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意見・主張
 
掲載日:2003.04.10
池田寛先生を偲ぶ
-教育コミュニティ研究会の思い出-

中村 清二(部落解放・人権研究所研究部長)

 「解放教育の理論創造をできる数少ない一人」とある方が池田寛先生を評しておられた。比較的短いお付き合いだったが、まさにその姿を拝見してきた10年であった。

 池田先生との継続的なお付き合いが始まったのは1995年より研究所教育部門の研究者メンバーで研究会を始めた時からである。この年は、大阪府が家庭の教育力と学校での学力保障を連携して高めていく取り組みとして「ふれ愛教育推進事業」(Community Child Plan=CCP)をスタートさせた年であった。池田先生は「高槻富田地区における地域教育システムの構築」『地域の教育改革と学力保障』(1996年)、「地域教育改革の課題」『大阪発 解放教育の展望』(1999年)を執筆され、一貫して「地域(学校も含んだ)の教育改革」をテーマとしてこられた。

 それは、解放教育で培ってきた大阪の学校と地域の協働を高く評価されると共に、それを学校と「被差別部落だけでなく校区全体」の協働に発展させること、更には同和教育推進校だけでなく全ての「中学校区」での取り組みに発展させていくこと、そしてその中に解放教育の発展の基本方向と今日の教育改革の展望を大きく見出しておられたからだと思う。

 当時、あまり理解はできていなかったが、何か強い魅力を感じ、先生に2000年度から「地域の教育改革」を中心テーマに研究会を立上げられないかとご相談したら、二つ返事でやろうと言われ、姫路工業大学(当時)の高田一宏さんと池田研究室の大学院生8名で、池田先生命名の「教育コミュニティ研究会」が発足した。その時の先生の人懐こい笑顔は今も忘れられない。

 病院退院後の昨年春、研究室をお伺いし、「教育コミュニティと人権意識の変容」の取り組みをご相談した時、先生の論文「コミュニティの再生と学校改革-米国の参加・協働論-」「教育コミュニティの理論-市民性教育の実現のために-」『教育コミュニティづくりの理論と実践-学校発・人権のまちづくり-』(2003年)に話が及んだ。「学力低下」が一面的に声高に叫ばれていることへの強い反発と、公教育の内容や責任を研究し発信していない日本の教育学者への苛立ちを述べられ、「療養中で時間も取れたので、アメリカの教育改革を原文で一日200頁ほど読んでいるんや」とうれしそうに言われた。是非、研究所の紀要にそれをまとめて寄稿して下さいとお願いした。紀要155号(2003年12月)の「シカゴ教育改革の理念と学校再建への取り組み(上)」である。

 先生の遣り残された課題の一つである、教育コミュニティづくりが被差別者のエンパワメントと人々の偏見の抑制や解消に大きな役割を果たすこと、の検証を微力ながら追求していきたい。先生、安らかにお眠りください。