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掲載日:2008.04.25
反人種主義・差別撤廃の世界的な取り組み

在日韓国・朝鮮人の現状から見た問題点

康由美

1.今回の第5回政府報告書における在日韓国・朝鮮人に関する項目は、「偏見・差別をなくすための啓発活動」、「外国人登録証明書の携帯義務」、「朝鮮学校」のみにすぎず、「在日韓国・朝鮮人問題」は、ほとんど何も触れられていないに等しい。

2.主体について
  -「在日韓国・朝鮮人」は「特別永住者」だけではない-

いわゆる「在日韓国・朝鮮人」と呼ばれる人たちは、日本の植民地支配に基づき、日本での居住を余儀なくされた者及びその子孫をさす。この点、政府報告書においては、「外国人登録証明書の携帯義務」の項目におけるように、「特別永住者」と一括して呼称されている。

しかし、再入国期間内に日本に戻れず、あるいは再入居区許可を得られないまま出国した者は、新規入国者扱いとなって、この「特別永住者」という在留資格を剥奪されている。また、他にも、「一般永住者」(通常の一般外国人として永住権を申請し許可された者)、「定住者」(一般外国人としての永住権申請をしていない者あるいは申請しても拒否された者)が存在している。

従って、そもそも、「在日韓国・朝鮮人」を法律要件を満たした者のみに与えられた「特別永住者」に置き換えることはできないのであり、こうした置き換えは、「在日韓国・朝鮮人」の歴史性を捨象するのみならず、法的地位の安定が全く顧みられない「在日韓国・朝鮮人」を生み出してしまうことになる。

3.「偏見・差別をなくすための啓発活動」について
  -「啓発活動」のあり方-

政府報告書によると、「外国人の人権擁護のための活動の1つとして、在日韓国・朝鮮人に対する偏見・差別をなくすことを含めた啓発活動を行っている」としている。しかし、「在日韓国・朝鮮人」に対する偏見・差別の除去のために必要不可欠なのは、その歴史的背景を周知させることである。

また、政府報告書では、「拉致問題」に伴い発生した在日韓国・朝鮮人児童・生徒らに対する嫌がらせ等につき、パンフレット・チラシ等の配付を挙げ、さらに、「在日韓国・朝鮮人児童・生徒に対し、嫌がらせ等を受けたときには、法務省の人権擁護機関に相談するよう呼びかけを行った」とするが、こうした「相談」に基づき、法務省が「啓発」を行った前例は存在しない。むしろ、「拉致問題」以降、本名での営業活動中に顧客から「北のスパイだ」などと誹謗中傷を受けたとして損害賠償請求を求める民事裁判が提訴されているように、「在日韓国・朝鮮人」全体をめぐる状況は悪化しているといえる。

従って、現在、日本社会に求められているものは、啓発では不十分であり、こうした差別を禁止する立法措置であると言わざるを得ないが、2001年の委員会勧告39項で「非差別立法を強化することを強く勧告」されているにもかかわらず、全くその言及はなされていない。

4.「外国人登録証明書の携帯義務」について
  -変わらない日常的な治安管理-

政府報告書によると、外国人登録証明書の携帯義務違反の罰則が行政罰に修正されたことを評価する一方で、「いわゆる不法入国者や不法残留者が多数存在する等の我が国の現状においては」、「外国人登録証明書の常時携帯を義務づける制度については、引き続き維持する考えである」としている。

まず、罰則が修正されたのは、「特別永住者」に関してにすぎず、その他の在留資格の場合は、やはり刑事罰が課せられる状況に変化はない。しかも、登録義務者となる16歳から適用されることになるのである。

5.「朝鮮学校」について
  -日本の学校に通うこどもと民族学校に通うこども-

政府報告書では、「日本国籍を持たない外国人の子女であっても、我が国の公立学校において義務教育を受けることを希望する場合は、すべて無償で受け入れることとしている」とする。

しかし、日本の公立学校での義務教育は、「希望すれば受け入れる」という前提を崩しておらず、生徒の権利とはされていない。そのため、京都市の公立中学校の校長が、「外国籍の生徒には義務教育がないから退学にできる」という理由で、「在日韓国・朝鮮人」の生徒を退学扱いとしており、その違法性をめぐって現在、裁判で争われている。

また、政府報告書では、「大学入学資格検定の受験資格の拡大」や、「大学入学資格について弾力化を行った」として評価しているが、無条件に大学入学資格を認めた訳ではなく、現実に、未だに入学資格を認めない私立大学が存在している。のみならず、東京に続き大阪においても、行政が朝鮮学校の敷地につき裁判上の返還請求を行っており、「学ぶ場」そのものの存続すら不安定なものとなっている。

6.その他
  -様々な「在日韓国・朝鮮人」をめぐる問題の棚上げ-

また、「特別永住者」以外の者の法的地位の安定化、再入国許可制度のあり方、公務就任権、社会保障システム、地方参政権、入居差別や就職差別、「嫌韓流」といった、在日に対する攻撃などの問題は、全く棚上げとなっている。

しかし、いわゆる少数者の人権保障は、少数者を取り巻く多数者の意識変革を促し、社会全体の人権が尊重されることにつながることからも、日本政府の差別解消に向けた積極的な施策が望まれるところである。