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掲載日:2005.09.15
国際人権

ドゥドゥ・ディエンさんの質問に対する回答
-部落問題を中心に

2005年7月3日
社団法人部落解放・人権研究所
所長   友永健三

  国連人権委員会の「現代的形態の人種差別に関する特別報告者」であるドゥドゥ・ディエンさんが、2005年7月3日から11日まで聞き取り調査のために日本を訪問しました。
  被差別の当事者、人権NGOおよび政府・自治体との面談を通して得た情報や、その他の客観的情報を基に、日本に関する報告書を作成し、12月の国連総会および来年4月の人権委員会に提出されます。
  部落問題に関しては、大阪で関係3団体と会い、差別身元調査事件や部落の失業・経済困窮・学力格差などについて聞き取りをされました。特別報告者が事前に用意していた質問状に対して、部落問題の現状を踏まえて当研究所より次のような回答をまとめました。ここにご紹介します。

1、日本/もしくはあなたの地域に、人種主義、人種差別、外国人排斥、もしくは関連する不寛容がありますか?
1-1 存在する。
1-2 伝統的には、天皇を中心とする大和民族の優秀性に基づく考え方、近年では国権主義、民族排外主義に基づく主張と活動が強まってきている。
2、この人種主義、人種差別、外国人排斥、もしくは関連する不寛容はどのような形をとって現れていますか?
2-1 就職や結婚における差別
【注】このため「部落地名総鑑」が作成・販売されている。この事件は、1975年11月に発覚し、法務省の調査でも8種類の「部落地名総鑑」が作成・販売されていたこと、200を超す企業が購入していたことが判明している。
   1989年7月、法務相はこの事件の終結宣言を出しているが、現実にはこの事件は終結していない。その証拠に、興信所が「部落地名総鑑」を密かに隠し持ち、興信所間で貸し借りをしている事件が最近判明してきている。また、司法書士や行政書士等によって、戸籍謄本が大量に不正入手している事件も、現在大問題となってきている。この戸籍謄本には、先祖の出身地を意味する「本籍地」が記載されている。これらの事件の根絶には、法的規制が必要である。

2-2 職場や地域社会、学校などの場における差別
2-3 差別落書き、差別投書、嫌がらせ電話(携帯電話を含む)
2-4 インターネット上での差別宣伝、差別扇動

3、人種主義、人種差別、外国人排斥、もしくは関連する不寛容に対する公権力の姿勢はどのようなものですか?
3-1 警察、裁判所
 狭山事件では、「部落民ならやりかねない」との予断と偏見に基づく見込み捜査がなされた。
 裁判官も部落差別の実態を知らない不公正な(証拠開示、事実調べなし)裁判を行った。
 2005年3月、第2次再審特別抗告が棄却、第3次再審準備中

3-2 国
 1969年度-2002年度まで33年間、「特別措置法」に基づく施策が実施された。
 2002年度以降、部落差別が現存しているにもかかわらず大幅に後退している。
 具体的には、以下のような問題がある。

  1. 部落問題解決に向けて総合的に取り組むセクションがなくなった。(従来、総務省の中に地域改善対策室として存在していた。)
  2. 1993年に、同和地区実態把握等調査を実施してから政府として全国的な調査を実施していない。
  3. 「特別措置法」終了後、部落問題解決に向けた計画をもっていない。

3-3 自治体
 2002年度で「特別措置法」が終了したことに伴い、2極分解傾向にある。
 1つは、部落差別撤廃、若しくは部落差別をはじめとする差別撤廃や人権尊重の社会づくりのための条例を制定し、引き続き取り組みを実施している自治体である。
 もう一つは、国と同じように大幅に後退している自治体である。
 前者の例・・・大阪府
 大阪府は、企画調整部の中に人権室、教育委員会の中に人権教育企画課を設置している。また、2000年に同和問題解決実態調査を実施しているし、審議会の提言を受け計画を策定施策を実施している。さらに、人権尊重の社会づくり条例をもっている。

4、どの集団が影響を受けていますか?子どもと女性が特に影響を受けていますか?どのようにですか?その他、特に影響を受けている弱者集団はありますか?
(「外国人排斥と関連する不寛容」として特別報告者が注目するのは、伝統的な人種主義の形態だけでなく、移住労働者にとっては国籍、宗教的マイノリティーにとっては宗教、門地差別に関しては世系など、「人種」以外の他の理由にもとづく差別もある。「現代的形態の」という部分は、例えばホモ・セクシュアルの場合のような性的指向による差別など、より現代的な形態の排斥にも注目することを意味する。)
4-1 部落民、アイヌ民族、在日韓国・朝鮮人、在日外国人、沖縄出身者などがある。
5、この差別によって、どのような権利が最も侵害されていますか?(健康、教育、雇用、司法へのアクセス、住居など)
5-1 部落民について
 部落の数、部落の人口・・・1993年同和地区生活実態等把握調査では、4442地区 29万8385世帯、89万2751人 とされている。
 しかし、研究者や運動体関係者の間では、6000部落、300万人と言われてきた。
5-2  部落の女性・・・教育面での差別、仕事の面での差別、役職面での差別などをうけている。
5-3  部落の若者・・・学校教育の学力面での格差、高校・大学進学率の面での格差、高い失業率といった問題を抱えている。
5-4  部落の高齢者・・・平均寿命が短い、障害者の比率が高い、生活保護受給世帯が多いといった問題を抱えている。
5-5  部落の障害者・・・比率が高いという問題がある。
5-6  その他・・・母子家庭、父子家庭が多い、高齢化率が高い(若者の部落からの流出のため)といった問題がある。
6、公権力が人種主義、人種差別、外国人排斥、もしくは関連する不寛容に対抗するために取っている措置は何ですか?これらの措置は適切ですか、十分ですか?どのような影響がありましたか?他にどのような措置が必要ですか?
6-1 国・・・1969年度から2002年度まで「特別措置法」に基づく施策を実施してきた。
  1. 改善されてきた面・・・住環境面の改善がすすんだ。
  2. 残された問題・・・教育面の格差、仕事面の格差などが依然として存在している
    差別意識の払拭がなされていない。(根深く存在している。)
  3. 取り組まれなかった問題・・・差別事件の根絶、被害者救済
  4. 新しい問題・・・「ねたみ差別」(なぜ部落ばかり良くなるのかとの不満に基づく差別)
  5. 今後必要な措置
    5-1 住環境の改善面・・・多様な年齢層、所得階層、部落と部落外の人びとが共に暮らせる住環境の整備
    5-2 教育や仕事面の格差解消
    5-3 差別意識の払拭・・・学校教育、社会教育、職場研修の推進
      【注】2000年12月から「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が公布・施行されている。これを活用すること。
    5-4 差別事件の根絶、被害者の救済・・・差別を禁止するとともに被害者を救済するための法律を制定すること。
    5-5 「ねたみ差別」の克服・・・部落と部落の周辺地域がともに改善されるための人権まちづくりを支援すること。
7、政府の立場と政府が採用した措置(法律、その他)は、政府の国際的責任(日本が批准した国際人権規約)並びに国際水準に合致していますか?
7-1 日本は、国際人権規約(1979年)、女性差別撤廃条約(1985年)、子どもの権利条約(1994年)、人種差別撤廃条約(1995年)を締結している。
7-2 しかし、部落問題解決の観点からいうと、とくに次のような問題がある。
  1. 日本政府は、人種差別撤廃条約の第1条に規定されている世系(descent)の対象に部落問題が含まれることを認めていない。
    【注】人種差別撤廃委員会は、日本政府の第1・2回報告書の審査を踏まえた総括所見では、世系(descent)の対象として部落問題が含まれるとしている。
  2. 人種差別撤廃条約の加入を受けた国内法制度の整備がなされていない。少なくとも次のような法整備が必要。
    2-1 人種差別撤廃条約を国内で効果的に実施していくための基本法を整備すること。
    2-2 人種差別を禁止し被害者を効果的に救済するための法律を整備すること。
    【注】このため、8月13日まで会期が延長された第162通常国会に「人権擁護法案」が提案されようとしているが、この法律に基づき設置される人権委員会の独立性、実効性の面で大きな問題を抱えている。(パリ原則を踏まえたものとなっていない。)さらに、この法案に対して国権主義勢力からの批判も強まっていて、この国会に上程されるかどうか予断を許さない。
    2-3 人種差別撤廃条約を国内で効果的に実施していくためのセクションを政府内に設置するとともに、当事者や研究者の参画を得た審議会を設置すること、計画を策定すること。
    【参考】日本は女性差別撤廃条約を批准した際、国籍法を改正し、男女雇用機会均等法を制定した。また、男女共同参画社会基本法を制定し、内閣府に男女共同参画局や審議会を設置し、計画を策定している。
  3. また、「人権教育のための国連10年」に関しては、1995年12月、内閣総理大臣を本部長とする推進本部を設置し、1997年7月には国内行動計画を策定した。  周知のように「国連10年」は、2004年12月末で終了し、「人権教育のための世界プログラム」に引き継がれた。これを受けて、日本政府としても「国連10年」を総括し、「世界プログラム」を受けた推進本部の設置と新計画の策定が求められているが、今日までそれがなされていない。
8、これまで、当事者団体のために特定的に採用された措置はありますか?それらの措置は適切ですか、十分ですか?どのような影響がありましたか?他にどのような措置が必要ですか?
8-1 国のレベルでは、審議会等を設置したとき、部落解放運動団体の代表をメンバーに選んだり(当初は選んでいたが、最近は選ばなくなってきている)、意見を求めることは行った。
8-2 自治体レベルでは、審議会等の委員に部落解放運動の代表を選ぶとともに、直接・間接的に補助金等を出して支援しているところが少なくない。
8-3 今後とも、部落問題や人権問題について審議会等を設置した場合、委員に部落解放運動の代表を委員に選出する必要がある。
8-4 部落解放運動の人材を育成するための支援、部落問題を部落外の人びとの正しく認識してもらうことに役立つ事業への支援等は、引き続き継続していくことが必要である。
9、公権力とNGOとの間に、適切な協力関係がありますか?人種主義、人種差別、外国人排斥、もしくは関連する不寛容に対抗するうえでのNGOの役割はどのようなもので、公的権力の活動をどのように補完していますか?
9-1 国と部落解放運動の関係は、ある時期には対立的であったし、ある時期には協力的でもあった。また、省庁別にみた場合、法務省等とは対立的であるが厚生労働省等とは協力的である。
9-2 自治体と部落解放運動との関係は、初期においては、対立的であったが、その後おおむね協力的な関係にある。
9-3 国なり、自治体との関係で、部落解放運動が果たした役割は、部落差別の実態を突きつけたこと、国なり自治体の責任に気付かせたこと、事業を効果的に実施するために協力したことなどが挙げられる。
9-4 また、国際人権規約や人種差別撤廃条約の日本の締結や実施の面で部落解放運動は、大きな役割を果たした。(批准運動の展開やNGOレポートの作成など)

以上