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国連文書・訳文
 
掲載日:2001.9.18

人種差別撤廃条約に関する日本政府による
第1・2回報告書に対するNGOレポート

2001年2月10日
部落解放同盟・中央本部
部落解放・人権研究所

1,第1条(人種差別の定義)

※(1)1項日本政府報告書では、部落差別がふれられていないが、部落差別が対象になる。

(2)2項

(3)3項

(4)4項 第2条、2項との関連でふれる。

2,第2条(締約国の差別撤廃義務)

(1)1項

(a)富山県富山市の部落の場合、部落外の町会がその部落と同一町会に入れるのを拒否しているので、行政上は存在しない町名を使用しなければならない事態を富山市当局は放置したままである。富山市当局は、速やかに差別撤廃のための方策を講じるべきである。

(b)

(c)

※(d)部落差別行為を継続して実施していて、各方面から注意しても止めない差別事件が生起している。例:大阪府岸和田市の住民による差別 国、大阪府、岸和田市は、本人に対して差別行為を終了するよう可能な限り説得するとともに、このような行為を禁止するための法整備を講じるべきである。

(e)

(2)2項1969年7月に制定された同和対策事業特別措置法以降、今日まで政府は部落差別撤廃を目的に「特別施策」を実施してきた。1996年5月に出された地域改善対策協議会意見具申に基づき、2002年3月末には、一連の「特別措置」を終了することとなっている。

けれども、「特別措置」を終了してよいのかどうか、また終了するとしても、その後の施策をどうするのかを明らかにするためには、総合的な実態調査を実施することが絶対に必要である。けれども、2000年11月現在、政府はそれを実施するとは言っていない。ちなみに、政府によって実施された直近の調査は1993年に実施したものである。

3,第3条(アパルトヘイトの禁止)

※4,第4条(人種的優越主義に基づく差別と煽動の禁止)

(1)導入部 近年「部落民を殺せ」「部落民を皆殺しにせよ」などとした落書き、投書、インターネットを利用した通信が多発してきている。これに対して、政府の断固とした対応がなされていない。

(2)(a)項 「部落民を皆殺しにせよ」など公然と大量殺戮を呼びかける差別落書き、インターネットによる差別情報の流布等が多発化してきている状況を見たとき、この項目に対する留保を速やかに撤廃し、必要な国内法を整備することが必要である。

(3)(b)項 部落差別を宣伝、煽動する差別落書きやインターネットによる通信をみたとき、組織の名前を名乗るものが散見される。このような危険な状況を見たとき、この項目についても、速やかに留保を撤回し国内法を整備することが必要である。

(4)(c)項

5,第5条(法の下の平等、権利享有の無差別)

※(a)項 1963年、埼玉県狭山市で生起した狭山事件に関する裁判において、部落民ならやりかねないとの予断と偏見に基づく裁判がなされている。

(b)項

(c)項

(d)項

(1)部落出身者が部落外に居住しようとすると差別に基づく妨害がある。このような妨害をなくすために教育・啓発を強化するとともに、このような差別を撤廃するための法整備を講じるべきである。

(2)

(3)

※(4)部落出身者が部落外の人と結婚するときに、差別によって妨害される。とくに、興信所・探偵社等調査業者によって身元の調査が行われることによって結婚差別が助長されている。けれども一部の自治体の条例でこの行為が規制されているのみで、国のレベルでは野放しである。結婚における差別を撤廃するための教育・啓発を強化するとともに、調査業者による差別調査を禁止する法整備を行うべきである。

(5)被差別部落の土地の価格が周辺の土地の価格と比較して、極端に安いという差別がある。国ならびに地方自治体は、土地価格における差別を撤廃するための施策を講じるべきである。

(6)

(7)

(8)

(9)

(e)項

※(1)1975年11月に「部落地名総鑑」差別事件が生起した。1998年6月には、「日本アイビー社・リック社による差別調査事件」が発覚した。いずれも、採用にあたって部落出身者を排除することを目的としたものである。けれども、日本では民間企業による採用にあたっての部落差別は禁止されていない。早急に禁止する必要がある。ちなみに、日本は、雇用及び職業における差別を禁止したILO111号条約を批准していない。

(2)

(3)

(4)

※(5)学歴構造に明らかな格差が存在している。また、非識字者が存在している。さらに、高等教育への進学においても明らかな格差が存在している。識字活動を積極的に奨励するとともに、奨学資金制度の拡充を図るべきである。また、情報化社会の到来を踏まえて、デジタルディバイドを防止するためインターネット等を積極的に活用できるよう特別の工夫を講じるべきである。ちなみに、2000年に大阪府によって実施された部落実態調査結果によれば、部落のパソコン所有状況、インターネットの利用状況は、ともに、部落外と比較した時、半数である。(パソコンの所有率:全国38.6%、部落16.9%、インターネット利用状況:全国28.9%、部落14.4%)

(6)

(f)項

6,第6条(人種差別に対する救済)

※・裁判による救済について、狭山事件に関する裁判がある。現在第2次再審請求が棄却され異議申し立てを行っているが、証拠開示、事実調べが行われていないなどの問題がある。自由権規約委員会も証拠開示を求めた勧告をしているが、速やかに全証拠を弁護団に開示すべきである。

※・裁判外の救済機関として、法務省の人権擁護局、人権擁護制度があるが、ほとんどみるべき成果を上げていない。国連の定めたパリ原則を踏まえた実効性のある人権委員会(仮称)を早急に設置すべきである。

※・部落問題に取り組む政府のセクションについて、2000年5月現在、総務庁地域改善対策室が総合調整企画立案を担当しているが、現行「地対財特法」の期限である2002年3月以降、それが廃止されようとしている。けれども、部落差別は現存しており、部落差別が撤廃されるまで、総合調整・企画立案機能を持ったセクションを政府内、例えば2001年1月より新たに開設される内閣府内に設置する必要がある。

※7,第7条(教育文化等の分野における差別撤廃精神の普及)

・同和教育(部落差別を撤廃するための教育)を体制を確立し実施している都道府県は、47都道府県中23に限られている。すべての都道府県で体制を整備し同和教育を実施する必要がある。

・大学で同和教育を実施しているところは、576大学中228(39.6%)にすぎない。すべての大学で同和教育に関する講義を開設すべきである。

・2000年12月に、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が施行されたが、この法律に基づき、すべての都道府県で同和教育を実施するとともに、すべての大学で同和教育に関する講義を開設すべきである。
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(資料(1)−1)

(1)第1条・条約の適用対象―部落差別

1.日本には、政府自らがその撤廃を「国民的課題」とした部落差別が存在する。日本政府は条約に加入するに際して、部落差別への条約の適用を肯定せず、また、本報告書においても部落差別に関する記述は一切みられない。我々は、条約が部落差別に適用されるという立場をとり、従って、政府に対して部落差別への条約の適用を認めるよう求める。このような立場は委員会の実行とも一致すると考える。

2.部落差別について、1965年の内閣同和対策審議会答申では、「いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なお著しく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻な社会問題である。」と規定されていた。

 その後、1969年7月に制定された同和対策事業特別措置法以降今日まで、一連の「特別措置法」に基づく施策により、同和問題は一定の改善をみてきてはいるものの、今日においてもなお深刻な日本の社会問題である。そのことは、1996年の地域改善対策協議会意見具申でも「ひるがえって、我が国固有の人権問題である同和問題は、憲法が保障する基本的人権の侵害にかかる深刻かつ重大な問題である。戦後50年、本格的な対策が始まってからも四半世紀余、同和問題は多くの人々の努力によって、解決にむけて進んでいるものの、残念ながら依然として我が国における重要な課題と言わざるを得ない。その意味で、戦後民主主義の真価が問われていると言えよう。また、国際社会における我が国の果たすべき役割からすれば、まずは足下とも言うべき国内において、同和問題など様々な人権問題を一日も早く解決するよう努力することは、国際的な責務である。」と指摘されている。

3.このように、部落差別が、現在においてなお日本社会が抱える最大の人権問題の1つであることは疑いない。部落差別は通常の意味での人種差別ではないが、我々は、部落差別が、条約第1条第1項が定める「世系」に基づく差別であると考える。この点で、1996年に行われた、インド定期報告書の審議の後に委員会が採択した「最終所見」が想起される。同所見において、委員会は、条約の完全実施を妨げる要因の1つとして「カースト制度」をあげる(A/51/18,para.342)と共に、「条約第1条が規定する『世系』という文言が人種のみを指しているものではない」とし、「指定カースト及び指定部族の状況が条約の適用範囲内のものである」ことを明言している(Ibid.,para352)。

我々は、委員会のこの解釈が、条約に基づいて世界の各地で差別に苦しむ様々な集団を幅広く救済することに資するものとして、これを歓迎し、支持する。前記のように、インドにおけるカースト差別と、日本における部落差別とはその性質を基本的には同じくするものであり、このような委員会の実行に照らせば、部落差別についても当然に条約が適用されるものと考える。加えて、条約が定める様々な人種差別撤廃措置、とりわけ、私的差別の規制措置(第2条第1項(d))、社会的に脆弱な集団に対する積極的措置(第2条第2項)、差別扇動の禁止措置(第4条(a)(b))、差別の効果的な救済(第6条)及び積極的な啓発措置(第7条)などは、部落差別を解消するための措置として有効かつ貴重であり、部落差別の解消に際して条約はきわめて重要な役割を果たすものと考える。このような点からみても、条約と部落差別との関連性は密接である。

4.なお、2000年8月11日、国連の人権の促進及び保護に関する小委員会が「職業と世系に基づく差別に関する決議」を採択し、南アジアのカースト制度に基づく差別、日本の部落差別、アフリカにおける類似の差別を国際人権法によって禁止された差別であり、各国政府は、これらの差別を撤廃するための法的・行政的措置を講じること、これらの差別を行う個人や団体に対する適切な法的処罰や規制を実施することなどを求めた決議を採択している。(資料(1)−2)(E.CN4/Sub2.2000/L.14)

5.以上のことから、我々は、日本政府に対して次の2点を求める。

(1)日本政府は、部落差別への条約の適用を認めるべきである。

(2)日本政府は、条約の文言及び趣旨に従い、部落差別の撤廃のために一層の努力を行うべきである。
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【参考】部落問題の解説

(1)1965年の内閣同和対策審議会答申では、「いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なお、著しく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻な社会問題である。」と規定されていた。

(2)その後、1969年7月に制定された同和対策事業特別措置法以降今日まで、一連の「特別措置法」に基づく施策により、同和問題は一定の改善をみてきてはいるものの、今日においてもなお深刻な日本の社会問題である。そのことは、1996年の地域改善対策協議会意見具申でも「ひるがえって、我が国固有の人権問題である同和問題は、憲法が保障する基本的人権の侵害に係る深刻かつ重大な問題である。戦後50年、本格的な対策が始まってからも四半世紀余、同和問題は多くの人々の努力によって、解決へ向けて進んでいるものの、残念ながら依然として我が国における重要な課題と言わざるを得ない。その意味で、戦後民主主義の真価が問われていると言えよう。また、国際社会における我が国の果たすべき役割からすれば、まずは足元とも言うべき国内において、同和問題など様々な人権問題を一日も早く解決するよう努力することは、国際的な責務である。」と指摘されている。

(3)なお、部落差別の具体的な現状については、上記96年の地対協意見具申の中で「実態調査の結果からみて、これまでの対策は生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備がおおむね完了するなど着実に成果をあげ、様々な面で存在していた較差は大きく改善された。しかし、高等学校や大学への進学率にみられるような教育の問題、これと密接に関連する不安定就労の問題、産業面の問題など、較差がなお存在している分野がみられる。差別意識は着実に解消へ向けて進んでいるものの結婚問題を中心に依然として根深く存在している。また、人権侵害が生じている状況もみられ、その際の人権擁護機関の対応はなお十分なものとは言えない。さらに、適正化対策もなお不十分な状況である。」と、概括されている。

(4)被差別部落出身者に対する差別は、上述したようになお深刻な状況下にあるにもかかわらず、近年の政府の対応は、消極的なものとなってきている。たとえば、現行の「特別措置法」は、2002年3月末をもって期限切れを迎える。政府は、その後「特別措置法」の延長はしないとの態度をとっている。けれども、2002年3月以降、被差別部落出身者に対する差別を撤廃するための政府としての基本方針を確立するためには、少なくとも部落差別の現状に関する実態調査が必要であるが、現在までのところその計画はない。

(5)なお、1993年に総務庁地域改善対策室によって実施された同和地区実態把握等調査(以下「93年政府調査」と略)によれば、地域改善対策事業が実施されている地区は、4,442地区で、そこに居住する同和関係者の世帯数は、298,385世帯、同和関係者の人口は、892,751人である。しかしながら、現実には6000カ所を超す部落が存在し、被差別部落民の人口は300万人を超すものと思われる。
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【注】

(1)同和問題・・・被差別部落出身者に対する差別問題を指す行政用語

(2)同和関係者・・・被差別部落出身者を指す行政用語

(3)同和地区・・・被差別部落(被差別部落出身者が住む集落)を指す行政用語

(4)地域改善対策事業・・・被差別部落並びに被差別部落出身者がおかれている低位な状況を改善するための行政施策を指す行政用語(同和対策事業とも呼ぶ)