部落解放・人権研究所の友永健三所長のあいさつのあと、北口末広・近畿大学教授、中島哲也・大阪市立大学人権問題委員長、「人権フォーラム21」事務局長でもある山崎公士・新潟大学教授が、それぞれ問題提起した。
近畿大学は1973年に教職員の差別発言、75年には『部落地名総鑑』を購入した事実が発覚、その反省に立って、「世界人権宣言」採択35周年に当たる1983年12月に「人権宣言」を制定し、また87年10月には「人権教育基本方針」を策定した。学生、教職員に対する教育、啓発の推進体制としては、「人権教育推進委員会」を設置している。
「近畿大学『人権教育のための国連十年行動計画(2001年−2010年)』について」をテーマで提起した北口教授は、こうした取り組みを受けて2001年12月に策定した「人権教育のための国連十年行動計画」について説明した。
この中で、北口教授は、「宣言や基本方針の理念を具体化させ、さらに近畿大学の人権教育を強化するために、21世紀の初頭に当たって、国連十年行動計画を策定した」と策定の理由を述べたあと、基本理念として位置づけた4つの視点を説明した。
1点目は狭い意味の人権教育である「人権についての教育」。2点目は人権を守り育てる態度を持った個人を育てて社会を構成するという「人権のための教育」。3点目は教育を受けること自体が人権と考える「人権としての教育」。最後の4点目は人権が守られた状態の中で学習を展開するという「人権を通じての教育」。この4つの視点の具体化について、北口教授は「人権教育を担う人づくり、全学的体制づくり、地域社会との連携といった課題がある。また『人権教育のための国連十年』の提唱する人権文化の創造のためには学習機会や人権教育研究体制の拡大と充実、学習権の保障と人権相談機能の強化などを図る必要がある」などと、行動計画の推進のための基本的な項目を説明した。
「大阪市立大学人権宣言2001について」を提起した中島委員長は2000年3月に評議会で承認された「大阪市立大学差別のないキャンパスづくりのための行動計画大綱」について、「この大綱は『人権教育のための国連十年』に基づいた国際的動向と国内の取り組みを受けて、人権を重視するという大阪市立大学の基本姿勢を具体化することを目指したものだ」と、その意義を述べたあと、前文と全8条の人権宣言採択の経緯と内容などを説明した。
最後に山崎教授は国会に提出された「人権擁護法案について」と題して、新設される「人権委員会」の組織と権限の根本的な問題点を明らかにした。法が成立すると「人権委員会」は2003年6月から7月に設置される予定。
人権救済制度を盛り込んだ「人権擁護法」に基づいて設置される「人権委員会」は委員長、常勤委員1人、非常勤委員3人の構成で、あらゆる人権侵害を対象に被害者を救済する委員会。
その問題点について、山崎教授は、「『人権』、『差別』の提起が不明確で、権限の乱用を招く恐れがあるほか、被差別者の当事者性を考慮していない。また、人権委員会は法務省の外局で、委員会の事務局は法務省の人権擁護局を改組して当てられる。これでは独立性に欠けて、法務省所管の刑務所、入国管理局などで起こった人権侵害を救済できない可能性もあるので、内閣府の外局にすべきだ。縦割り行政の弊害を反映して、厚生労働省や国土交通省にも救済権限を与えているが、両省に与えるべきではない。また、中央集権的で、都道府県にも地方人権委員会を設置する必要がある。それに公権力の人権侵害を相対的に軽視している。人権委員会には公権力の人権侵害についても救済する強力な権限を持たさなくてはいけない。このほか、メディアの人権侵害を救済する権限は表現の自由、報道の自由を脅かす恐れがある。メディアは人権委員会の救済権限から全面的に除外すべきだ。こうした点などを考えると、国会に提出された法案は国際水準に合っていないので、抜本的に差し替える必要がある。問題点が改善されないままで成立させてはならない」などと提起を結んだ。
懇談会では、それぞれの報告者の提起について、出席者から質問や意見が出され、報告者との間で、幅広く意見交換が行われた。