「人権教育・啓発基本計画」の問題点と課題
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1,はじめに
去る3月15日、人権教育・啓発に関する基本計画(以下「基本計画」と略)が閣議決定された。これは、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(以下「人権教育・啓発推進法」と略)の第7条で定められた「国は、人権教育及び人権啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、人権教育及び人権啓発に関する基本的な計画を策定しなければならない。」との規定を受けて策定されたものである。
この第7条の規定が抽象的で、「基本計画」の内容が不明確であったため、「人権教育・啓発推進法案」が衆・参両院の法務委員会を通過する際、「人権教育及び人権啓発に関する基本計画の策定にあたっては、地方公共団体や人権にかかわる民間団体等関係各方面の意見を十分踏まえること。」(参議院法務委員会での附帯決議第2項目)、「人権教育及び人権啓発に関する基本計画は、「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画等を踏まえ、充実したものにすること。」(同第3項目)とした附帯決議が採択された。
これらの附帯決議を受けて、法務省と文部科学省は、昨年12月20日、「人権教育・啓発に関する基本計画(中間取りまとめ)」(以下「中間取りまとめ」と略)を公表し、本年1月末までパブリックコメントを募集し、これらの指摘を一定取り入れた上で先に述べたように、本年3月15日「基本計画」を閣議決定した。
パブリックコメントは、48,037通、90,628件にも達したが、筆者も部落解放・人権研究所(以下「研究所」と略)としてのコメント作成に参加し、包括的な修正案を送付した。そのポイントは、本誌2002年2月号に掲載されている。本稿は、研究所が提出したコメントを軸に、「基本計画」の分析を試みたものである。
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2,パブリックコメントの内容
「基本計画(中間取りまとめ)」の章立ては、「第1章 はじめに」、「第2章 人権教育・啓発の現状」、「第3章 人権教育・啓発の基本的在り方」、「第4章 人権教育・啓発の推進方策」、「第5章 計画の推進」の5章から構成されていた。この内、「第4章
人権教育・啓発の推進方策」は、「1.人権一般の普遍的な視点からの取組」、「2.各人権課題に対する取組」、「3.人権に関わりの深い特定の職業に従事する者に対する研修等」、「4.総合的かつ効果的な推進体制等」から構成されていた。
48,037通、90,628件におよぶパブリックコメントの内容については、法務省のホームページ上で、「人権教育に関する基本計画(中間取りまとめ)に対する意見募集の結果について」と「主な意見の概要」として公表されているが、これに基づき若干の分析をする。
まず、章別にみると「第4章 人権教育・啓発の推進方策」関係が最も多く57,580件、次いで、「第3章 人権教育・啓発の基本的な在り方」関係15,395件、「第5章 計画の推進」関係8,796件、「第2章 人権教育・啓発の現状」関係8,5 31件となっていて、最も少なかったのは「第1章 はじめに」関係326件である。
また、「第4章 人権教育・啓発の推進方策」関係で多かったのは、「イ 各人権課題に対する取組」の中の「(オ)同和問題」で14,019件、次いで「(ア)女性」4,640件、「(イ)子ども」4,479件、それと「エ 総合的かつ効果的な推進体制」14,209件の順となっている。
パブリックコメントのこうした状況を見ると、「同和問題」、「女性」や「子ども」の人権に関する関心が高く補強・修正意見が多数寄せられたこと、「人権教育・啓発の基本的な在り方について」や「総合的かつ効果的な推進体制」についても補強・修正意見が多かったことが分かる。
法務省のホームページに紹介された「意見の概要とその対応」を見ると、「寄せられた意見については、基本計画自体の性格(関係各府省庁の施策の大綱)や全体的な記述のバランス等を考慮した上で、その趣旨を相当の部分において基本計画の記述に採用し、又は記述の参考にした。」とされているが、パブリックコメントの採用基準は明確でない。 筆者が分析したところ、パブリックコメントが採用された箇所は限られている。一方、パブリックコメントではさほど指摘がないのに「中間取りまとめ」より「基本計画」の方が後退した部分が見られるし、「基本計画」にパブリックコメントが採用されなかった部分は多数存在している。
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3,人権教育・啓発基本計画の分析
以下、研究所から提出したパブリックコメントをもとに、パブリックコメントが採用された事項、後退した事項、採用されなかった事項の順でポイントを紹介する。
(1)パブリックコメントを採用し改善された事項
まず、「中間取りまとめ」では欠落していて、パブリックコメントを受けて「基本計画」に盛り込まれた事項を7点紹介する。
- 「中間取りまとめ」では、保育所における人権保育に関する記述がほとんど欠落していたが、「第2章 2.人権教育の現状 (3)人権教育の現状」、「第4章 2.各人権課題に対する課題 (2)子ども <9>」に、パブリックコメントを採用してそれらに関する記述が盛り込まれた。例えば、上記の「子ども <9>」には、「また、保育士や子どもにかかわる指導員等に対する人権教育・啓発の推進を図る。」との指摘が追加された。
- 企業における人権研修についても、「中間取りまとめ」では、ほとんど記述がなされていなかったが、「第2章 3.人権啓発の現状 (2)人権啓発の実施主体」、「第4章 1.人権一般の普遍的な視点からの取組 (2)人権啓発」、「第5章 2.地方公共団体等との連携・協力」等に、パブリックコメントの指摘が採用されている。例えば、上記「第2章」では、「また、企業においては、その取組に濃淡はあるものの、個々の企業の実状や方針等に応じて、自主的な人権啓発活動が行われている。例えば、従業員に対して行う人権に関する各種研修のほか、より積極的なものとしては、人権啓発を推進するための組織の設置や人権に関する指針の制定、あるいは従業員に対する人権標語の募集などが行われている例もある。」との記述が追加された。
- 中間取りまとめ」では、大学における人権教育に関する記述が欠落していたが、「第2章 2.人権教育の現状」、「第4章 1.人権一般の普遍的な視点からの取り組み(1)人権教育」に、パブリックコメントの指摘を受けた記述が盛り込まれた。例えば、「第4章」には、「第四に、高等教育については、大学等の主体的判断により、法学教育などさまざまな分野において、人権教育に関する取組に一層配慮がなされるよう促していく。」との追加がなされた。
- 人権についての教育・啓発に関して、「中間取りまとめ」では、日本国憲法や日本が締結した国際人権諸条約に関する教育・啓発の重要性の指摘が欠落していたが、「第2章 2.人権教育の現状 (1)人権教育の意義・目的」、「第4章 1.人権一般の普遍的な視点からの取り組み (2)人権啓発」などに、パブリックコメントの指摘が盛り込まれた。例えば、「第4章」には、「総理府(現内閣府)の世論調査(平成9年実施)の結果によれば、基本的人権が侵すことのできない永久の権利として憲法で保障されていることについての周知度が低下傾向にあるが、この点にも象徴されるように、国民の人権に関する基本的な知識の習得が十分でないことが窺われる。そこで憲法をはじめとした人権にかかわる国内法令や国際条約の周知など、人権に関する基本的な知識の習得を目的とした啓発を推進する必要がある。」との指摘が追加された。
- 同和問題に関しては多くの補強・修正案がパブリックコメントで寄せられたが、「第4章 2.各人権課題に対する課題 (5)同和問題」で、「教育、就職、産業等の面での問題等がある」、「学校教育及び社会教育を通じて同和問題の解決に向けた取り組みを推進していく」との文言が追加して盛り込まれた。
- 「第4章 3.人権にかかわる特定職業従事者に対する研修等」では、「中間取りまとめ」ではなかった「カリキュラムの編成やテキストの作成」に関する記述が、パブリックコメントの指摘を受けて一定盛り込まれた。
- 「第5章 2.地方公共団体等との連携・協力」では、「中間取りまとめ」では欠落していた国際連帯に関する記述が、パブリックコメントを受けて「さらに、国際的な潮流を十分踏まえ、人権の分野における国際的取組に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。」という記述が追加された。
(2)パブリックコメントを採用し後退した事項
次に、パブリックコメントを採用した結果後退したと思われる事項を以下に列挙する。(正確に言えば、「中間取りまとめ」から「基本計画」にされる過程で後退した事項というべきかもしれない。なぜなら、以下に述べる後退したと思われる事項は、パブリックコメントのなかでは触れられていないか、触れられていてもさほど大きな比重を占めていないと思われるからである。)
- まず、「中間取りまとめ」では、「第3章 2(3)国民の自主性の尊重と教育・啓発における中立性の確保」の中にしか記述されていなかった「中立性に配慮」との記述が、「基本計画」では「第1章 2(1)基本計画の策定方針 <4>」、「第4章4(2)実施主体間の連携 (3)担当者の育成、(7)マスメディアの活用等 イ.民間のアイディアの活用」等にも盛り込まれているという問題がある。
例えば、「第4章 4(2)」では、「さらに、人権擁護の分野においては、公益法人や民間のボランティア団体、企業等が多種多様な活動を行っており、今後とも人権教育・啓発の実施主体として重要な一翼を担っていくことが期待されるが、そのような観点からすれば、これら公益法人や民間団体、企業等との関係においても、連携の可能性やその範囲について検討していくべきである。なお、連携にあたっては、教育・啓発の中立性が保たれるべきであることは当然のことである。」「同(3)担当者の育成」では、「なお、国及び地方公共団体が研修を企画・実施する場合において、民間の専門機関を活用するにあたっては、教育・啓発の中立性に十分配慮する必要がある。」、「同(7)イ.民間のアイディアの活用」では、「また、民間の活用にあたっては、委託方式も視野に入れ、より効果を高めていく努力をするとともに、教育・啓発の中立性に十分配慮する必要がある。」などの記述が盛り込まれている。
後にも述べるが、人権教育・啓発を推進していく上で「中立性」という場合、「権力」からの中立性が最も重要である。また、「中立性」を判断する基準として憲法や教育基本法、さらには日本が締結した国際人権諸条約に基づくものであることの限定がなければ、「中立性に十分配慮する」という記述は極めて恣意的なものとなり、法務省や文部科学省が都合が悪いと判断する特定の団体が人権教育・啓発を推進していく過程で排除される根拠に使われるおそれが多分にある。
- 次に、差別の撤廃と人権の確立を求めた真摯な取組を否定、もしくは批判することに悪用されかねない曖昧な記述が「基本計画」に盛り込まれているという問題がある。例えば、「第3章 2.人権教育・啓発の基本的在り方 (3)国民の自主性の尊重と教育・啓発における中立性の確保」では、「「人権」を理由に掲げて自らの不当な意見や行為を正当化したり、異論を封じたりする「人権万能主義」とでもいうべき一部の風潮、人権問題を口実とした不当な利益等の要求行為、人権上問題のあるような行為をした者に対する行き過ぎた追及行為などは、いずれも好ましいものとは言えない。」などと、極めて曖昧な記述が盛り込まれている。
- さらに、人権教育・啓発を推進していく上で、マスメディアの果たす役割は極めて大きいものであるにもかかわらず、積極的な役割の発揮を促す記述が極めて少ない。他方、「基本計画」では、「第2章 1.人権を取り巻く情勢」、「第4章 2.各人権課題に対する課題 (10)犯罪被害者等」で、マスメディアの人権侵害が一方的に強調されている。例えば、「第2章」では、「マスメディアの犯罪被害者等に関する報道による侵害、名誉毀損、過剰な取材による私生活の平穏の侵害等の問題が生じている。マスメディアによる犯罪の報道に関しては少年事件等被害者及びその家族についても同様の人権問題が指摘されており、(後略)」などの記述が追加されている。
しかしながら、政治家や大企業の経営責任者など社会的に大きな影響力を持っている関係者による犯罪を解明していく上で、マスメディアの果たす役割は極めて大きなものがあるが、「基本計画」の中で指摘されているマスメディアに関する記述は、これらを萎縮させてしまいかねない内容となっている。その点では、去る3月8日閣議決定され、現在国会で審議されている「人権擁護法案」でも、マスメディアによる人権侵害を同法案の重要な対象にしていることが重大な問題となっているが、これと「軌を一にしている」問題といわねばならない。
(3)パブリックコメントで採用されなかった事項
さらに、パブリックコメントで指摘されていたにもかかわらず「基本計画」には、盛り込まれなかった事項を以下に列挙する。
- 「第3章 人権教育・啓発の基本的な在り方」の中に「人権が尊重された社会の構築をめざす」ことの必要性が盛り込まれなかった。この点は、人権教育・啓発を単なる心構えや感覚にとどめてはならないという意味で重要な指摘であった。
- 上記(2)で指摘した点であるが、「第3章 人権教育・啓発の基本的な在り方」の中に、「行政=権力機関自らが不当な圧力をかけることのないよう厳に戒めなければならない。」という点と、主体性や中立性の基準として「憲法や日本が締結した国際人権諸条約、教育基本法等に基づき」という表現が盛り込まれなかった。
- 「第4章 人権教育・啓発の推進方策」の学校教育に関して「人権教育をカリキュラムの中に明確に位置づける」という表現が盛り込まれなかった。
- 「第4章 2 各人権課題に対する取組」の「(1)女性」で、「マイノリティの女性が置かれている実態を明らかにしエンパワーメントを積極的に支援していく。」との文言が盛り込まれなかった。
- 「(2)同和問題」について、1)「同和問題の解消が国の責務である」、2)「自由権規約委員会や人種差別撤廃委員会等国際機関での同和問題に関する勧告」、3)「一般施策への移行が同和問題解決に向けた取り組みの放棄を意味するものではない。一般施策への移行後は従来にもまして真摯に施策を実施していく」、4)「各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間といった学校教育活動全体を通じて、同和問題を重要な柱とした人権教育を推進していく」との指摘が盛り込まれなかった。
- 「(6)アイヌの人々」について、「国際先住民族年や自由権規約委員会、人種差 別撤廃委委員会等からの勧告など国際的な潮流」については盛り込まれなかった。
- 「(7)外国人」についても「自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会等からの勧告など国際的潮流」については盛り込まれなかった。また、「民族教育を支援することの必要性」は盛り込まれなかった。
- 「第4章 4 総合的かつ効果的な推進体制等」に関して、1)人権擁護委員会の在り方を抜本的に見直す必要があること、2)「人権教育・啓発推進法」の所管を内閣府に移管し、事務局体制を整備する必要があること、3)公益法人や民間団体の取り組みを「支援」する必要があること、4)一定の資格を有したリーダーを養成する必要があること、5)(財)人権教育啓発推進センターの役員や職員に人権教育・啓発の専門的な研究者や民間団体の経験者を積極的に採用するなどの改革の必要性があること、6)政府広報の積極的な活用を図り「人権教育・啓発推進法」の普及・宣伝と人権教育・啓発の推進を呼びかけること、7)高等教育・研究機関の設置の必要性等の項目が盛り込まれなかった。
- 「第5章 計画の推進」で盛り込まれなかったものとしては、1)「1 推進体制」で「内閣府」を中心とすること、2)「2 地方公共団体等との連携」で「積極的な支援をする必要があること」、3)「3 計画のフォローアップ及び見直し」で「定期的な実態調査等を実施する」ことがある。
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4,人権教育・啓発基本計画の基本的な問題点
パブリックコメントを踏まえた「基本計画」の改善された事項、後退した事項、パブリックコメントが採用されなかった事項を、以上で紹介したが、改善された事項はわずかで、部分的・具体的な指摘に限られていることが分かる。他方、後退した事項や採用されなかった事項は、国の責任や現状変革に役立つことなど人権教育・啓発を推進していく上で基本にかかわる事項が多いことが分かる。
このような結果になった原因を考察したとき、「基本計画」の人権に関する基本的な理解と「基本計画」策定の仕組みの2点に根本的な問題があることが分かる。
(1)人権に関する基本的なとらえ方の問題点
「基本計画」のなかで人権に関する基本的な捉え方が示されているのは、「第3章 1.人権尊重の理念」で、次のように記述されている。
「人権とは、人間の尊厳に基づいて各人が持っている固有の権利であり、社会を構成するすべての人々が個人として生存と自由を確保し、社会において幸福な生活を営むために欠かすことのできない権利である。
すべての人々が人権を享有し、平和で豊かな社会を実現するためには、人権が国民相互の間において共に尊重されることが必要であるが、そのためには、各人の人権が調和的に行使されること、すなわち、「人権の共存」が達成されることが重要である。そして、人権が共存する人権尊重社会を実現するためには、すべての個人が、相互に人権の意義及びその尊重と共存の重要性について、理性及び感性の両面から理解を深めるとともに、自分の権利の行使に伴う責任を自覚し、自分の人権と同様に他人の人権をも尊重することが求められる。」
上記に引用した「基本計画」の人権に対する捉え方には根本的な問題がある。それは、人権とは、市民が国家権力との闘いの中で確立されてきたものであり、国家はそれを承認しなければならず、市民は不断の努力によってそれを保持・発展しなければならないものであるという点が欠落してしまっているからである。
この点は、人権の歴史をひもとけば明らかなことであり、この立場に立てば、人権教育・啓発の主体は、個人、NGOなどの国家ではない主体であり、国家は、これらの主体によって実施される人権教育を積極的に支援しなければならないという基本原則が導き出されてくる。
また、他方で、国家・自治体機関に従事する人びとは、人権を守る義務があり、そのために他の人びとよりも意識的に人権教育を受けなければならないという原則も導き出されてくるのである。ちなみに、「基本計画」では、特定職業従事者に対する人権教育に関する記述は、わずか11行にすぎない。
さらに、人権教育は、これまでの人類の努力によって確立されてきた人権(例えば「世界人権宣言」)を理解するだけでなく、それをあらゆる分野で実現するための変革に向けた行動と結びつける必要がある。ところが、「基本計画」考え方は、人権を理解していない国民に対して人権を理解している国家が教えてやるということになっている。また、個人と国家権力との関係で生じてくる人権侵害よりも、個人と個人の間で生じてくる人権問題の方が重要であるという認識に立っているのである。
(2)人権教育・啓発基本計画の策定方法の問題
人権に関する以上の基本認識に立てば、「基本計画」の策定方法の問題点も自ずから明らかになる。すなわち、国家が「基本計画」を一方的に策定するのではなく、国家ではない個人や民間団体の意見を積極的に取り入れる仕組みを作り、そこで策定しなければならないという点である。
この点に関して「人権教育のための国連10年」にちなんだ国連事務総長が示した行動計画、ならびに国連人権高等弁務官事務所が策定した国内行動計画のガイドラインによれば、国内行動計画は、政府が直接策定するのではなく、さまざまな関係団体や関係する個人を網羅した委員会を組織し、そこで作成することを奨励している。これは、人権や人権教育の本質を踏まえた適切な策定方法である。
ところが、今回の「基本計画」の場合、法務省と文部科学省が策定している。ただ、パブリックコメントを募集しているが、どのような基準、判断でパブリックコメントを採用したか、又は採用しなかったかは全く「闇の中」であり、「対話」はなされていない。
ちなみに、大阪府、大阪市等自治体では、行動計画の策定にあたっては、各方面の参画を得た「懇話会」等が設置され、そこでの討議を経て策定されている。
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5,おわりに〜今後の課題
おわりに、今後の課題を提起しておきたい。
第1に求められていることは、「基本計画」の批判的な検討である。
第2に、「基本計画」の積極面を活用し具体化を求めるとともに、「基本計画」の補強・修正を求めていくことである。
第3に、これとの関連で、「人権教育・啓発推進法」の第8条によれば「年次報告の策定」が政府に義務づけられていることの活用である。「年次報告」を批判的に分析し活用していくことが重要である。
第4に、地方自治体や各団体、企業、学校等で、「人権教育・啓発推進法」を踏まえた、国の「基本計画」を抜本的に上回る「基本計画」を策定し実施していくことである。
第5に、「人権教育のための国連10年」にちなんだ取組と連携して、上記の取組を実施していくことである。
最近、各方面で「人権の21世紀」という言葉が使われている。しかしながら、この意味は、21世紀になれば自然に人権が守られるということではない。真の意味で人権を守り実現していかねば、21世紀に人類が滅びかねないという意味で言われているのである。「人権教育・啓発推進法」、「人権教育のための国連10年」をあらゆる場で活用し、人権文化を世界中に創造していくことが求められているのである。
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