「人権教育の世界プログラム」の具体化としての「第二次とりまとめ」
10月26日に「第二次とりまとめ」(案)が公表され、11月18日までの意見公募をへて12月には成案となる。これは、国際的には「国連人権教育の10年」(本年より「人権教育の世界プログラム」)、国内的には「人権教育啓発推進法」の学校教育における具体化である、2004年6月の「第一次とりまとめ」をふまえて、出されたものである。
「第一次とりまとめ」は「人権教育の指導方法等の在り方について」の基本理念を整理したものだが、「第二次とりまとめ」は「第一次」の理念を具体化・肉付けをしたものである。内容的には大きく、<1>人権教育の基本的考え方、<2>学校としての組織的な取り組みと家庭・地域及び校種間の連携、<3>人権教育の内容と指導方法等の充実、<4>学校や教育委員会の研修等の取り組み、の四点の柱からなる。
積極的な活用・発展を
「第二次とりまとめ」(案)の内容は若干の課題はあるものの、人権・同和教育を推進していく上で基本的に評価・活用できるものである。その内容を、以下10点にわたり紹介する。
第1に、「第一章 人権教育の改善・充実の基本的考え方」において、国際的な人権教育の視点を明確に位置づけ、知識、価値・態度、技能そして環境を重視していることである。そして、体系的な人権教育のカリキュラムづくり(学習活動・授業作り)と「隠れたカリキュラム」としての「環境づくり」(学級経営や生徒指導、校長・教職員の資質等の学校自体の雰囲気)を指摘している。
第2に、「第二章 第一節 学校としての組織的な取組と関係機関等との連携等」では、学校としての組織的な取り組みを重視し、「人権が尊重される社会の実現」という未来志向的・建設的な学習目標、人権教育全体・年間指導(推進)計画の策定・研修、実践の点検・評価、これらのための校内推進組織と担当者の確立を指摘している。
第3に、家庭・地域、校種間の連携とそのための「開かれた学校づくり」の意義、そして中学校区を基礎単位とした連携に注目しその支援を指摘している。
第4に、教職員・児童生徒・保護者等による人権教育への自己診断と結果の公表・活用を指摘している。
第5に、海外で注目されている「効果のある学校」にも言及し、学力向上にとっても人権感覚の育成は重要であることを指摘している。
第6に「第二章 第二節 人権教育の内容及び指導方法等」では、児童生徒の発達段階や自発性を踏まえた学習プログラムの留意点を具体的に展開していることである。
第7に、特に被差別の立場にある児童生徒の経験・思いを重視した教育的営みを指摘している。
第8に、保護者や地域(校区)の人々の生き方・考え方を大切にした地域教材を重視し、体験的学習の工夫としっかりとした「ふりかえり」を指摘している。
第9に、「第二章 第三節 学校及び教育委員会における研修等の取組」では、教育委員会の責任として、人権教育推進方針・推進計画の策定、効果的研修の実施、それらの推進状況の調査、優れた実践事例・カリキュラム等の普及、等を具体的に指摘している。
第10に、教員の自主的研修・研究への支援の検討の有効性を指摘している。
11月18日までの「意見公募」へ積極的に意見を
「第二次とりまとめ」は、以上のような積極的な点と共に、以下のような課題もある。これらについては、18日まで受け付けられている「意見公募」で積極的に意見を寄せていただきたい。
第1に、20頁の「「開かれた学校づくり」を進め」の位置づけが弱い。(1)学校(校長や教員)への敷居の高さ、特定の保護者や地域の人に偏りがちな単発的な学校参加、校区内の生活における人権課題やそれへの取組みを人権教育において体系的に十分取上げれられていないこと、などの現状分析と、(2)これらを克服していっている各地の学校や保護者・地域の人の取組み事例、等を明記すべきである。
第2に、27頁の「(2)指導内容の構成」において、国際的な人権課題とその克服に向けた取り組みの学習の指摘がない。特に世界人権宣言や国際人権諸条約だけでなく、2000年に国連が採択した「ミレニアム開発目標」(2015年までに世界の貧困を半減させる8つの目標)のような内容を、日本の課題とも関連させて学習する必要性を明記すべきである。
第3に、被差別者のエンパワメントの視点が弱い。児童生徒については36頁で、(1)学校が信頼関係を作り上げていく、(2)その中で児童生徒の社会的立場を考え、自己を確立していく(自己洞察を深めていく)、(3)さらにはそれを理解し共感できる教員・保護者・児童生徒間での信頼関係を強めていく、(4)こうした一定の条件を作る中で、自らの立場や考え方を公式・非公式の場で説明し問題解決のための連帯を深める(自己開示)、という過程を丁寧に作り上げていくことの必要性とその具体的事例を明記すべきである。
第4に、同じく被差別者のエンパワメントの視点から、保護者等について20頁で、(1)学校は、経済的、社会的、文化的な面でさまざまな困難を抱える家庭や地域の実態とその背景を十分に直視し認識すること、(2)その認識をふまえて保護者等との信頼関係を深めること、(3)そして他の保護者等や教員とも連携しながら保護者の子育てを個別具体的に支援し、子育ての楽しさ・面白さを経験することを支援すること、(4)こうした中で保護者等のエンパワメントを支援していくこと、を明記すべきである。
第5に、40頁の「3.効果的な学習教材の選定・開発」で、「この点で、保護者をはじめ地域の人々の生き方・考え方や歴史等豊かな地域教材を開発・活用することが重要である。」という貴重な指摘がされているが、こうした問題意識をもとに、小・中・高の「体系的な」人権教育のカリキュラムの事例を紹介すべきである。
第6に、48頁の「推進方針の視点」「推進体制の視点」の「参考」事例は、あまりにも弱い。各自治体の教育委員会で既に策定されている「人権教育の推進方針」等をもっと参照し、充実させていくべきである。
第7に、52頁の「人権教育担当者(指導者)研修」において、「研修内容としては、例えば・・・・・・などのテーマが考えられる。」とあるが、その中に部落問題をはじめとした「個別の人権課題」も明記すべきである。
「学校と地域の協働」という新たな舞台で豊かな人権・同和教育の創造を
これまで人権・同和教育は、学校と被差別部落との連携を重視し多くの成果を上げてきた。今日、その成果をさらに発展させるためには、「学校と地域(校区全体)の協働」を大きく前進させる必要がある。それは既に「開かれた学校づくり」として、同和教育推進校だけでなく多くの学校で取組みが始まりだしている。
今回出された「第二次とりまとめ案」は、「学校と地域の協働」の視点等で弱さを持つものの、全国的に人権・同和教育を発展させていく上では、先に指摘したように大きな意義を持っている。私たちはそれをステップとし、「学校と地域(校区全体)の協働」という新しい舞台での実践を通じて、学校や地域、地方自治体で「第二次とりまとめ案」をより豊かに具体化していかなければならない。
いたずらに競争のみを煽る市場原理と社会的背景を無視した自己責任論が、公教育の内容や責任を形骸化しようとする危険な状況の中で、人権・同和教育の果たす役割と責任は極めて大きい。まさに「出番がきた」といえる。
最後になったが、「第二次とりまとめ案」作成に携われた人権教育調査研究会議の委員の方々の労にお礼申し上げると共に、来年度以降始まる「個別人権課題の内容の深化」に向けた「第三次とりまとめ」作業にも期待を表明するものである。
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