2004年夏、英国のキール大学政治・哲学・国際関係・環境系(SPIRE)のPGリサーチアシスタントである中村隼人さんが原田伴彦記念基金に基づく国際人材養成プログラムの支援を得て、反差別国際運動(IMADR)のジュネーブ事務所のインターンとして第21期国連先住民作業部会(以下、作業部会)、第56会期国連人権推進擁護小委員会(以下、小委員会)、第65会期国連人種差別撤廃委員会の監視活動に参加した。
以下、中村さんがまとめた今会期の注目点を紹介する。
「職業と世系に基づく差別」の特別報告者任命に向けて
2000年より小委員会で「職業と世系に関する差別」に関しての研究および討議がなされてきている。今会期ではアイデ前委員(ノルウェー)と横田委員(日本)による拡大作業文書(E/CN.4/Sub.2/2004/31)が提出され、人権条約機関における各国報告および最終勧告におけるこの問題の取り扱い、特に北米大陸と英国における離散コミュニティにおける差別に関する研究が紹介された。
また委員からは差別撤廃のための原則と指針に関する提案、そして今後この問題を特別報告者という一段高いレベルにおいて取り扱っていくことが提案され、審議・決議でも特別報告者の任命が大きな問題となった。
インド政府のロビーイングもあり、決議の際は2名の委員が特別報告者の任命という方法について留保をしたものの、横田委員と、ソウル大学女性研究所所長の鄭鎮星委員が特別報告者とすることが勧告された。新任の鄭委員は特に職業と世系に基づく差別とジェンダーの複合差別および移住コミュニティの現状に注目する必要性を強調する発言をしており、この分野における差別実態の解明が期待される。
一方で今回の勧告はまだ「勧告」に過ぎず、横田委員と鄭委員が正式に特別報告者になるには政府間の会議である人権委員会の決議を待たなくてはならない。人権委員会での政府へのロビーイングが次の重要な活動となる。
マイノリティを巻き込んだ紛争
今回の国連人権関連諸会議における一番の注目点はなんといってもマイノリティを巻き込んだ紛争に関する事項であろう。事実、今会期中BBCやCNNなど国際的メディアのトップニュースを独占したのはスーダンにおけるダルフール紛争であった。
ニューヨークでは安全保障理事会においてスーダン政府がやり込められている場面があったようであるが、ジュネーブでは一転スーダン政府がマイノリティの権利を重視し国連レベルの地域セミナーの招致を表明するなど関係者をあっといわせた。だが、IMADRとジュネーブでの活動で協働しているマイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナル(本部・ロンドン)などは、スーダン政府は、紛争での加害者となったアラブ人たちを「マイノリティ」とみなしているに過ぎず、必ずしもNGOが求めてきた「マイノリティ」の保護ではないという可能性が非常に高いと懸念を示しているのが実態である。
先住民族作業部会でも先住民族が巻き込まれる紛争が主要テーマとして取り上げられ120以上の先住民族代表が延々と実態を報告し、紛争が如何に根深い問題であるかをさらけ出した。
人種差別撤廃委員会ではダルフールの事態に対して人権保護を早急に実施するよう決議を出すとともに、ダーバンのフォローアップの一環として人種差別に関する早期警告システムの一環として専門家による緊急訪問制度を創設することも一部委員から提案され、さらなる検討が始まっている。
部落・アイヌ・沖縄・在日などといった日本のマイノリティも古くは一揆という形から、土地の軍事化、財産闘争といったさまざまな紛争に巻き込まれている現状にあり、この問題に関する議論に積極的に参加していくことが重要であろう。
(注)なお、より詳細な報告については近々研究所紀要『部落解放研究』ならびに月刊『ヒューマンライツ』にて紹介される。
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