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掲載日:2001.9.18

被差別部落出身者に対する差別に関して

2000.11
友永健三(部落解放・人権研究所)

■被差別部落の実態と社会的弱者対策

1、問題点

民衆の分裂支配という政策目的に沿って、中世の差別を手がかりに、17世紀初頭に固定された身分階層の一環として賤民身分が形成された。身分間の移動は許されず、賤民身分の人びとは、死牛馬の処理などの特定の職業に携わることを余儀なくされ、下級刑吏の仕事を負担され、居住区域も制限され、そこが後に「部落」と称されるようになった。

政府報告書にいう「同和関係者」とはこの部落出身者をさす。従来、部落問題の研究者の間では、全国に6000ヶ所の部落が存在し、部落出身者の人口は300万にのぼるとされてきた。生活水準などに現われる部落差別は徐々に改善されてきたものの、教育、就職、結婚、職業選択、居住などさまざまな領域で差別はいまだに存在している。

しかし、第1部の社会的弱者対策の項では、日本における社会的弱者集団の中で、重要な問題の一つである被差別部落出身者に対する問題があるにもかかわらず、ふれられていない。

2、背景・理由・根拠

・1965年の内閣同和対策審議会答申では、「いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なお著しく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻な社会問題である。」と規定されていた。

・その後、1969年7月に制定された同和対策事業特別措置法以降今日まで、一連の「特別措置法」に基づく施策により、同和問題は一定の改善をみてきてはいるものの、今日においてもなお深刻な日本の社会問題である。

そのことは、1996年の地域改善対策協議会意見具申でも「ひるがえって、我が国固有の人権問題である同和問題は、憲法が保障する基本的人権の侵害にかかる深刻かつ重大な問題である。戦後50年、本格的な対策が始まってからも四半世紀余、同和問題は多くの人びとの努力によって、解決へ向けて進んでいるものの、残念ながら依然として我が国における重要な課題と言わざるを得ない。」、「また、国際社会における我が国の果たすべき役割からすれば、まずは足元とも言うべき国内において、同和問題など様々な人権問題を一日も早く解決するよう努力することは、国際的な責務である。」と指摘されている。

・被差別部落出身者に対する差別は、長期不況の影響もあって、なお深刻な状況下にあるにもかかわらず、近年の政府の対応は、消極的なものとなってきている。

たとえば、現行の「特別措置法」は、2002年3月末を持って期限切れを迎える。政府は、その後「特別措置法」の延長はしないとの態度をとっている。少なくとも部落実態調査の早期実施が必要であるが、現在までのところその計画はない。

3、提言

・以上の点から、日本政府の第2回報告書の中でも、第1部総論 7社会的弱者の中で、概括的に被差別部落出身者に対する差別についてふれる必要がある。

・「特別措置法」期限切れを迎える2002年3月以降、被差別部落出身者に対する差別を撤廃するための政府としての基本方針を確立するために、少なくとも部落実態調査の早期実施が必要である。
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■被差別部落出身者に対する就職差別と雇用機会の均等確保

1、問題点

政府報告書の第2部の第6条との関連での、雇用機会の均等確保の項では、「同和関係者」として明示的に触られているが、被差別部落出身者に対する具体的な就職差別の実態はふれられていない。また、被差別部落出身者に対する就職差別を禁止した法律が存在していないことがふれられていない。

2、背景・理由・根拠
・一般的に言って、就職差別は表面化しにくいと言う特色を持っている。けれども、毎年何件か被差別部落出身者に対する就職差別が発覚している。

そのうち、大規模な事件の一つがが、1975年に発覚してきた「部落地名総鑑差別事件」である。この事件では、日本を代表する大手企業を中心に200社を越す企業が「部落地名総鑑」を購入し、差別をしていた。この事件を追及する取り組みの中で、就職差別を禁止したILO111号条約の早期批准と国内法整備が求められた。

・それ以降、本年で4分の1世紀が経過したが、日本では、未だにILO111号条約の批准と国内法整備はなされていない。この間も、被差別部落出身者に対する就職差別は継続している。

たとえば、1998年6月、「差別身元調査事件」が発覚した。この事件は、「部落地名総鑑差別事件」に勝るとも劣らない深刻な事件である。およそ1400社が経営コンサルタントを標榜する企業の会員となり、今日判明しているだけでもおよそ700社が採用にかかわった調査を依頼していた。

その結果、被差別部落出身者はもとより、在日韓国・朝鮮人、創価学会会員、労働組合活動家かどうかの調査が秘密裏に行われ、就職差別が行われていたことが判明してきている。

3、提言
・75年「部落地名総鑑差別事件」発覚時点で、ILO111号条約を批准し就職差別を禁止する国内法整備をしていたならば、今回の事件は防げていたであろう。こうした事件を踏まえ、ただちに、ILO111号条約を批准し、国内法を整備すべきである。
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■被差別部落出身者に対する結婚差別と婚姻の自由

1、問題点

政府報告書では第10条1.家族の保護(3)婚姻の自由で、「いまだ一部に、婚姻に際して家柄や社会的身分などを問題とするような前近代的な態度、慣習が残っていることは否めない。

我が国の人権擁護機関は、このような態度や慣習を解消するため、各種の啓発活動を行い、憲法第24条の趣旨が国民の間により一層浸透するようつとめている。」との報告をしている。

けれども、この報告では、部落差別に基づく結婚差別の深刻な実態が明らかにされていない。

さらに、こうした結婚差別には、おうおうにして興信所や探偵社などの調査業者が介在していることがふれられておらず、差別調査に対する法的規制がないことも指摘されていない。

2、背景・理由・根拠
・被差別部落出身者に対する差別の中でも、結婚差別はもっとも深刻で根深いものである。今日なおも、結婚差別によって自殺に追い込まれる被差別部落の青年男女があとを絶たないし、自殺を思いとどまったとしても心に深い傷を負っている若者は少なくない。

・このような深刻な結末をもたらす結婚差別を根絶するためには、教育・啓発をはじめ種々な方策が必要である。なかでも、営利のために専門的に行われる興信所・探偵社等調査業者による差別調査に対する法的規制は、きわめて重要な意義を持っている。(被差別部落出身者に対する差別は、過去の身分を手がかりにした差別であるため、被差別部落出身者かどうかは、外見上では区別は付かない。そのため、現在の居住地や先祖の出身地を専門的に調査し、そこが被差別部落ではないかどうかの調査が行われる。)

・けれども、現状では、47都道府県中、大阪府や福岡県等5府県で部落差別調査を規制する条例はあるものの、国のレベルでの禁止法は存在していない。

3、提言
・婚姻における部落差別の不当性を学校教育、社会教育、生涯学習等を通して普及・宣伝すること。

・興信所・探偵社等調査業者による部落差別調査を規制する条例を各都道府県レベルで制定するとともに、国レベルでの規制法を制定すべきである。
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■被差別部落出身者の教育面での格差と教育の権利

1、問題点


教育面での全国平均との格差は歴然としているにもかかわらず、政府報告書では、被差別部落出身者がおかれている差別の実態をふまえた記述は欠落している。

2、背景・理由・根拠
・被差別部落出身者に対する差別の撤廃にとって、教育の機会均等を保障することは決定的に重要な意義を持っている。

・けれども、教育面での全国平均との格差は歴然としている。たとえば、「93年政府調査」の中の、学歴構造を見ても明らかである。

・もちろん、69年以降の「特別措置法」に基づく一連の施策、とくに特別の奨学資金制度の導入によって、被差別部落出身者の中等・高等教育への進学状況は改善されてきている。

・けれども、未だに格差は存在している。たとえば、中等教育段階でも数ポイントの格差が開いたままである。但し、被差別部落出身者の場合、中途退学者が多いため卒業時点で調査すると10ポイント程度の格差となる。)また、高等教育段階では、全国平均の6割程度しか進学していない。

・従って、今後も引き続き、被差別部落出身者に対する教育の機会均等を保障するための積極的な施策が求められているが、現行「特別措置法」の期限である2002年3月末を持って、特別の奨学資金制度は廃止されることとなっている。これでは、再び被差別部落出身者の置かれている教育水準が後退するのではないかとの危惧が各方面から寄せられている。

・さらに、被差別部落の高齢者を中心に、不就学や未就学の比率が高く、非識字者が多い。このため、各部落で識字教室などが開かれているが、今後ともこれを継続するとともに、情報化社会への対応など充実させる必要がある。けれども、政府報告書では、これに関する記述が欠落している。

3、提言
・被差別部落出身者に対して、教育、とくに基礎教育、後期中等教育(高校)、および高等教育への平等なアクセスの権利を保障するため、積極的是正措置を始めとするあらゆる必要な措置をとるべきである。

・被差別部落における非識字者に対する識字教室の取り組みを継続発展させるべきである。

・デジタル・ディバイドを防ぐため、インターネット通信が可能なパソコンを隣保館等被差別部落のコミュニティーセンターに配備し、講習事業を開講することが必要である。