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杉之原寿一さんが人種差別撤廃条約の対象に
部落差別が含まれるとの論文を発表

友永健三(部落解放・人権研究所所長)


  京都の部落問題研究所の中心的な論客の一人である杉之原寿一さんが、雑誌『人権と部落問題』úY705号、2003年7月号で、「人種差別撤廃条約と部落差別」と題した論文を掲載し、人種差別撤廃条約の対象に部落差別が含まれるとの見解を明確にした。

  周知のように、京都の部落問題研究所は、部落解放同盟と敵対し、基本的には全国部落解放運動連合会(全解連)と共同歩調を取ってきた。全解連は、この間一貫して部落差別は人種差別撤廃条約の対象に含まれないとの論調を展開し、政府にも交渉してきている。そして、部落問題研究所もその立場で論文を掲載してきた。

  しかしながら、今回、杉之原さんは、人種差別撤廃条約の第1条で規定されているdescent(世系・門地)の対象に部落差別が含まれるという論文を掲載したのである。その理由として掲げている論拠は二つで、その内の一つが、「普通名詞及び学術用語としてのディセント(descent)」を分析したとき、「何らかの特質が祖先から子孫へ受け継がれ、出生によって決定されることを意味する言葉である。」という点である。

  もう一点は、国連・人種差別撤廃委員会や人権の促進及び保護に関する小委員会が、「descent(世系・門地)という文言がそれ独自の意味を持っており、人種や種族と混同されるべきでない」、「『世系』に基づく差別が、カースト及びそれに類似する地位の世襲制度などの、人権の平等な享有を妨げ又は害する社会階層化の形態に基づく成因に対する差別を含むことを強く再確認する」との見解を明らかにしたことに基づいている。

  これらの点を踏まえて、杉之原さんは、「『世系』とは、祖先から子孫に受け継がれる集団ないし階層への帰属が、原則として出生によって自動的に決まるような成員権ないし地位の伝達様式である・・・(中略)・・・同一の人種や民族の内部、あるいは人種や民族をこえて多くの『世系集団』が存在している。」と定義づけ、部落差別も「世系に基づく差別」に含まれ、人種差別撤廃条約の適用対象となると結論づけている。

  その上で、杉之原さんは、日本政府が「本条約の適用上、"descent"とは、過去の世代における人種若しくは皮膚の色又は過去の世代における民族的若しくは種族的出自に着目した概念を表すものであり、社会的出身に着目した概念を表すものとは解されない。」と述べている点について、「この日本政府の見解は、上記の『世系』概念から逸脱しており、明らかに誤っていると言わねばならない。」と断定している。

  この杉之原さんの指摘に基づけば、descent(世系・門地)の対象に部落差別が含まれないとする全解連の見解も「明らかに誤っている」こととなるが、全解連は、これに対してどう回答するのであろうか、注目したいものである。

  なお、杉之原さんは、人種差別撤廃条約の対象に部落差別が含まれるとの立場を明確にしたものの、部落差別の現状認識については、相変わらず解消論の立場に立っている。また、差別宣伝や差別扇動、さらにはこれらを目的とした団体を結成することなどやこれに加入することを犯罪として処罰することを求めた人種差別撤廃条約の第4条については、極めて否定的な立場を取っている。これらの点についても、部落差別の現実と差別撤廃を求めた国際的潮流を踏まえた判断がなされることを期待したい。