要約
国連事務総長はここに、「国連識字の10年:万人のための教育」と題された2001年12月19日の国連総会決議56/116に従って、ユネスコ事務局長の報告を通達する。 この報告は万人のための教育を目指す国連識字の10年の行動計画についてのもので、実りある10年を実現するための諸提案が盛り込まれている。
決議56/116の中で、国連総会は、西暦2003〜2012年を万人のための教育を目標とする「国連識字の10年」として宣言した。 決議の中で、総会は、すでに決議54/122でも要請していた、国連識字の10年のための起草提案と計画(A/56/114および付録1-E/2001/93および付録1)に留意し、国連識字の10年の枠組みの中で、国際的レベルでの活動を刺激し活性化する際の主たる調整役を、ユネスコが担うべきであると決定した。
行動計画案は決議56/116の11項に従って作られたが、この決議に際して、国連総会は、第57会期に、提案すべき明確な目標を持った行動指向型の計画を作り上げるために、ユネスコ事務局長と協力のもと、事務総長が、各国政府や関連国際機関に、国連識字の10年のための行動計画案について意見や提案を求めるよう要請した。
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目次
- はじめに
- 万人のための識字:その展望
- 優先されるグループ
- 期待される結果
- 主要な戦略
- 行動をとるべき重点領域
- 政策
- プログラムの様式
- 能力形成
- 研究
- コミュニティの参加
- 監視と評価
- 国レベルでの実施
- 資源の動員
- 国際的支援と調整
付録
- 国レベルでの実施のためのチェックリスト例
- 国連識字の10年のための時間枠の例
I. はじめに
1. 総会は第56会期において「国連識字の10年:万人のための教育」と題した決議56/116を採択し、「万人のための教育」をめざして、2003〜2012年を「国連識字の10年」とすると宣言した。「国連識字の10年」のための提案は、総会の第54会期(決議54/122参照)において提出され、2000年にダカールで開かれた世界教育フォーラムで招集された会議で支持され、さらに2000年にジュネーブで開かれた総会の特別会期において改めて確認された。 総会第56会期において出された「国連識字の10年」の宣言は、2002年4月22日に出された教育の権利についての決議2002/23の中で、国連人権委員会にも歓迎された。
2. 決議56/116の前文において、国連総会は、識字は、すべての青少年と成人にとって、生活の中で直面するさまざまな問題に立ち向かうことができるようにするための基本的な生活能力の獲得に不可欠であり、21世紀の社会・経済にうまく参加するために必要な手段となる基礎教育において重要なステップとなると確信すると述べている。 また、決議は、「万人のための識字」は万人のための基礎教育の中心となるものであると再確認し、 読み書きのできる環境や社会を創ることは、貧困撲滅、子どもの死亡率減少、人口増加抑制、男女平等の達成、持続可能な開発・平和・民主主義を確保するために重要であると再確認することで、「万人のための識字」という概念を支持している。
3. 「国連識字の10年」は、「万人のための教育」の不可欠な要素として、ダカール行動枠組みの6つの目標すべてを達成するための基盤と刺激を提供するであろう。(註3) 識字は、6つの目標すべてに関わる課題である。 すべての人が安定した持続的な識字能力を獲得することは、人々が生涯を通じてさまざまな学習機会に積極的に参加できることを保障するであろう。 「万人のための識字」は、すべての人にとって生涯学習のための基盤となり、個人やそのコミュニティをエンパワーする道具となる。
ダカール行動枠組みの6つの目標
- 特に、最も弱く、不利な立場におかれた子どもたちのために配慮して、総合的な幼児期のケアや教育を拡大・改善していくこと。
- 2015年までに、すべての子ども、特に、女子、困難な環境に置かれている子どもたち、およびエスニック・マイノリティ(少数民族)の子どもたちが、無償で良質な初等義務教育を受けて修了することができるよう保障すること。
- 適切な学習および生活技能を獲得するためのプログラムに公平にアクセスできることで、すべての若者や成人の学習ニーズが満たされるように保障すること。
- 2015年までに、成人、特に女性の識字率を50パーセント引き上げ、すべての成人が基礎教育と継続教育への平等な機会を得られるようにすること。
- 女子が、良質の基礎教育を平等かつ十分に受けられる機会とその修学の達成を保障することに重点を置きながら、2005年までに初等・中等教育におけるジェンダーによる格差をなくし、2015年までに教育における男女平等を達成すること。
- 教育の質をすべての側面から高め、特に識字、計算能力、および基本的生活技能において、すべての人が認識できて進歩を測れるような学びの結果を得られるように、すべての教育の卓越性を保障すること。
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4. 行動計画は、「国連識字の10年」のための起草提案と計画(A/56/114および付録1-E/2001/93および付録1)に基づき、「万人のための教育」を推し進めるための「識字の10年」を成功裏に実施するための基本的な要件と行動の焦点を明示している。 それは、各国政府、地域社会、個人、非政府組織(NGO)、大学、公的機関、民間団体、市民社会などが広く連合して行う行動を刺激することをめざしている。 また、地球規模の取り組みを強化するために、国際機関や各国政府を動員することをめざしている。
II. 万人のための識字:その展望
5. IT革命によるコミュニケーション手段の使用が進むに従い、今日の知識社会が急速に変化する世界で、識字の必要性は確実に高まり続けている。 今日グローバル化した世界で生き残るために、すべての人々にとって、新しい識字を学び、多様な方法で、情報を探し当て、評価し、効果的に活用する能力を高めることが必要になった。 「国連識字の10年のための提案と計画」の第8項で示されているように、「今日の識字政策およびプログラムは、これまで支配的であった識字の限定された捉え方をはるかに超えるものをめざしている。 「万人のための識字」には、識字の新たなヴィジョンが必要である・・・」。
6. 「識字の10年」の展望は、「万人のための識字」を「万人のための教育」の中心に位置付けるものである。 識字は、教育のすべての段階、フォーマル(学校教育など)、ノンフォーマル(社会教育など)、インフォーマル(家庭教育など)といった形にかかわらず、特にあらゆる手段で供給される基礎教育にとっては、中心となるものである。 「万人のための識字」は、先進国と途上国、都市と地方、学校と学校外、成人と子ども、少年と少女、および男女の違いを超えて、すべての場面や状況における人類すべての教育的必要性を包含するものである。
7. 「万人のための識字」は、すべての国の、すべての人々の、経済的、社会的、文化的発展の目
標にあわせて、家族や個人の識字ニーズ、 また社会や国家および職場や地域における識字に答えなければならない。 「万人のための識字」は、ジェンダー間の公平と平等を保障し、地域社会や集団の学習意欲を満たしながら、地域の言語・文化の状況にあわせて計画・実行すれば、効果的に達成されるであろう。 識字は開発とともに個人・社会的生活のさまざまな側面に関連づけられなければならない。 従って、識字のための努力は、多様な領域にまたがる経済的、社会的、文化的政策の総合的なパッケージに関連づけられなければならない。 また、識字政策は、識字能力獲得における母語の重要性を認識し、必要に応じて多言語による識字を提供しなければならない。
III. 優先されるグループ
8. 「万人のための識字」はさまざまな優先されるグループに焦点を当てる。 途上国において、特に女性の識字が早急に取り組まれなければならない。 優先されるグループは次の人々である。
- 個人としての発達や、生活の質的向上のために識字を使う適切な能力を得ることができなかった、非識字青年と成人、特に女性。
- 学校に来ていない子どもたち、若者、特に少女、思春期の少女や若い女性。
- 成人非識字者とならないようにするため、学校には来ているが、質の高い学習が得られない子どもたち。
上に挙げられた優先される人々の中で、ある種のより不利益を受けているグループ、とりわけ、エスニック(民族的)・言語的マイノリティや、先住の人々、移民、難民、障害のある人々、高齢者、就学前の子どもたち、特に幼児期のケアや教育をほとんど、または全く受けていない子どもたちについては、早急に特別な方策が必要である。
IV. 期待される結果
9. 各国政府や、地方当局、国際機関などすべての関係者は、「識字の10年」が終了するまでに、「万人のための教育」を推進する「万人のための識字」が、以下の結果を生むように保障するものとする。
- 2015年ダカール目標の3,4,5に向けての重要な進歩、とりわけ、識字人口の絶対数の顕著な増加を次の対象について達成する。
- 女性 --- ジェンダー間の格差縮小を伴って
- 高い識字率を持つとされている国々において疎外されているグループ
- 例えば、サハラ以南アフリカ、南アジア、E-9の国々のような、最も高いニ—ズを有する地域
- 学校で学ぶ子どもたちをはじめ、すべての学習者が、読み書き、計算、批判的思考、肯定的な市民としての価値観、およびその他の生活技能を学習によって身につけることができるようにする。
- 「識字の10年」の期間を超えて識字が維持・拡大されていくことをめざして、特に優先されるグループが属する学校や地域において、力強い識字環境を作る。
- 「万人のための教育」をめざしてさまざまな教育プログラムに参加してきた人々に、生活の質的向上(貧困の減少、収入の増加、健康増進、社会参加の拡大、市民意識、ジェンダーに敏感であること)が見られるようにする。
V. 主要な戦略
10. 上記の結果を得るために、それらを獲得・維持していくのに不可欠であるにもかかわらずまだ一般的に見過ごされている主な戦略として、次のような行動に焦点をあてることが、「識字の10年」の実施過程には必要である。
- 識字を、国の教育制度のすべての段階や開発の取り組みの中心に据えること。
- フォーマルな教育とノンフォーマルな教育の相乗効果を期待して、双方を対等に重視し、共に活かしたアプローチを採用すること。
- 識字の活用を支援する環境と、学校や地域における読みの文化を推進すること。
- 識字プログラムへのコミュニティの参加や自主運営を確保すること。
- すべてのレベル、とりわけ国レベルで、政府、市民社会、民間、地域社会などの間でパートナ ーシップを築くこと。 また、小地域、地域、また国際社会においても同様のパートナーシップを築くこと。
- すべてのレベルで、調査成果やデータベースに基づく監視・評価を行うシステムを作ること。
VI. 行動をとるべき重点領域
11. 「万人のための識字」をめざす「識字の10年」を成功させるためには、前述の主要な戦略を、すべての場において、お互いに調整・補完するような行動を通じて現実に実施しなければならない。 行動をとるべき重点領域は、政策、 プログラムの様式、能力育成、研究活動、コミュニティの参加、監視と評価などにわたる。 すべての活動において、男女平等という観点がすみずみまで行き渡るよう強調されなければならない。
A. 政策
12. 識字の推進を中心に位置付けるような政策環境を、さまざまなコミュニティ、セクター、機関や省庁を横断して作り上げるために実行すべき項目は次の通りである。
- フォーマル、ノンフォーマル、インフォーマルな教育において識字プログラムを促進するために、民間セクター、市民社会、および個人の役割を明らかにしながら、資金計画と複数の省庁の協働を確保するような政策枠組みと誘導的な計画を作る。
- 識字政策への活力提供者としてコミュニティ(地域を基盤とした組織、家族、個人など)、市民社会の組織、大学や研究所、マスメディア、民間セクターを引き込む。
- 状況にあわせた識字環境を開発するための枠組みを提供する。例えば、
- 言語・多文化教育を進める。
- 地域に根づいた文学作品の創造を奨励する。
- 出版産業の参加を勧め、万人のための読みへ向けて地域図書館を設立支援する。
- 表現の自由を促進するとともに、新聞、ラジオ、テレビや他の情報伝達機器など、表現やコミュニケーションのための手段の利用を拡大する。
- 「万人のための教育」計画とセクター全体アプローチなどの教育に関する議論と同様に、識字を、例えば、一般国家アセスメントや国連開発支援枠組みのような貧困縮小戦略に関する文書や省庁間の協力などの貧困の縮小に関わる広範な議論の一部として捉える。
- 識字の推進は、健康、農業、地方および都市部の発展、衝突や危機の回避、紛争後の再建、HIV感染やエイズの予防、環境、その他セクターを越えた諸問題に関連する教育を計画・実施する際、不可欠であることを確認する。
- 識字の問題を、例えば、国連首脳会議、主要8カ国首脳会議、OECD、文部大臣会議、およびアフリカの発展のためのニューパートナーシップや国家発展協議会のような地域連携機構など、国、小地域、地域、および国際社会の各レベルで開かれる発展や教育に関するフォーラムの議題として挙げる。
B プログラムの様式
13. 「万人のための識字」と「万人のための教育」の目標は、学校の内外を超えてすべての年齢層にわたるものなので、それらを達成するために、識字プログラムは、生涯に渡り、生涯学習を可能にするものであり、ジェンダーに敏感なものでなければならず、フォーマルおよびノンフォーマルなアプローチを通じて取り組む必要がある。 すでに活用できる識字プログラムの上に積み上げられるべきであると同時に、将来の識字の必要性を予測して、より新しい識字プログラムも加えていくべきである。 従って、次の行動をとる必要を認識することが大切である。
- 幼児から成人までさまざまな年齢層に向けて、読み書き、計算などの基本的な識字能力の獲得に加え、識字を有意義に活用することをめざすプログラムを作り出す。 そのようなプログラムは、幼児向けの識字の準備段階から、家族の識字、および小学生、中途退学者、学校に行っていない青少年、非識字青年・成人すべての識字を対象とし、次のような内容で取り組まれている。
- 職業技能の向上と雇用に関わる識字
- 情報伝達技術に関する識字を含む、様々な対象者の事情にあわせた、識字後、および継続教育のプログラム
- メディアリテラシーを含む情報リテラシー、法リテラシーおよび科学リテラシー
- 学習者のニーズに応え、識字環境を支援することで、学習者の意欲を高めるようなプログラムをつくる。 次に挙げる取り組みはこの目的で提案するものである。
- 情報・伝達技術の活用を含むさまざまな提供手段を開発する。
- その地域の言語や知識、文化に基づいた、ジェンダーに敏感な内容や教材や方法を開発する。
- 健康教育、農業についての拡張教育、所得創出計画など、他の分野の識字指導と統合する。
- 子どもや成人に対して、母語と第二言語による読みの教材が、学校やコミュニティで手に入るようにする。
- 次のことを通じて、フォーマルな教育とノンフォーマルな教育のつながりや相乗効果を図る。
- とくに政策やガイドラインや認可の仕組みなどを作ることにより、フォーマルな教育とノンフォーマルな教育をつなぐ等価のプログラムを作る。
- 専門的トレーニングをしたり、ノンフォーマルな教育の従事者に正規の学校教員と同等の公的認知を与えることによって、識字プログラムのファシリテーターの資格を高める。
- フォーマルな教育を一旦はなれた人々が、再び教育の場に復学できるようになるまで、自分のペースで学べるようにする遠隔教育プログラムを作る。
- 教員組織とノンフォーマルな教育の従事者間の連携を促す。
C. 能力形成
14. 「識字の10年」に含まれる教育プログラムを実施するために、様々な協力者や関係者が支援を行う際、次に挙げるような分野で、プログラムを運営するために必要な力を持つことを保障することが必要である。
- 企画と運営: 資金作りやプログラムの企画・実施、さまざまなセクターの協力、プロジェクトの文書や報告書作りなどの領域において、進行中の教育プログラムに組み込む形で、地域、小地域、国や地方レベルで、教育に関する企画や決定を行う人のための能力育成活動を組織する。
- 研究: NGO、地域に基盤を置く組織、市民社会組織などが、アクション・リサーチ(活動に関わりながらの研究−研究方法の一つ)を進めるための力を強化するためにプログラムを作る。
- トレーナーの訓練: 地方の教員やノンフォーマルな教育の従事者などのプログラムに関わる人材を育てることができるトレーナーの中核的なグループを、地域、小地域、国、地方レベルで、組織・支援する。
- トレーニング・システム: ジェンダーに敏感で、異なる状況・目的に応じた地方レベルで使うことができるトレーニング・システムを開発する。
- カリキュラム: 地域、小地域、国家レベルで、地方の特定の学習者グループの必要にあわせて、地方のカリキュラムや授業計画に適応できるような識字カリキュラムの枠組みを開発する。
D. 研究
15. 「識字の10年」の期間中、識字政策の効果的な策定、識字プログラムの改善、「万人のための識字」への進み具合の定期的な吟味のために研究成果を利用するには、次のような特別に十分計画された研究活動・事業が行われる必要があろう。
- 政策策定の目的のため: とりわけ、優先グループ、識字レベル、地方で必要としているもの、資源利用の可能性、期待できる協力関係、ジェンダー格差の特定化などを明らかにするための基礎研究を行うこと。
- 初等学校やノンフォーマルな教育のプログラムを改善するため: 教育計画者や管理者が、その成果に基づいて途中で軌道修正を行えるような、経過研究を行うこと。
- 「万人のための識字」という概念をより深く洞察するため: 学校やコミュニティにおける識字の使用について長期調査を行い、情報・伝達技術が進む中で、どのような新しい識字活動が行われているかを研究すること。
- 地域社会の活動を活発にするため: どのように地域社会が識字プログラムに参加し、そこから利益を得ることができるかを研究すること。
- 研究の有効利用のため: 先進国と途上国において、新しい状況の中で政策をつくり実施する際、研究成果を適した形で利用するために、関連の深い研究を厳密に吟味すること。
16. 次に挙げた行動は、前述の研究活動の発展を促進するために提案されたものである。
- 評価についての研究を含む識字研究についてのデータベースを作る。
- 大学、高等教育機関、研究機関が、研究課題として識字を取りあげるよう奨励する。
- 国や地域間の協力のため、研究機関間のネットワークを作り、先進国と途上国双方からの参加を確保し、途上国間の協力を促す。
E. コミュニティの参加
17. 「万人のための識字」計画の成功は、地域社会がどれだけプログラムに参加するか、また進んでプログラムの自主運営にあたるかにかかっている。 政府がコミュニティの参加を経費節減策として求めないことが重要であり、時折キャンペーンや催し物をするだけでは教育プログラムへのコミュニティの参加はかなえられないということに留意しなければならない。 コミュニティの参加を確実にする際の注意点は次の通りである。
- 識字プログラムへのコミュニティの参加に関する、政府機関、NGO、民間セクターの経験を文書化する。
- 識字に関するコミュニティに根ざしたプログラムを継続するための技術面や資金面の支援を供給する。
- 地方や国レベルで、識字のために地域社会と協働するNGOのネットワークをつくる。
- 地域社会が地域の学習センターを組織するように促す。
- 国家間で、地域の学習センタープログラムの成功例を共有する。
- 政府とコミュニティとの間や、コミュニティ間の意思疎通のために、情報・伝達技術を利用するなど適切な手段を開発する。
F. 監視と評価
18. 「万人のための識字」プログラムを成功させるためには、それぞれのプログラムのさまざまなレベル(機関、地方、国、国際などのレベル)をカバーする、機能的な監視情報システムを作ることが必要である。 この監視システムは、住民の間における識字の現状、識字の利用と影響、識字プログラムの実行と効果などについて、信頼できる有意義な情報を提供するように考案されるべきである。 次に挙げた行動は、効果的な監視・評価システムを作るための提案である。
- 特にジェンダー格差についての情報提供に留意しながら、各国が、系統的により多くより良い情報を収集し、広めることができるように、識字に関する指標や手法を工夫する。
- 例えば人口統計学的な調査を使うなど、識字の現状や、人々の中でのその活用と影響を監視するために、人口調査をより広範囲に上手に利用することを促す。
- 特定のプログラムの学習効果について定期的評価をする場合と同様に、識字調査のために個人の識字レベルを評価する場合にも、資金のかからない方法を開発する。
- 各機関、プログラム、学習者、教師の間で、ノンフォーマルな教育についての政策や運営を支援するための情報システムを作る。
- 生活の質に識字が与える影響について研究するために、 新たに識字能力を身につけた人たちを長期的に追跡調査するシステムを作る。
VII. 国レベルでの実施
19. 国家は、「万人のための識字」のための計画、調整、実施および資金計画において、中心的で決定的な役割を果たさなければならない。 そのために、国家はさまざまな利害関係者と協働する関係を作らなければならない。 従って、地域社会、NGO、教員組織や労働組合、大学や研究機関、民間セクターおよびその他の関係者を、識字プログラムのすべての段階に寄与・参加するよう組み入れる必要がある。
20. 「識字の10年」の実施を成功させるためには、「万人のための識字」を、「万人のための教育」のすべての計画やプログラムの中心に据える必要がある。 従って、「識字の10年」のための国レベルでの計画と実施は、国レベルの「万人のための教育」計画と実施の中に組み込む必要があることを忘れてはならない。 「万人のための教育」計画が国レベルですでにつくられた所では、「万人のための識字」の取り組みは補足として付け加えればよい。 「万人のための教育」計画ができあがろうとしている国では、「万人のための識字」の取り組みをそこに組み込むことが妥当であろう。 「万人のための識字」の取り組みを「万人のための教育」計画に組み込む際には、質問と基本要素についてのチェックリストが有益な指標となる。 チェックリストのサンプルは付録Iに添付されている。
21. 「識字の10年」は、一年ずつが10回続くものの寄せ集めというものではなく、全体を一つのまとまりと見なさなければならない。 従って、それぞれの国が、自国の10年間を展望しながら、「万人のための識字」を実施する計画を立てなければならない。 その際、10年の期間の初期段階は、識字について総合的かつ信頼できるデータベースをつくることに確実に当てられるよう留意するべきである。 そのような10年の期間枠の例は付録IIに含まれている。
VIII. 資源の動員
22. 「 万人のための識字」への関与は、資金不足を理由にそれが放置されたり、おろそかにされたりしてはならない。 各政府は、「万人のための識字」を支援するのに適した資源を動員する必要がある。 次に挙げる方策は国レベルで採用できるであろう。
- 「万人のための識字」に使う予算を、初等から高等教育まで、すべてのレベルの予算に組み込む。
- 識字が、アドボカシー、拡張教育事業、貧困減少などに関するプログラムの要素になっているような他の省庁と、調整したり資源を共有することにより、追加資金を獲得する。
- 「万人のための識字」プログラムを支援する民間セクターや市民社会を取り込む。
国際レベルで、有効な資源動員に必要なことは:
- 「万人のための教育」の一部として「万人のための識字」を支援する各国連機関の間で継続した協議を行う。
- 資金的な援助や肩入れをしてくれる二国間的な機関を巻き込む。
- 「万人のための識字」を支援する国際的市民社会を動員する。
貧困縮小戦略文書の中に「識字の10年」を統合したり、「万人のための教育」に向けて、資金に関する特別な部門を準備するような役割を世界銀行に与えるべきである。 また地域レベルでは、地域の機関や銀行から資金を調達することが可能である。 国際的な資金を調達するためには、識字に対する投資を正当化する、研究に基づいた確かなプロジェクトを作ることが大切である。 さらに、これらのプロジェクトは、実地研究に基づいて、コストに見合った結果を出すように注意しなければならない。
IX. 国際的支援と調整
23. 国連機構は全体として、人権問題とも不可分かつ相互に影響しあうものとして識字を進めている。 世界人権宣言の中にうたわれた教育についての権利は、平等(特に男女平等)や発展や健康や表現の自由の権利にも結びついているが、その中で識字は、これらの権利にとって重要な要素であると当時に、手段でもあるとしている。 さまざまなセクターに関わっている世界銀行と同様に、国連機関は、このような諸権利の結びつきを認識し、他の権利の実現と共に取り組み解決されるべき問題の一つとして、識字を位置付けることが多い。 「万人のための教育」をめざすダカール行動枠組みで示された目標を達成するため、国際レベルで協力する機関として、「識字の10年」と同様に、すでにでき上がっている「万人のための教育」をめざす協調体制の中で、ユネスコが取り組むことになっている。 協調体制を通じて、ユネスコは、さまざまな国際間・二国間の機関が現在取り組んでいる開発プログラムの中から識字に関する部分を見極め、「識字の10年」を支援する際、これらの機関に対して協働作業や資源の最大利用を強めていく。
24. 関連の国連機関と協議して、ユネスコは、「識字の10年」の包括的な計画と実施を促すため、有意義かつ目標に応じたパートナーシップに向けて取り組むであろう。 そのようなパートナーシップにより、国連各機関のさまざまな意見はうまく伝えられるだろう。 主だった連携機関は、「国連少女教育イニシアティブ」の主導機関であるユニセフであろう。 世界銀行は、識字の評価や、識字にかかるコストおよび資金調達分析において、ユネスコと協働するであろうが、これについては、OECDやユニセフも主要なパートナーとなりうるだろう。 ユネスコは、その任務やプログラムが「万人のための識字」達成に強く関わっている下記に挙げたような他の国連機関の間の協力を促進するであろう。
- 国連食糧農業機関: 農村の発展や農業促進プログラム
- 国際労働機関: 職業のための学習とトレーニング、児童労働の廃絶
- 国連人権高等弁務官事務所: 教育についての権利、男女平等、発展の権利、表現の自由についての権利、先住民族の人々(言語、文化、知識)
- エイズについての国連協働プログラム: エイズに関する教育
- 国連開発計画: 地方の発展、参加型の市民、民主的統治、貧困の縮小、維持可能な生活
- 国連人口基金: 教師のトレーニング、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)と人口についてのカリキュラムの開発
- 国連難民高等弁務官事務所: 難民の子どもたちの支援における主要問題としての教育
- 世界食糧計画: 教育のための食糧
- 世界保健機関: 「万人のための健康」、基本的な健康ケア教育、健康に関する情報入手、母性の安全、エイズ予防