さる10月15日、日本経団連は一連の相次ぐ会員企業の不祥事にたいし、1996年12月に改定した「企業行動憲章」(10原則)ならびに『実行の手引き』をさらに改定した。
不祥事の内容を反映して、「憲章」については、‡@消費者・ユーザーの信頼を獲得する、‡A社内外の声を常時把握し、実効ある社内体制の整備、‡Bトップの姿勢を内外に表明し、説明責任を遂行、が新たに盛りこまれた。それを具体化するため『実行の手引き』では、「企業倫理ヘルプラインの整備」「企業倫理の浸透・定着状況のチェックと評価」「日本経団連の事務局に企業倫理専門部門を新設」などが明記された。(「読売新聞」2002年10月9日、日本経団連ホームページ参照)
グローバル化時代の中で、法令遵守にとどまらない企業倫理の確立は、今日、企業にとって極めて重要な課題であり、これをおろそかにすることは「市場(社会)」からの厳しい批判、そして「退場」すら招くことを近年の出来事は示している。そのためにも、本当に「実効ある」取り組みを求めるものである。ちなみに、少し年次は古いが、各種調査にみる倫理綱領をもつ企業の比率をみると、経団連(1997年11月)−約38%、監査役協会(1997年1月)−約40%、経営倫理学会(1996年5月)−約22%、と決して望ましい状況ではない。
一方、人権の視点から、「憲章」をみた時、少し物足りなさを感じざるを得ない。1996年の改定の際、すでに「序文」で「、自然保護、地球環境保全、社会貢献を積極的に経営の中に組み込む時代になっている」とうたっており、それ以降の社会の変化をみても、国際的には1999年の国連グローバル・コンパクトの提起、国内的にも男女機会均等法の改正、DV法や児童虐待防止法・人権教育啓発推進法・社会福祉法・ホームレス法の制定、など法律だけみても人権関係の動きは著しい。
たしかに「憲章」では、「5.良き企業市民」で、「地域社会は企業の存立基盤である」「NPOとの連携」「企業の社会貢献活動は、『社会への投資』の考え方へと移行」「企業自らが社会の課題に気づき、自発的にその課題に取り組み、自らの資源を投入するという、より能動的な社会との関係づくりへの意識が高まっている」などと書かれている。
しかし人権については、全く言及されていない。部落問題やホームレス問題・外国人問題などは、ある意味では人権が不可分に関係している「地域社会の問題」でもあり、その解決に対し、企業の果たす役割は大きなものがある。
また、「具体的なアクションプランの例」では、旧来の寄付、企業財団、従業員の社会参加支援、などが示されているだけで、「本業」との関係での貢献(戦略的位置付け)については触れられていない。
「6.従業員」との関係では、「人権の尊重と機会均等――‡@性別、年齢、障害の有無などによる差別の禁止」「従業員の個性の尊重」などが示されているが、部落問題は残念ながら触れられていない。また、採用の際の身元調査禁止やその担保となるプライバシー保護(採用後の職員も含めた)の措置についても、言及がない。
この他、近年大きな社会問題となっている、リストラ後の中高年者の自殺の急増、増加する非正規職員の労働条件の低さ、30歳代で急増している過労死や過労自殺の問題、日本では特に比重が高い中小零細企業の下請け条件の悪化、など人権問題として見過ごされない課題は多い。
もちろん、これらは全て企業一人が担う課題ではない。しかし、企業の社会に対する基本的立場を示す「企業倫理」の中で意識されるべき課題ではある。
今回の改定を機に、企業倫理と人権の取り組みがさらに発展していくことを強く願うものである。