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2005.03.08
意見・主張
  
真価が問われる企業の社会的責任
-中国と日本での雇用問題-

中村清二(部落解放・人権研究所研究部長)

 企業の社会的責任(CSR)という言葉が「ブーム」の様相を呈するほど、新聞や出版物で賑わっている。これ自体、グローバル化の中で、日本企業が大きな転換点にたっていることを象徴しているのだが、その内実となると課題は大きい。その一つが、雇用問題である。

 具体的には、(株)日本総合研究所のCSRニュースレター「CSRArchivevol.014」2005.2
 (http://www.csrjapan.jp)での「中国における日系企業のCSRリスク」と、厚生労働省の『労働経済白書』2004.9の「フリータ(ニート)問題」が象徴的である。

 前者のニュースレターでは、<1>2004年2月16日付け「ニューヨークタイムズ」紙で日本の大手電機メーカーの現地法人深セン工場で一万人規模の中国人のストライキが発生、原因は明確になっていないが労働条件がらみと報道されていること、<2>昨年10月の新聞には「外資系企業は中国の法律(労働組合の設立)を無視している」と実名入りでウォルマート、コダック、デル、サムソン、マクドナルド、ケンタッキーなどが批判されたこと、<3>この背景には、これまで外資系企業誘致を優先してきたため組合設立に強い姿勢を取ってこなかった中国政府が、近年の国内経済格差問題を放置できないことから方針転換し、労働争議も年間約27万件と急増していること、<4>中国における日系企業のCSR対応が弱いこと――スイスのプライベートバンクのレポートで多国籍企業の中で日本企業は「最賃は守っているが賃金水準は高くないこと」「労働者斡旋業者への依存度が高いこと」「行動規範の制定が進んでいないこと」「サプライヤーの関係で行動規範の提示がされていないこと」が指摘されたり、昨年10月6日深?有数の電子部品工場で劣悪な労働条件を理由に大規模なストライキが発生、企業は香港系だが顧客の大半は日本企業であったことが問題になったこと、等が紹介され、日系企業の対応が問われていることが指摘されている。

 一方、『労働経済白書』では既に紹介されているように、15-34歳の人口約1900万人のなかで、アルバイト・パートなどのフリータが約200万人、失業者を加えれば約420万人にも達すること、さらに「ニート」(学校へ行かず、働かず、職業訓練も受けない若者)は約52万にも及んでいること、が指摘されている。こうした若年者の深刻な雇用状況は、特に被差別部落や障害者、児童養護施設、母子家庭、外国人など社会的困難を抱える若者の場合、特に顕著である。

 こうした状況に対し、これまでのように「企業丸がかえの研修」は困難な面があるものの、行政やNPO等とタイアップした職業訓練、生徒や学生の職場体験・インターンシップの受け入れ、トライやる雇用(規定の3ヶ月だけでなく正規社員への道も開いた)への協力、などできることは少なくない。若年者の雇用問題は、たんに雇用だけの問題に留まらず、社会への参画からも「排除」するという深刻な結果を生み出すものであり、「労働におけるCSR」として捉えて取組むべき重要な課題である。しかし、現状は消極的な実態がある。

 上記の問題は、CSRの内実が問われる重要な、しかも中長期におよぶ課題である。