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2006.02.21
意見・主張
  
研究所通信No330 より
文部科学省「コミュニティ・スクール」推進フォーラム
(東京会場、2006.1.31)に参加して

基調講演:安彦 忠彦さん(早稲田大学教育学部教授)
パネルディスカッション:三原 徹さん(足立区立五反野小学校長)
            若井田 正文さん(世田谷区長)
            岸 裕司さん(秋津コミュニティ顧問)
            安彦 忠彦さん
実践発表(第2分科会):習志野市立秋津小学校

  2004年6月の「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正により、教育委員会の判断で設置が可能になったコミュニティ・スクールは、現在、全国で35校が指定されており、保護者や地域住民が学校運営に参画する新しい仕組みとして注目されている。

  冒頭、文科省初等中等教育企画課の前川課長から「コミュニティ・スクールを教育の分権改革の一つと位置づけている」という行政説明があった。法律に違反しない限り口出しせず、学校づくりを地域に任せるのがこれからの文部科学省の方針とのことであった。

  基調講演で、安彦教授はコミュニティ・スクールを「国民が教育権の直接行使を体験できる場」と位置づけ、教育の自由化(=特色づくり)と民主化(=開放・評価)がねらいであるとした。コミュニティ・スクールが成功するためには、国民(保護者・地域住民)、学校、教育委員会に高い見識と情熱が必要という論理は正論であり、教育権を行使する国民に責任が問われることも当然である。また、学校の情報公開について、「情報を受ける側の責任が問われる」という説明も新鮮であった。

  安彦教授は「コミュニティ・スクールが保護者や地域住民の意識改革を通じて、新しいコミュニティづくりや社会全体の教育の構造改革を進める可能性を持つ」と言及したが、安易な指定が現状を大きく変えるとは思えない。今回実践発表を行った、秋津小学校も用賀小学校も、学校と保護者・地域との連携に長年の蓄積があり、その上にコミュニティ・スクールとしての成果があると強調された。また、国民の教育権の行使としての「学校選択制」を時代の流れの側面があると説明されたが、校区の学校を忌避し、安易な学校選択に流れることになれば、差別越境問題等が再燃することから違和感を覚えた。

  パネルディスカッションでは、先に足立区立五反野小学校、世田谷区、秋津コミュニティから実践報告があった。世田谷区からは教育ビジョンを策定し、「地域とともに子ども育てること」をスローガンに、全校で校区の保護者や地域住民の参画を目指しているという報告があった。現在5校が指定を受けているが、区全体で早くから地域との連携に取り組んできたこともあり、33校が指定を希望しているという。ただし、同区ではコミュニティ・スクールを特別扱いせず、人事面での意見具申も認めていない。同時に外部評価の導入などを通じて、各学校の教育活動を保護者のニーズに応えるよう改善していくという観点から学校選択制も導入していない。

  分科会では研究指定校のこれまでの取組みと成果等について発表があった。まず、秋津小学校から「生涯学習をベースに「学社融合」という観点から保護者や地域住民を巻き込み、自主自立の学校運営システムや教育実践システムの構築を進めてきた」という発表があった。秋津小学校は文科省の「コミュニティ・スクール推進事業」の研究指定は受けているが、習志野市教委からコミュニティ・スクールの指定は受けていない。次に用賀小学校からは「早くから学校と地域との連携があったという地域性をベースに、1997年に設置された学校協議会をきっかけにして、学校・地域・家庭が目的を共有化し、3者が連携してさまざまな取組みを実践してきた帰結としてコミュニティ・スクールの指定がある」という発表があった。

  質疑応答では、「保護者・地域との連携実績のない学校がコミュニティ・スクールの指定を受けた際にどのようにアプローチしていくべきか」という質問に対して、秋津小学校の宮崎元校長が「秋津小学校も最初から連携があったわけではなく、学校が荒れて教員が疲弊した状況の中で、保護者や地域に学校の現状を見てもらうことから始めた」と発言された。学校を開き、そこから目標を共有化して保護者・地域との連携に進展させた経験のある方の説得力のある言葉である。

  規制緩和の流れの中で、教育に関する「官から民へ」の象徴とも言えるコミュニティ・スクール。「義務教育の分権改革」と言えば聞こえが良いが、国民の教育権、特に自由権だけが特権化すれば、公教育の社会性は危うくなる。学校選択制の導入は特にその危険を孕んでいる。救いは、前川課長が「学校選択制の導入の動きがあるが、公教育を消費者が購入するサービスと捉えることは誤りで、すべてを市場に委ねることはできない」と言及したことである。

(文責 Y.K)