2005年3月16日、最高裁第1小法廷は石川一雄さんの第2次再審請求で、請求を退けた東京高裁決定を支持し、特別抗告を棄却する決定をした。私たち部落解放・人権研究所は、この決定に強く抗議する。また、あわせてえん罪や部落差別を直視せず形式的な書面審査だけで決定を行った最高裁の体質やえん罪を温存助長している司法制度の早急な改革を改めて訴えるものである。
1963年埼玉県狭山市で起こった狭山事件は、捜査の行き詰まり後、被差別部落への集中見込み捜査の末、石川さんを別件逮捕し、いったん保釈後すぐに再逮捕した。この間弁護士や家族とも会わせず、計約1ヶ月におよぶ警察留置場(代用監獄)での勾留と石川さんの社会的無知(差別の結果強いられたものであるが)につけこみ「自白」をさせたという、典型的なえん罪事件である。
「部落差別に基づくえん罪事件」として、事件当初から石川さんの「有罪証拠」への深刻な疑問が指摘されていた。今回、弁護団が最高裁に提出していた石川さんの無実を裏付ける新証拠―<1>被害者宅に届いた脅迫状と石川さんが警察署長に出した上申書とでは筆跡が異なること、<2>小学校低学年レベルの国語能力だった石川さんにこの脅迫状は書けないこと、<3>「2回目までの捜索で鴨居を捜しても見つからなかった」とする元捜査官の証言からも、脅迫状を書くのに使った万年筆が石川さん宅への2回の家宅捜査で発見できなかったということはあり得ないこと、等―に対しても、最高裁は石川さんの「犯行であることに合理的な疑いを生じさせない」と一蹴している。
故和島岩吉・狭山再審請求弁護団団長(元日本弁護士連合会会長)は、「市民の健全な常識感覚」からすればこうした判断はありえないことであるとして、えん罪事件に対する司法判断を厳しく批判されてきた。しかし、人権を守る最後の「砦」であるべき最高裁は、その誤りをまたもや繰り返したのである。
さらに、狭山事件をはじめえん罪事件の温床と批判されてきた、最長23日間、警察の留置場に被疑者を拘禁することができる代用監獄制度や検察が持つ数多くの証拠の非開示など、えん罪防止のために改善しなければならない法制度上の課題を、政府は放置し続けている。これらの改善は、国連・自由権規約委員会からも早くから指摘を受けてきた点であり、国際的な人権基準からしても大きな課題なのである。
私たちは、今後、無実をはらすため第3次再審請求を開始する石川さんや弁護団と固く連帯すると共に、日本の司法ならびに政府当局が石川さんの無実を含む誤判を一日も早く救済するとともに、えん罪事件を防止するためのあらゆる適切な措置を早急に講じることを強く求めるものである。
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