4 人権救済機関設置に向けて
(1)地方における人権委員会の考えられる機能
大阪府内においては身近で当事者の立場に立ったきめ細かな相談ができる体制づくりを進めており、こうした人権相談窓口においては人権侵害に直面した人が自らの主体的な判断に基づいて課題の解決ができるよう支援している。しかし、自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある場合は、人権救済機関で被害者の救済が図られなければならない。
<1> 地域性・迅速性・利便性
市町村や財団法人大阪府人権協会に寄せられた人権相談を人権侵害の発生場所別に見ると多くが「近隣・地域社会」、「職場・会社」、「自宅」、「近隣・地域社会」で発生しており、人権侵害は自宅、人々が暮らす地域、働いている職場などで生じることが多く、こうした身近な場面で生じる人権侵害の救済をすべて中央の人権委員会で処理することになれば、迅速な人権救済が図られないものと考えられる。そこで、新たに設けられる人権救済機関には身近なところで発生する人権侵害に対応できる地域性・迅速性・利便性が求められる。
<2> 実効性
市町村や財団法人大阪府人権協会に寄せられた人権相談をその後の経過別にみると、「カウンセリングによる心理的サポートで解決」、「個別の専門相談機関へ取次ぎ専門相談機関で事案対応」など相談の半数近くがこれらの手法により解決されている。
しかしながら、相談で解決できないものや相談者の意思により相談を打ち切っているものについては、公平・中立的及び専門的な立場から当事者間を調整する第三者機関が必要であり、その第三者機関には課題解決のため、あっせん・調停・勧告などの実効的な救済機能が必要である。
[相談から救済への流れ]
(2)法律に基づいて人権委員会を設置する場合
廃案となった人権擁護法案を基礎に、新たに提出される(新)人権擁護法案(仮称)が真に実効性のある人権救済制度となるには、中央組織・地方組織がどのようなものでなければならないかを検討する。
<1> 人権委員会(中央組織)について
旧人権擁護法案においては、人権委員会は法務省の外局として置かれることになっていたが、効果的な調査や積極的な救済が図られるためにも、人権委員会の独立性を確保する必要がある。こうしたことから、人権委員会は法務省の外局ではなく、総合調整機能を有する内閣府の外局として設置されるべきである。
また、人権委員会が実効性ある組織として機能するには、その体制の充実が必要であり、そのためには、人権委員会の委員については、常勤の委員を半数以上にするとともに、その選任においても見識や学識だけでなく、当事者性やこれまでの活動経験なども考慮するべきである。
<2>道府県人権委員会(地方組織)について
人権問題は地域に根ざした人々の日常生活の中で生じる場合が多いことから、中央の人権委員会が一括で処理する体制ではなく、各都道府県に独立した人権委員会を設置し、それぞれに人権救済を図っていることが必要であり、中央の人権委員会と同様の救済機能を有する都道府県人権委員会をすべての都道府県に設置するべきである。
また、人権委員会が救済や啓発に係る活動の過程で得た経験・成果を、行政機関の長である知事や関係行政機関の長等への助言を通じて政策に反映させるための意見提出権を国と同様に付与すべきである。
このように新たに提出される(新)人権擁護法案(仮称)において、中央に人権委員会、都道府県に都道府県人権委員会が設置されることにより、今後の人権侵害による被害の救済がどのように体系化されるかを図示すると以下のようになる。
[人権侵害を受けた場合のフローチャート]
(3)都道府県条例に基づいて人権委員会を設置する場合
法律に基づく実効性ある人権委員会が中央と都道府県に設置されることが、人権問題を効果的に解決するには不可欠であることから、法案の修正・再提出・審議・成立が速やかに行われ、法律に基づく実効性のある人権救済制度が早期に確立されることが望まれる。
しかしながら、人権侵害による被害は日々生起しており、こうした被害の救済を図る公平・中立で独立した機関(都道府県人権委員会)やシステムを都道府県が独自に整備することも検討されるべきである。こうした法律に基づかない人権救済機関を真に実効性ある人権救済機関とするには、都道府県条例でその組織、職務内容、手続き等を定めることが必要であるが、法律と条例との関係から次のような課題がある。
- 全国一律のセーフティーネットとして法律で統一的な取り扱いが望ましい事柄を条例で制定する必要性の問題
- 条例は法律に違反しない範囲で制定することができることから、DV防止法や児童虐待防止法など個別法との整理の問題
- 国の事務、市町村の事務、政令市・中核市の事務との整理の中で都道府県の事務としての妥当性の問題
- 住民に義務を課し、または権利を制限するには、その範囲は具体的状況に応じ必要最小限にとどめるとともに、その行使に慎重さが求められるという問題
- 私法上の制限をどのように定め、私法秩序をどのように形成するかは、国民全体の社会共同の基本に関わる事柄であるため、国の法律で統一的に定めるべきであるという私人間の法秩序を条例で定める適否の問題
こうした条例制定にともなう課題を解決したうえで、独立性、専門性、実効性を備えた都道府県独自の人権委員会を条例により設置した場合、加害者別に都道府県人権委員会の機能がどのようになるかを整理すると、以下のようになる。
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