「国連10年」の成果
世界中に人権文化を創造することをめざし、1995年1月から開始された「人権教育のための国連10年」(「国連10年」)も、2004年12月末で終了しました。
この間、<1>人権教育の重要性に関する関心が高まった、<2>各方面でパラバラに取り組まれていた人権教育の連携が作りだされてきた、<3>人権との関わりの深い教員や公務員、警察官や検察官、医療や福祉関係職員、マスメディア関係者などに対する人権教育の必要性に関する認識が高まってきた、<4>被差別者の人権を重視することの必要性が理解されてきた、<5>国や自治体などで「10年」にちなんだ体制が整備され、行動計画が策定されてきた、などの成果を上げてきました。
とりわけ、日本では、2000年12月6日、人権教育および人権啓発の推進に関する法律(「人権教育・啓発推進法」が公布・施行されたことは大きな成果です。また、問題点を孕んでいるものの、この法律を受けて国のレベルで人権教育・啓発基本計画が策定され、「人権教育・啓発白書」が毎年公表されていることも評価することができます。
「国連10年」の問題点
しかしながら、国内外の人権状況をみたとき、世界中で人権教育を実施することによって人権文化を創造し、差別や人権侵害、さらには戦争をなくそうという「国連10年」の目的は、未だ達成されていないといわねばなりません。
この10年を振り返ったとき、<1>人権教育に取り組んでいない国や自治体、さらには分野がある、<2>計画が策定されているところでも、具体的な差別や人権侵害をなくし人権が尊重された地域や職場を作っていくための行動と結びついていない、<3>特定職業従事者の中で人権教育を推進していくためのテキストやカリキュラムが作成されていない、<4>計画の評価と見直しが行われていない、といった問題があります。
「世界プログラム」の内容
このため国連総会は、昨年12月10日、「国連10年」終了後の2005年1月から「人権教育のための世界プログラム」(「世界プログラム」)として引き継いでいくことを求めた決議を採択しています。「世界プログラム」の内容は、3年程度の期間を定め、人権教育を推進していくための一つの重点分野を設定した計画を積み上げていくというもので、最初の3年間(2005年1月-2007年12月)は、初等・中等学校制度における人権教育の推進に重点を置くこととしています。
国連人権高等弁務官事務所が中心となってとりまとめ、総会に提出された「世界プログラム」第一段階(2005年-2007年)のための行動計画案は、I .人権教育のための世界プロクラム、II .第一段階(2005年-2007年):初等・中等学校制度における人権教育のための行動計画、III .国レベルにおける実施戦略、IV.行動計画の実施の調整、V.国際的な協力および支援、VI.評価、の6章から構成されています。
初等・中等学校制度での人権教育の推進
「世界プログラム」の行動計画案は各国からの修正意見を採り入れ、2005年7月14日国連総会で採択されましたが、「いじめ」や「不登校」、小・中・高等学校での部落差別をはじめとした差別事件が後を絶たない現状、児童虐待や青少年による「犯罪」の現状を見たとき、日本においても、この機会に初等・中等学校制度における人権教育を充実していくことが求められています。
このため、国のレベルでは、文部科学省の中に人権教育を推進していくための部局を設置すること、人権教育を推進していくための方針と計画を策定すること、その一環として昨年6月、人権教育の指導方法等に関する調査研究会議による「人権教育の指導方法等の在り方について(第一次とりまとめ)」が公表されましたが、これを活用することも必要です。また、自治体レベルでは、教育委員会に人権教育課を設置、拡充をはかるとともに、人権教育基本方針、基本計画を策定、改訂充実をはかることが求められています。さらに、すべての学校で、人権教育を推進していくための計画を策定することをめざす必要があります。この他、民間レベルでも「世界プログラム」推進連絡会を設置し、国や自治体などへ働きかけるとともに、推進連絡会に参加する団体自らも人権教育を推進していくための計画を策定することが求められています。既に、いくつかの地域では同和教育研究協議会や人権教育協議会が組織されていますが、これらの組織の活動に「世界プログラム」の推進を位置づけていくことも必要です。
新たな行動計画の策定とあらゆる分野での人権教育の推進
初等・中等教育制度における人権教育は基本となるものですが、これだけでは不十分です。たとえば、「人権教育・啓発推進法」では、3条で「学校、地域、家庭、職域その他様々な場を通して」人権教育・啓発を推進していくことを求めています。
「国連10年」の総括を踏まえた「世界プログラム」の創造に向けた今後の課題としては、なによりもまず、「国連10年」行動計画を全面的に見直し、「世界プログラム」を踏まえた新たな行動計画を策定することが求められています。この新たな行動計画には、<1>学校教育をはじめあらゆる分野で人権教育に取り組むこと、<2>このため、あらゆる分野で体制を整備し計画を策定すること、<3>それぞれの分野でテキストとカリキュラムを作成すること、<4>具体的な差別や人権侵害を克服し、人権が尊重された地域や職場を創造していくことに役立つものとしていくこと、などが盛りこまれる必要があります。
国連持続可能な開発のための教育の10年との結合
なお、2005年1月から「国連持続可能な開発のための教育の10年」(「持続可能な開発教育の10年」)もスタートします。この10年がめざす目標は、<1>同一世代内の「公正」(貧富の較差の是正など)、<2>異なった世代間の「公正」(次世代に豊かな地球環境を残すことなど)、<3>人間と他の生物や自然との「公正」(生物の多様性を維持し、温暖化を防止することなど)、の3点です。この内、これまでの「人権教育」では、<1>で提起されている内容は取り組まれてきていますが、<2>や<3>で提起されている内容は、考慮されてきていません。しかしながら、広い視野から将来を展望して人権の確立を考えたとき、これらも、これからの人権教育の内容に位置づけていくことが求められています。
戦後60年にあたり差別撤廃・人権確立に向けた取り組み強化を
折しも本年2005年は、第2次世界大戦が終了して60年です。この戦争の反省のなかから「差別を撤廃し人権を守ることが恒久平和を実現することに通じる」という基本理念を盛り込んだ世界人権が採択されたのです。こうした節目の年に、「世界プログラム」がスタートしましたが、この機会に初等・中等教育制度をはじめあらゆる分野で人権教育を推進し、差別と人権侵害のない平和な社会の創造にむけて努力していくことが求められています。
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