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2005.07.12

SOSニュース2004年度報告と2005年度の取組みについて

 「SOSトーチャー翻訳委員会(日本)」は、1987年11月の結成以来、本年で18年目を迎えます。当初より、スイスのジュネーブに本部を置くNGO「世界拷問防止機構」(OMCT/SOS-TORTURE)から送られてくる公権力等による拷問、不法な拘禁、殺害などに関する速報を日本語に翻訳し、人権関連団体、マスコミ、労組、政党、個人の方々に送付して、解決のための働きかけを要請してきました。

 また、1997年度からは「国際人権連盟」(FIDH)と「世界拷問防止機構」との共同プロジェクト「人権擁護家保護のための監視機構」による速報、2003年度からは「世界拷問防止機構」と「人間居住ネットワーク・ハビタット・インターナショナル連合(HIC-HLRN)」による共同要請速報も翻訳し、働きかけの要請を行なっています。

 日本語翻訳したニュース速報は、(社)部落解放・人権研究所のホームページ(http://blhrri.org/)に掲載し、個人の方々へはメールマガジンや郵送しています。また、一部「法律新聞」にも掲載して、要請を行っています。

 毎月のホームページには平均約394アクセスあり、メールマガジンの定期購読者は2005年6月20日現在で233人でした。

 これまでに翻訳した事件数は、2004年3月20日号現在で通算3696件です。これまで世界各地で活動するSOSトーチャーのネットワークメンバーであるNGO等による働きかけなどによって、解決された事件もありますが、依然として拷問、虐待、超法規的処刑などが繰り返されているのが現状です。

 このような厳しい状況を踏まえ、当委員会の活動を充実させるために、2004年度の報告と2005年度の活動計画をお知らせします。

【1】2004年度のニュース(速報)の報告

【2】2005年度の取り組みについて

【3】ニュースの発行状況に関する資料


【1】2004年度のニュース(速報)の報告

● 概要について

<1>全体

 2004年4月1日号〜2005年3月20日号 まで36回を発行し、35カ国(地域)における127件の速報を翻訳発行しました(2003年度は50ヶ国、地域で142件:前年比だけでなく毎年比較してみてもジュネーブ事務所から送られてくる速報件数は減少傾向にあります)。

 事件の内容は、平和的デモに参加する人々、人権の擁護および伸張を目指す活動家に対する恣意的逮捕および拘禁、また所在を明らかにしない隔離拘禁、逮捕時や拘禁中における暴力や拷問、女性への暴力、レイプや超法規的判決、軍隊や警察関係者による脅迫や虐待、殺害に関するものです。犠牲者の多くは、人権擁護の活動を行なう人々そして子どもを含めた一般市民です。

 127件のうち「世界拷問防止機構」(SOSトーチャー)と「国際人権連盟」(FIDH)との共同プロジェクト「人権擁護家保護のための監視機構」の速報は、42件、また「世界拷問防止機構」と「人間居住ネットワーク・ハビタット・インターナショナル連合(HIC-HLRN)」の速報は3件ありました。

 そして要請行動によって、釈放あるいは事件が解決・進展したとの報告はそのうち12件ありました。

 以下、地域別に分類した事件の特徴についてです。


<2>アジア 64件

 アジア諸国においては、スリランカで、警察当局からの不当逮捕、拷問や虐待などによって人権侵害を受けているとの報告が昨年度と同様、目立っています。またそのような状況の中、多くの人びとの要請行動によって被害者の状況が改善される報告もありました。

 フィリピンでは、警察および軍隊によって未成年者を含む一般市民が恣意的に逮捕、拘禁そして超法規的な処刑、拷問を受けた事件、また人権活動家などが嫌がらせを受けるなどの被害報告が昨年度と同様、目立っています。ネパールでは、今年初めに出された非常事態宣言に続いてとられた様々な措置の1つとして報道の自由が停止され、ジャーナリストを含む人権擁護家たちが逮捕、拘禁されるなどの嫌がらせを受けるといったケースが目立ちました。

 中国およびバングラディシュでは、人権擁護に関わるNGO活動家、農民グループリーダーや芸術家などが自宅軟禁、逮捕、拘禁されているケースが目立ちました。また、インドにおいては30万人規模で居住地からの強制退去させるといった居住に対する権利が奪われているという報告がありました。そしてパキスタンでは、「名誉」という名目で女性、子どもが殺害されている事件が相次ぎました。


<3>NIS諸国 16件

 NIS諸国においては、主に、人権擁護活動を行う団体や野党政治家への嫌がらせが共通して起こっています。ロシアで反人種差別を掲げて活動する団体といった人権擁護に携わる活動家や団体に対する嫌がらせが目立ちました。またキルギスやアゼルバイジャンにおいてもロシアと同様に、ジャーナリストや人権擁護家が嫌がらせを受けたり、また失踪しているというケースが目立ちました。

<4>中東(北アフリカ・アラブを含む) 23件

 中東諸国においては、昨年度同様、イスラエル国内あるいはパレスチナ領地内において、イスラエル軍によるパレスチナ人、また子どもに対して組織的、特にイスラエル軍による人権侵害についての報告が目立ちました。特に、「アパルトヘイト・ウォール」と呼ばれるイスラエル政府がパレスチナのガザ西岸に建設している「隔離壁」建設に抗議する人々が暴行を受け、7名の子どもが殴り殺され、また「人間盾」にされて殺害されました。そしてパレスチナ人の2197人がイスラエル軍の破壊活動によって家を失いました。

 イランでは、2003年度のノーベル平和賞受賞したシリン・エバディさんが裁判所へ召喚されるなど、他にも人権擁護家、弁護士に対する人権侵害が報告されています。また、バーレーン、サウジアラビア、シリアやエジプトにおいても人権活動団体に対する嫌がらせ、人権擁護家や弁護士が恣意的に逮捕、拘禁されるなどの事件が報告されました。そのうちの何件かは釈放され、また国王から恩赦が出るなど改善されたという続報が報告されています。


<5>中南米(北米含む) 2件

 中南米における人権侵害の事件速報が、ジュネーブよりスペイン語によって送られてくることが増え、日本語訳での速報件数が減りました。しかし、依然として、一般市民、特に子どもへの人権侵害が多く報告されています。特に、ホンジュラスにおいては、未成年者を拷問、超法規的に処刑するなどの報告がありました。


<6>中央アフリカ、南部アフリカ 19件

  アフリカ諸国における人権侵害の事件速報が、ジュネーブよりフランス語によって送られてくることが増え、日本語訳での速報件数が減りました。

 今年度最も多く報告されたのがスーダンのケースでした。特に、南ダルフール州で、大勢の国内避難民、一般市民が治安警察などによって恣意的に逮捕、拘禁、拷問されており、死刑判決を受けるなどの報告が目立ちました。他にケニアでは民族間の対立によって家屋が焼き討ちにあい、暴力事件が起こっており、またジンバブエでは人権擁護家が逮捕され拷問されたという事件が報告されています。


<7>ヨーロッパ 3件

 ヨーロッパは、ギリシャとボスニア・ヘルツェゴビナの2カ国のみから速報されています。ギリシャでは、これまで保健福祉省の保護施設に収容された502名のストリートチルドレンが行方不明であるとの事件が取り上げられました。そのほとんどがアルバニア人であったということです。また、ボスニア・ヘルツェゴビナでは、人権委員会が脅迫、襲撃されるなど嫌がらせを受けていると報告されています。





【2】2005年度の取り組みについて

 2005年度の取り組みとして、以下のような課題を考えています、今後ともご支援と要請をよろしくお願いいたします。

(1) 「SOSニュース」の翻訳発行を継続し、内容の充実を図る。

 読者よりニュースの背景状況に関する情報を募ります。

 部落解放・人権研究所職員1名の翻訳担当者に加え、翻訳ボランティア1名を加えて2名で翻訳を行なっています。事件解決のためにも多くの要請行動が必要なため、できるだけ手分けして翻訳作業を行える人員を翻訳ボランティアとして募っていきます。また、各国の団体名や要請行動の定型文書などを用語集として作成し翻訳がスムーズになるよう努めます。

 現在、特に中南米諸国やアフリカ諸国の速報がスペイン語、フランス語で送信されてくるため、必ずしも世界各地の人権侵害の要請が日本語訳されているとはいえない状況です。現在は英語のみを日本語に訳して働きかけをしてきましたが、他言語にどう対応していくかは今後の課題です。

 また、要請行動文書のひな型英文があれば、SOSニュースの要請行動をより早く送付できるため、昨年度より一部作成していたひな型を今年度よりさらに個別に対応できるよう作成し、要請行動が迅速に行なえるようにしていきます。

 続報として出てきたケースを定期的に収集し、「グッドニュース」特集として、参加者に報告していきます。要請行動することへの効果を感じることができ、SOSニュースを購読する人びとのモチベーションを高めることが期待できます。

(2) [SOSニュース]の積極的な活動紹介

 要請活動を行なった団体や個人へ、要請行動の活動を継続して促していきます。

 要請行動後、各国当局からの返事を受けた場合など、読者から翻訳委員会事務局に情報提供をしてもらいます。

 国際的な人権問題に取り組んでいる団体や雑誌などに、翻訳委員会のニュースを提供し、情報活動を拡大するとともに、要請行動へのより幅広い参加を求めていきます。