トピックス

研究所通信、研究紀要などに掲載した提言、主張などを中心に掲載しています。

Home意見・主張 バックナンバー>本文
意見・主張
 
研究所通信293号より
掲載日:2003.01.06
ジュネーブ発

国連第54会期人権小委員会を傍聴して

野上典江(青山学院大学博士課程)


 第54会期人権小委員会(以下人権小委と表記)(注)が8月16日に3週間の会期を文字通り時間一杯使い大きな拍手とともに閉会した。

 各約100余りの政府とNGOがオブザーバー参加した、活発な26人の委員の議論、NGOの意見表明、政府の政治的なコメントまたは達成事項の紹介を議題ごとに繰り返しながら、最終的には約31の決議と18の決定が採択された。大変凝縮された3週間だった。

 ここでは何点か私が気になった点について報告したいと思う。

(1)門地差別

 この問題はインドのカースト制度や日本の部落差別など全世界に同種の問題があることを背景に取上げられてきている。

 今回、委員からの2回目の職業と門地に基づく差別に関するレポートが提出されなかった。担当のグネセケレ委員(スリランカ)が再選されなかった為である。

 また、アイデ委員(ノルウェー)と横田委員(日本)が2003年の人権委でレポートを提出することが決定された。否定的と思われたソブラジェ委員(インド)も注意深く進めるべきといいながらも決議案の共同提案者になった。

 この問題について特筆すべきことは日本の国際NGOのIMADRを始め多くのNGOの活躍と今回並行して開かれていた人種差別撤廃委員会(条約機関。以下、撤廃委と表記)との連携である。

 NGOは人権委では複数のNGOの共同でのスピーチやロビーイング、撤廃委のテーマ別議論での、重要な証言・意見表明など活躍した。撤廃委の議長と書記が人権小委に招かれ議論の報告をしたり、撤廃委のテーマ別議論にも4人の人権小委の委員が顔を出し発言したりするなど、効果的な連携が見られた。

(E/CN.4/SUB.2/RES/2002/16 The rights of minorities)

(2)組織的なレイプ、性的奴隷制等

1992年以来続いて討議されているこの問題に関する決議は、今回の決議も日本の従軍慰安婦問題に関連していると考える余地は残されていると考える。ただし、日本の関連の問題は非常に微妙な問題になりつつある。

 横田委員は2000年以来の特定国決議が人権小委でできなくなったことを強調し、新聞報道が日本に対する決議を人権小委が行ったかのような誤解を生む報道がなされていると会期中に遺憾の意を表した。

 今回の決議(E/CN.4/SUB.2/RES/2002/29)は、人権高等弁務官へ報告書の提出を求め、武力紛争時の性犯罪の処罰の確保や人権教育、歴史的記述の正確さ等について言及している。

 日本政府としては民間のアジア女性基金による事業以降、日本の従軍慰安婦問題は終わった、または人権小委の決議と日本問題との切り離しという政策のように感じられる。なお日本政府は全会期にわたって出席はしていたが発言することは全くなかった。これに対しアジア女性基金に批判的な日本のNGOや韓国のNGO等が意見表明やブリーフィングなど多くの働きかけをしながら日本問題の継続を志向していた。

 政府の発言では北朝鮮が日本についてかなり批判的な発言を行った。これに対し横田委員は人権小委が特定国を対象にした決議ができないことを強調した。

 決議案(E/CN/.4/SUB.2/2002/L.41)は韓国の朴委員が中心の提案者となり、横田委員を含め19人が共同提案者となって無投票で採択された。

 特に注意を惹くのは、その決議案と決議の大きな変化である。決議案は朴委員を含め14名の委員が共同提案者となっていたが、その前文の日本問題を多く取り扱った文書への言及は削除された他、「教科書」という日本を想起される(?)言葉は削除されるなど、かなり簡素なものになった。

(3)難民の国際的保護

 難民の国際的保護に関する決議案は採択時において少々例外的に委員間で論争が見られた。

 決議案は朴委員が当初提出したものにハンプソン委員(英)が大幅に修正し提出された(E/CN.4/SUB.2/2002/L.45)。これに対しチェン委員(中国)が、「送還により迫害される明白な恐れがある場合その領域にその人を送還してはならないという国家の義務を想起する」というノン・ルフールマン原則に関する段落で、チェン委員はこの段落の一般慣習国際法の原則的な文脈を条約上の義務へとかえようという意図からと思われるが、「ひと」を「難民」(難民条約上の難民)に変える修正案を提案した。この修正案は投票により否決され、ハンプソン案が無投票で採択された(決議E/CN.4/SUB.2/RES/2002/2/23)。

 北朝鮮からの亡命者の事件も背景にしてか、白熱した議論が委員の間でなされたのは印象深かった。

最後に

 NGOの人権に関する活動の重要性を最後に述べたい。

 NGOの多くの発言は重要な証言であり現実にある問題を教えてくれる。具体的な事実があってはじめて人権小委の委員もその問題についてのレポートを作ったり、具体的なそして意義のある決定や決議を作ったりすることができる。そして、これらのレポートや決議や決定を一般に広めることや適用していくことにもNGOの活躍が期待されている。

 NGOと委員との共同作業は私が一番感銘を受けたことだった。

 人権小委の下に新しく設けられた「社会フォーラム」は、社会権の促進の為にNGOからの意見がより得られるように組織されたユニークな場として、登場している。人権小委が各国にさまざまな努力を求めるように、国家は具体的な実行の主な担い手であるNGO、人権小委、国家の建設的な連携を期待したい。

 末筆ながら、上記は筆者が部落解放・人権研究所の原田伴彦記念基金の支援を受けIMADRジュネーブ事務所のインターンとして小委員会を傍聴したことによる報告である。ここに感謝の意を表したい。

※(注)

人権小委員会は国連の経済社会理事会の主要な下部機関で26人の専門家が人権の保護と促進のための研究と人権委員会への提案が任務である。毎年1度会合を持つが,この際、政府と経済社会理事会との協議資格を持つNGOがオブザーバーとして参加でき、また発言の機会を持つ。