が揃っている家庭の子どもと、ひとり親家庭の子どもと、同程度の学力があった場合にどうなるか。おそらく、親の学歴の違い、世帯収入の違い、それらとも関連して、親の進学の期待の違いが、子どもの進路選択に影響すると思われる。母親の学歴は、いくつもの段階で影響を及ぼす要因となるのである。
以上より次のようにまとめられるだろう。
①母親の学歴が低いほど、離婚の可能性が高い。
②母親の学歴が低いほど、離婚後の就労が不安定で低収入になる可能性が高い。
③母親の学歴、教育費、親の期待と関連する。
④母子家庭は両親家庭に比べて、母親の学歴が低く世帯収入も低い。
⑤母子家庭の子どもの学力は両親家庭の子どもの学力と比べると相対的に低くなる。
⑥子どもの学力差が子どもの進路選択の差に影響する。
⑦子どもの学力が同程度であっても親の進学期待の差が子どもの進路選択に影響する。
現在、大学に進学しているひとり親家庭の子どもにインタビューをさせてもらっている。そのなかで見えてきたことは、これまで描いてきた母子家庭で育っている大半の子ども像と異なっている。第1は、子どもなりに親の離婚を受け入れているということ。第2は、離婚して生活が安定したという子どもたちも少なくないということ。第3は、母親が比較的安定した仕事に就いている、あるいは親族の経済的な援助を受けたりできること、母親以外に物心両面でサポートしてくれる人が存在していること、そういう意味では、精神面・人間関係の面で安定している。つまり、母親が子どもに教育期待をかけていて、そして応援してくれるということが、ほぼ共通して見えてきたのである。
以上のことから、ひとり親家庭かどうかに関わりなく、子どもが生活に困らず大学にも進学できるためには、子どもたちが育つための経済的、人的資源、 そして、人間関係の面で安定しているかどうかに左右されるということである。
最後に、インタビューの内容から問題提起をして結びとしたい。
「子どもの貧困と言ってほしくない」。子ども自身も、それからお母さん方からもこういう声を聞いたのである。「子どもの貧困」という捉え方が、子どもの生活をトータルに捉える妨げになるのではないかということである。「親の収入の低さ=子どもの貧困」とは限らない。中には、生活保護家庭であっても、子どもたちは経済的に困っていないと話してくれた。母親が限られたお金でやりくりをして良い食事をまかなってくれたり、服でも着回しをしたりして、子どもたちは困ったと思ってない、と何人も話してくれた。子どもたちは、貧しい家庭の子どもとレッテル貼りをされるのは嫌で、同情され特別視されることが一番つらいのだという話をしてくれた。
親も子どもも頑張りすぎず、無理をしすぎなくても普通に生活できるような、そういう最低限の生活保障をなんとか福祉的にも教育的にも実現すべきである。それから、母子家庭施策のような母親に対する支援のみではなく、子どもに対する支援が必要なのである。つまり、子ども進路保障であったり、あるいは子どもの精神的なさまざまなサポートであったり、そういう支援こそが今一番必要ではないだろうか。
(注)二次分析に当たり、東京大学社会科学研究所附属日本社会研究情報センターSSJデータアーカイブから「全国家族調査NFRJ03」(日本家族社会学会)の個票データの提供を受けました。
参考文献
神原文子 2004 『家族のライフスタイルを問う』勁草書房。
神原文子 2006 「ひとり親家庭の自立支援と女性の雇用問題」『社会福祉研究』97, 50-58。
神原文子 2007a「ひとり親家族と社会的排除」『家族社会学研究』18-2, 11-24。
神原文子 2007 b「ドメスティック・ヴァイオレンスから離婚した母と子の今を問う」『現代の社会病理』22, 37-52。
神原文子 2008「母子世帯支援施策の原点とは何か」『都市問題』6月号 73-80。
神原文子・杉井潤子・竹田美知編著2009『よくわかる現代家族』ミネルヴァ書房。
マジェラー・キルキー2005『雇用労働とケアのはざまで』ミネルヴァ書房。
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