私は、部落解放問題の研究に入って日が浅いせいか、部落解放運動と研究活動との結びつきへのこだわりからなかなか抜け出すことができません。つまり、「何のための研究か?」という素朴な疑問に、常づねとらわれています。この問いは実は、食肉業の地域史を知りたいと高知県へ行った際、水平社時代から部落解放研究に献身してこられた、北澤一先生から私に突きつけられた詰問でした。「部落解放に役立たない研究は、拒否する!」という先生の峻烈なお言葉は、それ以来、私の胸に深く刻みこまれたのでした。
駆け出しの私が言うのはおこがましいのですが、この原点の問いに立ち返るならば、部落解放研究所は専門研究機関として整備されてきた反面、組織の硬直化傾向もやや見受けられるのではないでしょうか。「職業差別問題の社会学的研究」をテーマとし、食肉業や清掃業(火葬業を含む)、建設日稼や野宿の人びとと接するなかで感じるのは、部落解放研究がこの人たちの人生と、一体どのように関わっているのかということです。問題領域を各セクションで区切ってしまうのではなく、時には大胆な実践的研究プロジェクトも必要とされましょう。たとえば、釜ヶ崎地区を含む西成区における「人権のまちづくり」研究事業のような。現実社会の差別問題は、多様な形で複合的に連関しているのですから、研究事業もそれに対応していくべきであると思われてなりません。