部落問題や人権に関する事項で、これまで何度か啓発活動に携わってきました。その多くは講演、シンポジウム、研修会でした。
主たるテーマは、部落、障害者、女性、外国人、子ども、高齢者などでした。どこの会場に行っても、それは似通っており、この実体が、人権啓発のマンネリズムを招いているのではないかと、ここ数年、ジレンマの日々でもありました。
そうした今年の春、大学生たちに「人権論」を語る機会が与えられました。人権問題を再度確認する意味でも良いチャンスと引き受けましたが、構成途中にハタと気付いたのが、「人はなぜ差別するのだろうか」との疑問でした。自身にも問い掛けてみて、ただちに答えられませんでした。
現代社会のさまざまな人権問題は、あらゆる書籍、研究論文で語られています。基本的人権の成り立ち、差別の歴史的経緯は、ほぼ解明されていますが、「人はなぜ差別するのか」との心理学的な研究、解明はまだ不十分なようです。知人の心理学者に聞いても、そうした研究論文はないと言います。難しい作業ですが、ここを平易に明らかにできれば、啓発活動の第一歩に位置づけられ、新たな展開が望めるのではないかと思っています。部落解放・人権研究所には、このテーマを研究課題の柱の1つに掲げて、問題をときほぐしてほしいものです。期待しています。
(『明日への挑戦―部落解放研究所から部落解放・人権研究所へ30年の歩み―』より)