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掲載日:2001.9.18

国連・人種差別撤廃委員会「最終所見」日本語訳(2001.4.2版)

人種差別撤廃委員会 第58会期 2001年3月6-23日
CERD/C/58/Misc.17/Rev.3(将来的にはCERD/C/58/CRP)
2001年3月20日 オリジナル:英語

人種差別撤廃委員会最終所見:日本

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1.委員会は、1997年1月14日および1999年1月14日にそれぞれ提出が予定されていた日本の第1回および第2回定期報告書を、2001年3月8日および9日に開催された第1443回および1444回会合(CERD/C/SR.1443 and 1444)において検討した。委員会は、2001年3月20日に開催された第1459回会合において、以下の最終所見を採択した。

A.はじめに

2.締約国との建設的対話を開始する機会を得たことをとくに歓迎する。委員会は、幅広い政府省庁を代表する大代表団が出席したこと、および、締約国が認めたようにNGOが第1回報告書の作成の過程に関与したことによっても力を得た。

3.委員会は、報告書の作成のためのガイドラインに従って作成され、締約国により提出された詳細で包括的な報告書、および委員会の委員が行った広範囲の質問に対する回答として代表団が提供した口頭による追加情報を歓迎する。委員会はまた、報告書の検討後に提供された文書による追加回答をも歓迎する。
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B.肯定的な側面

4.委員会は、いくらかの種族的および民族的マイノリティの人権の促進、ならびにその経済的、社会的および文化的発展の促進のために締約国が行った立法上および行政上の努力、とくに以下の努力を歓迎する。(1)1997年の「人権擁護施策推進法」、(2)1997年の「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」、(3)部落民に対する差別の撤廃を目的とした、同和対策事業のための一連の特別措置法。

5.委員会は、アイヌ民族(the Ainu people)をその独特の文化を享受する権利を有する少数民族(a minority people)であると認定した最近の判決を関心をもって留意する。

6.委員会は、とくに外務省のウェブサイトにおいて「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」を含む基本的な人権条約の全文を公表していることを含め、既存の人権基準についての意識を喚起するために行っている努力を歓迎する。委員会はまた、諸条約の実施に関する締約国の報告書および国連の各履行監視機構の最終所見についても同様の普及を行っていることをも歓迎する。
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C.懸念事項および勧告

7. 人口の民族的構成の確定に際して生ずる諸問題についての締約国の見解に留意する一方で、委員会は、締約国の報告書にはこの点に関する情報が欠如していると認定する。

締約国が次回の報告書において、委員会の報告書作成ガイドラインが求めるところに従い、人口構成の十分に詳細な情報、とくに、韓国・朝鮮人マイノリティ、部落民および沖縄人集団を含む、条約の適用対象となるすべてのマイノリティの状況を反映した経済的および社会的指標に関する情報を提供するよう勧告する。

沖縄の住民は、独自の民族集団であることを認められるよう求め、この島が置かれている現状が沖縄住民に対する差別行為をもたらしていると主張している。

8.条約第1条に規定されている人種差別の定義の解釈に関して、委員会は、締約国とは反対に、「世系(descent)」という文言が独自の意味をもち、人種や種族的出身、民族的出身と混同されてはならないと考える。

したがって、委員会は締約国に対して、部落の人びとを含むすべての集団が、差別に対する保護、および条約第5条に規定されている市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利の完全な享受を確保するよう勧告する。

9.憲法第98条が締約国によって批准された諸条約が国内法の一部である旨を規定しているにもかかわらず、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の規定が国内裁判所によってほとんど援用されていないことについて、委員会は懸念をもって留意する。

条約の諸規定の直接適用が、個々の特定の事案において関係する規定の目的、意味および文言を考慮して判断されるとする締約国からの情報に照らして、委員会は、国内法における「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」およびその規定の地位を明確にする情報を締約国に求める。

10.委員会は、締約国の法律においてこの条約に関連する唯一の規定が憲法第14条であることを懸念する。この条約が自動執行性を有さないという事実を考慮し、委員会は、とくに条約第4条および第5条の規定に従い、人種差別を禁止する特別法の制定が必要であると信ずる。

11.委員会は、条約第4条(a)および(b)に関して締約国が維持している留保、すなわち、「日本国は・・・、日本国憲法の下における集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において、これらの規定に基づく義務を履行する」とする留保に留意する。

委員会は当該解釈が条約第4条に基づく締約国の義務と抵触することに懸念を表明する。委員会は、委員会の「一般的な性格を有する勧告7(32)」および同「15(42)」に締約国の注意を喚起する。これらの勧告によれば、第4条のすべての規定が非自動執行的であることに鑑み同条は事情のいかんを問わず実施されるべき性格をもつ規定であり、また、人種的優越または憎悪に基づくあらゆる思想の流布の禁止は、意見および表現の自由についての権利と両立する。

12.人種差別の禁止一般に関し、委員会は、さらに、人種差別それ自体が刑法において明示的かつ十分に犯罪とされていないことを懸念する。

委員会は締約国に対して、その国内法秩序においてこの条約の諸規定を完全に実現することを検討すること、ならびに、人種差別を犯罪とするよう確保すること、およびいかなる人種差別行為に対しても権限のある国内裁判所および他の国家機関を通じて効果的な保護と救済措置を利用する機会を確保することを勧告する。

13.委員会は、高い地位にある公務員による差別的な性格を有する発言、ならびに、とくに、条約第4条(c)の違反の結果として当局がとるべき行政上または法律上の措置がとられていないこと、および当該行為が人種差別を扇動し助長する意図がある場合にのみ処罰されうるという解釈に懸念をもって留意する。

締約国に対し、かかる事件の再発を防止するための適切な措置をとること、とくに公務員、法執行官および行政官に対し、条約第7条に従い人種差別につながる偏見と闘う目的で適切な訓練を行うよう求める。

14.委員会は、韓国・朝鮮人(主に子どもや児童・生徒)に対する暴力行為の報告、およびこの点における当局の不十分な対応を懸念し、政府が同様の行為を防止し、それに対抗するためのより断固とした措置をとるよう勧告する。

15.日本に居住する外国籍の子どもに関して、委員会は、初等教育および前期中等教育が義務教育となっていないことに留意する。さらに、委員会は締約国の次の立場に留意する。すなわち、「日本における初等教育の目的は、日本人をその社会のメンバーとなるように教育することにあるから、外国人の児童にかかる教育を受けるよう強制することは適切ではない」という立場である。

委員会は、統合という目的を確保するために強制手段を用いることが全く不適切なものであるという考え方に同意する。しかしながら、第3条および第5条(e)(v)に関し、委員会は、この点に関して異なった取扱基準を設けることが、人種隔離ならびに教育、訓練および雇用についての権利の不平等な享受をもたらすおそれがあることを懸念する。

締約国が、人種、皮膚の色または民族的若しくは種族的出身による差別なしに第5条(e)が規定する関連する権利の保障を確保するよう勧告する。

16.委員会は、韓国・朝鮮人マイノリティに影響を及ぼす差別を懸念する。朝鮮学校を含むインターナショナルスクールを卒業したマイノリティに属する生徒が日本の大学に入学することへの制度的な障害のいくつかのものを取り除く努力が行われているものの、委員会は、とくに、朝鮮語による学習が認められていないこと、および在日韓国・朝鮮人の生徒が上級学校への進学に関して不平等な取扱いを受けていることを懸念する。

締約国に対して、この点における韓国・朝鮮人を含むマイノリティの差別的取扱いを撤廃し、公立の学校におけるマイノリティの言語による教育を受ける機会を確保するため、適切な措置とるよう勧告する。

17.委員会は、締約国が先住民族としてアイヌ民族が有する権利をより一層促進するための措置をとるよう勧告する。この点に関し、委員会は、とくに、土地権の承認および保護、ならびに失われたものに対する原状回復および賠償を求める、先住民族の権利に関する「一般的な性格を有する勧告23(51)」に締約国の注意を喚起する。

また、締約国に対して、「先住民族および種族民族に関するILO第169号条約」を批准し、またはそれを指針として用いるよう要請する。

18.日本の国籍を申請する韓国・朝鮮人に対して、自己の名前を日本流の名前に変更することを求める行政上または法律上の義務はもはや存在していないことに留意しつつ、委員会は、当局が申請者に対しかかる変更を求めて続けていると報告されていること、および、コリアンが差別をおそれて、そのような変更を行わざるを得ないと感じていることを懸念する。

委員会は、個人の名前が文化的および民族的アイデンティティの基本的な一側面であることを考慮し、締約国が、かかる慣行を防止するために必要な措置をとるよう勧告する。

19.委員会は、締約国が受け入れる難民の数が最近増加していることに留意しつつ、インドシナ難民と、その他の民族的出身を有する限定された数の難民に対して異なった取扱基準が適用されていることを懸念する。インドシナ難民は滞在・居住施設、財政支援および国が資金を負担する日本語講座を利用しうる一方で、他の難民はかかる支援を原則として利用することはできない。

委員会は、締約国に対して、すべての難民がこのようなサービスを平等に受けることができるよう確保するために必要な措置をとることを勧告する。これに関し、さらに、すべての庇護申請者がとくに、十分な生活水準および医療についての権利を有するよう確保することを締約国に勧告する。

20.委員会は、国家賠償法が相互主義に基づいてのみ救済を与えていることを懸念する。これは条約第6条に合致しない。

21.委員会は、締約国に対して、今後の報告書において、とくに、条約違反にとくに関係する判例を、当該違反に対して裁判所が与えた適切な賠償に関する判例をも含めて提供することを求める。

22.委員会は、締約国が次回の報告書に、ジェンダーならびに民族的および種族的集団ごとの社会・経済的データ、ならびに性的搾取および性的暴力を含むジェンダー関連の人種差別を防止するためにとった措置に関する情報を含めるよう勧告する。

23.また、締約国が次回の報告書において次のものがもたらした影響に関する一層の情報を提供するよう求める。(1)1997年の「人権擁護施策推進法」ならびに「人権擁護推進審議会」の活動および権限、(2)1997年の「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」、および(3)「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」および同法の適用終了後、すなわち2002年以降に、部落民に対する差別の撤廃のために検討されている戦略。

24.締約国が条約第14条に定める宣言を行っていないことに留意し、委員会は、当該宣言を行う可能性を検討するよう勧告する。

25.委員会は、締約国が、第14回条約締約国会合が1992年1月15日に採択した条約第8条第6項改正を批准するよう勧告する。

26.委員会は、締約国の報告書の提出以降に今後も当該報告書を一般の人々が容易に入手できるようにすること、および報告書に関する委員会の所見についても同様に公表することを勧告する。

27.委員会は、締約国が、その第3回定期報告書を、2003年1月14日までに提出する予定の第4回報告書とあわせて提出すること、およびこの所見において提起されたすべての諸点に触れることを勧告する。
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翻訳:反差別国際運動日本委員会
監訳:村上正直<大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授>
IMADRジュネーブ事務所 田中敦子

* この翻訳にあたっては、2001年3月21日に発信した翻訳文について寄せられたコメントおよびアドヴァイス、とくに、上村英明氏、友永健三氏、苑原俊明氏、東澤靖氏、大谷美紀子氏、金東勲氏および藤岡美恵子氏(順不同)のそれを考慮した。

また、この翻訳の他に、RAIK国際人権部会が3月29日付けで公表した翻訳があり、この翻訳に際して参考にさせていただいた。すべての諸氏に対して記して感謝する次第である。ただし、この翻訳に誤りがあるとすれば、それはすべて翻訳・監訳者の責任である。
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翻訳の経緯

 この翻訳は、2001年3月21日付けでIMADR-JCが発信しました翻訳の訂正版です。21日は、「ダーバン2001」の立ち上げ記者会見や政府との意見交換会があるというスケジュールだったために、同日の未明に送付されてきた原文をIMADRのスタッフが出勤前までに翻訳案を作成し、それを村上正直が手直しするという方法で翻訳を行いました。

21日は、できるだけ早く日本語で皆さんにお届けすることを最優先に、限られた時間の中で慌ただしい作業を行いました。そのため、同日付の翻訳文には誤訳や不十分な訳がありました。この点についてお詫び申し上げます。ここに再度検討した翻訳文をお送りします。まだまだ誤りや不適切な点があるかと存じます。ご教示を頂戴できれば幸いです。