トピックス

研究所通信、研究紀要などに掲載した提言、主張などを中心に掲載しています。

Home意見・主張バックナンバー>本文
2005.09.13
意見・主張
  
第1回 識字活動支援「安田識字基金」助成対象事業の審査結果について

 1990年の国際識字年を契機とした日本国内における識字に関する認識の広まりのなか、1991年12月、安田信託銀行(当時)の公益団体である安田和風会によって「同和研修10年記念安田識字基金」が創設され、日本国内とアジアを中心とした識字に対する活動支援が行われてきた。「国連識字の10年が始まって3年目になる今年度から、この基金の半額が部落解放・人権研究所に寄付されることとなり、研究所では「同和研修10年記念安田識字基金」の伝統を受け継ぎ、日本国内および広くアジアにおけるマイノリティの識字活動を助成する基金として、部落解放・人権研究所 識字活動支援「安田識字基金」(以下「安田識字基金」と略)を設置することとした。

 「安田識字基金」による助成対象事業を募集する初年度となる今年、『解放新聞』中央版・大阪版、「ヒューライツ大阪」や研究所HP上等で6月末から募集を開始、7/20までの短い期間ながら、国外から1件、国内から5件の応募があった(1年あたりの助成額は、国内・国外ともに1件あたり最大50万で、国内・国外それぞれの総額は最大100万円である)。

 7/29の運営委員会(上杉孝實・榎井縁・友永健三)において、これら6件の応募について審査を行った結果、次の4件に対する事業助成が決定した(応募順)。

 〈国外〉

 IMADRアジア委員会(スリランカ)による、スリランカのゴール地区の紅茶農園労働者コミュニティ、およびスリランカ東部州のロディヤ(移動者)のコミュニティにおける「識字を通したエンパワメント」事業に対し、助成限度額の50万円。

〈趣 旨〉

 イギリス統治時代にインドから連れてこられ、スリランカの多数派であるシンハラ人の私有農園で働き、今日なお最も識字率が低いゴール地区の紅茶農園労働者のコミュニティ、および農業技術を持たないため、物乞いや魔術・占い等で糧を得、シンハラ人との婚姻が禁じられている東部州のロディヤ人(「移動する人」の意)のコミュニティは、ともに社会的に差別、排除されている。

 人種主義・差別と闘い、アジアを中心に世界のマイノリティ間の国際連帯と支援を育てる努力をつづけてきたIMADARアジア委員会は、特に女性と子どものエンパワメントにつなげることを目的とする諸教育事業(人権/マイノリティ問題に関する識字活動のためのリーダー教育、子どものための就学前教育、リプロダクティブヘルスの学習を含む女性のための教育等々)を3年の間に段階的に積み重ねていくことを計画している。

 〈国内〉次の3事業に対して、今年度枠として計74万円を助成することが決定した。

 <1>八尾識字日本語連絡会(大阪府八尾市)による高砂日本語教室に対し、教材・文具費10万円、指導者用書籍5万円、指導者交通費25万として、計40万円。

〈趣 旨〉

  国際識字年の意義を広め、市民の理解を深めることを目的に1990年以来、諸イベントやビデオの作成、市内在住の中国帰国者・渡日者の実態調査、読み書き交流会等の活動を行ってきた八尾識字日本語連絡会が、「国連識字の10年」にあたり、八尾市内に住む日本語学習希望者が居住地域で日本語を学べる場所をつくることを目標に、当面、中国帰国者が多く住む府営高砂住宅内で地域の人たちの協力も得て、毎週土曜日の夜、日本語を学べる場所をつくるというのが事業の趣旨である。

 <2>在日のハルモニたちが学ぶ青春学校(福岡県北九州市)による、識字の成果としての「自分史」の執筆支援「―自らの人生と歴史とをつなげる想像力の獲得にむけて―」の事業開始に対し、10万円。

〈趣 旨〉

  高齢の在日韓国・朝鮮人のために、「万人のための教育」の保障と地域での国際交流を目的として1994年に開設され、ボランティアの自主運営によって毎週1回の識字学習(ペア学習)のほか、交流活動や文集作成等を行ってきた、青春学校は、これまでの識字学習で得た文字や知識をもとに、厳しい環境におかれながらも逞しく生き抜いてきた学習者自身のライフヒストリーを一定の訓練を受けたスタッフが記録化していく事業と、ペア学習のなかで学習者自身が学習者自ら自分史を綴るという事業を同時並行で進めることが計画されている。

 <3>ききとり識字教材化委員会(大阪市)による「被差別部落の女と唄」の再構成と新たな識字教材の創造の事業に対し、語りと唄の聞き取りMDからの原稿化・再構成の作業に対する原稿料として、24万円(2年目も原稿料として24万円の助成が決定した)。

 〈趣 旨〉

 大阪府内の被差別部落をまわってききとりをし『被差別部落の女と唄』をまとめた多田恵美子さんと部落解放・人権研究所識字部会が中心となるききとり識字教材化委員会は、多田さんが1975年頃からききとってきたおばあちゃんたちの語りや唄を247本のMDからおこし、語りの生きた言葉を活かし、識字学習に使いやすい短い文章およそ30本ほどにまとめ直して出版する教材化事業を3年間で進める計画である。本事業は、当時の部落の生活文化が失われ、当時を知る人も少なくなっていくなかで、これらを広く知らしめるとともに、学習者の多くを占める部落の高齢女性をはじめ被差別の学習者にとってのエンパワメントにつながることが期待される。

(事務局:熊谷愛)