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研究所通信287号より
掲載日:2002.7.10
関西学長、人権・同和問題担当者懇談会を開催

各大学における人権・同和問題の取り組み報告や人権のあり方などについて相互に理解を深め合う「関西学長、人権・同和問題担当者懇談会」が、2002年6月13日(木)、大阪市内の大阪人権センター(旧部落解放研究教育センター)で開かれた。

部落解放・人権研究所の村越末男理事長からの開会挨拶のあと、友永健三・同研究所所長、秋定嘉和・池坊短期大学教授より問題提起がなされた。

 友永健三所長からは、パブリックコメントを受けて2002年3月に閣議決定された「人権教育・啓発基本計画」について、<1>パブリックコメントを採用し改善された事項、<2>パブリックコメントを採用し改悪された事項、<3>パブリックコメントでは採用されなかった事項についての分析が報告された。

基本計画の基本的な問題点としては、「人権を理解していない国民に対して、国が人権を教えてやる」といった認識であることや、「個人と国家権力との関係で生じてくる人権侵害よりも、個人と個人の間で生じてくる人権問題の方が重要である」といったように、人権に関する基本的なとらえ方に問題点があることが指摘された。

また、基本計画の策定に関しても、「人権教育のための国連10年」にちなんで国連事務総長が示した行動計画、ならびに国連人権高等弁務官事務所が策定した国内行動計画のガイドラインによれば、「国内行動計画は政府が直接策定するのではなく、様々な関係団体や関係する個人を網羅した委員会を組織し、そこで作成すること」を奨励しているが、この基本計画は法務省と文部科学省により、パブリックコメントが求められたものの「対話」がなされないままに策定されたという問題点があることが指摘された。

最後に、基本計画の消極面に関しては抜本的な改訂を求めていき、パブリックコメントを採用し改善された点などの積極面は大いに活用し、実施計画の策定を求めるとともに、年次報告を批判的に分析していくこと、自治体レベル・各方面で行動計画を定していくことなど今後の課題が挙げられた。

続いて、秋定嘉和教授からは「全国水平社創立80周年から学ぶもの」というテーマで報告がおこなわれた。報告の骨子は、これまでとらえられてきた水平社の枠組みを変えていこう、というものだ。従来、社会革命ということでは共産党がシンボルになってきた。身分解放というところでは水平社、婦人問題なら青鞜社、というように評価の枠組みが固められてきた。しかし、我々はそれを乗り越えていかなければいけない。水平社評価も同様で、尊敬するというところがあるために「遠慮する」「負の部分には触れない」というところがある。しかし、そこも含めてこれまでの「神話」を超えていこうということだ。

水平社と現在の運動との関連を考える上で、基本とするべきテーマは「人間解放」とならんで「改善費要求」というところだ。ここは従来触れられたくないテーマであったわけだが、それには大きく2つの理由がある。

一点目は融和運動に対する評価で、この運動が改善費でも成り立っていた。水平社も改善費を要求となると、そちらの流れに巻きこまれてしまう。そうなると保守的なものが批判しにくくなる。融和団体を否定しながら改善費を要求することはできないというところがあった。

二点目は1930年代に水平社も「改善費を採らないと運動が持続できない」という意識に変わっていくということ。現在の特措法の問題とも繋がってくることである。当然論争があった。これは共産党に言わせれば、革命をやめさせる「買収費」ということになる。

戦時下に入ると、水平社と融和団体が接近する、いわゆる「水・融合体」の時期を迎えることになる。全水の活動家達は同和奉公会の大会で積極的に差別解決策を提案し、地方の同和奉公会の組織にも関与しながら活動を続けることになる。ここで注目すべきは「水・融」ともに大政翼賛会に接近したが、大政翼賛会とは別組織とされたことである。日本国家はファシズム的統合の中でも差別された存在の「同化」を認めなかった。これらが戦前の水平運動の帰結である。

その後、懇談会では、これらの報告を受けて参加者から、「人権」の枠組みや可能性というものについて質問や意見が出され、報告者との間で意見交換が行われた。

(文責・川口 智)