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2002.10.28
意見・主張
 
【人権擁護法案の抜本修正を求めるコメント】

 部落解放・人権研究所も加盟している「部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会」では、現在焦眉の急として「人権擁護法案の抜本修正」を求めた取り組みを進めています。つまり、現在政府から提出されている法案では、政府からの独立性の確保や、実効ある救済機能、報道に対する規制の問題等、大きな問題点を持っているからであり、これらの問題の解決なくして真の実効ある人権救済制度の実現や、日本の人権政策の確立は絵に描いた餅になってしまうことが懸念されるからです。そこで、当研究所としても関係各位に対して人権擁護法案の抜本修正を求めた署名ならびにコメントをお願いしたところ、早速多数の方々からコメントを頂きましたので、紹介させていただきます。(10月31日現在、敬称略、順不同)


上杉 孝實(龍谷大学教授)

 人権の尊重される社会を築く上で人権擁護法の成立を期さなければなりませんが、今の法案には問題点が多過ぎ、抜本的な修正が必要です。部落差別など数多くの人権侵害に対応するには、身近な自治体レベルでの救済体制の確立が不可欠で、少なくとも都道府県レベルでの人権委員会(独立性を持つ委員会)の設置が必要であり、それを支える事務局が独自に整備されなければなりません。また、マスコミ機関による人権侵害は防止されるべきですが、言論・報道の自由との関連で、これについては自主的な救済制度の確立を促すべきで、法による規制が統制につながることを避けなければなりません。自主団体との連携の上で人権救済を実効あるものにする法の制定を求めます。

上田 正昭(歴史学者)

 「パリ原則」を前提とすることが肝要と存じます。人権委員会の独立性・公平性・客観性が必要です。言論弾圧につながる危険性は絶対に排除することが大切です。

岡本 次男(大阪向野地域産業と歴史研究会事務局長)

 日本で初めての人権宣言といわれ、当時、世界の多くの国において高く評価された「水平社宣言」に「人の世の冷たさが、何んなに冷たいか、人間を勦る事が何んであるかをよく知っている吾々は、……」の文言があり、その吾々こそが、差別撤廃の先驅者とならねばならないと続いています。私は、この悲痛な、然も厳しい願いと実践力が無ければ、この「人権擁護法案」が決議されても形骸化するおそれが生ずるであろうと懸念いたします。この意味において、この法に生命を吹き込む為に、国、都道府県、政令都市レベルにおける人権委員会には差別問題、それに根ざす広範な人権問題に実践的に精通された人材が委員として位置づけられること、特にこの点について強く要望します。

川向 秀武(福岡県部落解放・人権研究所理事長)

 私は、2001年1月福岡市で開催された法務省人権擁護局による公聴会の公述人をつとめた一人です。当日は主として差別に対する法的規制の必要性と公権力による人権侵害への規制こそが必要であることを述べました。しかしながら現在提案されている「人権擁護法案」をみると、意見は全く無視されたものであり、非常に憤りを禁じえません。したがって私は以下のような抜本的な修正を求めるものです。

1) 「人権擁護法案」の成案にあたっては、国際的な潮流に恥じないものとする必要があります。少なくとも1993年国連総会で採択された「国内人権機関の地位に関する原則」(通称、パリ原則)に即したものにすべきです。

2) 人権委員会に法務省の外局ではなく、独立性をもたせること、実効ある救済を実現するために各都道府県・政令都市単位で設立すべきものと考えます。

3) 公権力による人権侵害こそ重大な問題であり、このことに対する規制こそ明確にすべきです。

小森 哲郎

修正を求められている5項目に賛同します。

庄谷 邦幸(桃山学院大学名誉教授)

(1) 「個人情報保護」についても、「情報公開制度」についても、地方自治体の「条例」の方が国の法律よりも先進的である。国は地方自治体の制度を学習すべきである。

(2) 国連で決議された「国際人権規約」およびその精神に立脚し、実効性のある「人権擁護法」にしてほしい。

仲尾 宏(京都造形芸術大学客員教授)

国際人権規約をもちだすまでもなく、国家はひとりひとりの人権を保障する義務を負っている。しかし国家は権力をもった組織である。権力はしばしば人間を疎外し、抑圧し、圧殺する。そういう機能をどの国家も保持している。ほんとうに人権を国家が保障するというのであれば、国家から自立した組織をつくる必要がある。

また実際に反人権行為をおこさせないような実際的な措置、反人権行為をした組織や個人が二度とあやまちをくりかえさないような仕組みをつくる必要がある。

今回提出された法案は以上の点においてあまりにも不備であり、理念的にも国際人権の基準からほどとおい。抜本的な改正案を早急にうちだされねばならない。

本田 哲郎(釜ヶ崎キリスト教協友会カトリック司祭)

真に実効ある人権救済の道を!

第154回通常国会に「人権擁護法案」が上程されたことは日本の人権擁護の歴史において画期的で、とてもうれしく思います。

しかし、充分な審議ができないまま、持ち越しとなったことが残念です。

また、法案そのものについて、「人権委員会」が政府からの独立性が不十分で、第三者的立場が保障されていないこと、中央に片寄った少人数の委員会のようで、現場に即した人権問題のチェックが困難であろうこと、マスメディアの表現の自由を制限するおそれのある委員会の権限は、かえって人権問題を深刻化するものであることなど、、危惧すべき点があるので、この機会にきちんと法案を見直しておくべきと信じます。

日本の人権意識を高め、浸透させる推進力となってきた部落解放の働きに学びつつ、野宿をしいられた労働者たちの人権問題に関わる立場からも、強く上記の3点の見直し、訂正を求めます。

森 実(大阪教育大学)

人権侵害被害救済制度がととのえば人権教育の重要性がいっそうまします。人びとがこの制度を知らなければ意味がないし、救済制度が前提にしているのは人権侵害のない社会をめざすということだからです。そのような立場から別紙5点の抜本修正とそれにあわせた人権教育の予算、体制充実を求めます。

新原 善信(小郡市三井郡部落史研究会事務局長)

今年3月、政府の人権擁護法案が明らかにされて以来、私たちは市同研及び同和地区住民と共にこの法案についての学習を重ねてまいりました。

現実に私共の周りで、今現在起こっている部落差別事件及び部落差別を温存助長する行為に対して真に有効な法律の整備こそ私たちの求めるものです。

この観点から以下の抜本修正を求めるものです。

(1)地方に人権委員会を設置し、人権侵害の現実を適確に把握するとともに被害者の痛み苦しみにきめ細かく対処できるようにして頂きたい。

(2)公務員による人権侵害を防止するためには、第三者機関として独立した人権委員会の設置は不可欠です。国際的にもこれは常識であり、パリ原則にもとづいた人権委員会として頂きたい。

(3)メディアによる報道が国民の人権侵害を引き起こす危険性は既に多くのメディア関係者の理解するところとなっています。しかし又、メディアを通して国民の権利が擁護されていることも重要な事実です。従って、メディアについては自主的な人権審査機能及び救済機能によってこの問題に対処するべきです。法律によってメディアの自由な報道が侵されないよう、対象から除外して頂きたい。

羽江 忠彦(熊本学園大学、熊本部落解放研究会)

新設される人権委員会の独立性確保は、不可欠な条件です。人権擁護法案の信頼性、有効性のために内閣府外局とすることを求めるものです。