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2005.12.14
意見・主張
  
解放新聞大阪版 第1631号(2006年2月20日) より
行政書士による戸籍不正入手・密売事件

  昨年4月に発覚した行政書士による戸籍の不正入手・密売事件は、大阪市内の興信所からの新たな「部落地名総鑑」の回収によって、単なる戸籍の不正入手事件ではなく部落差別身元調査事件であることが明白になった。

  神戸市、宝塚市、大阪市の3人の元行政書士による不正に端を発したこの事件は、他の行政書士8士業などによる不正も明らかになりつつある。名古屋市では興信所が偽の委任状を使って戸籍を不正入手、逮捕されるという事件も発覚した。戸籍という個人情報をめぐる「不正」は底なしともいえる広がりを見せはじめている。

  事件は昨年4月、神戸市のY行政書士、宝塚市のK行政書士、大阪市のT行政書士(いずれも現在は廃業・登録抹消)による戸籍などの不正請求が発覚したことが発端となった。

  行政書士など8士業(弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理人、行政書士)には戸籍法施行規則第11条により特権的に戸籍謄本や住民票などを取得することが認められている。「職務上請求書」といわれる用紙に必要事項を書き入れ、役所に提出するだけで本籍、世帯主、家族の氏名などの個人情報が入手できる。

  国家資格により特権的に認められた制度が悪用され、不正に取得された戸籍謄本や住民票などが一通3000円から1万円で興信所や探偵社などに密売されていた。そしてその興信所・探偵社には「部落地名総鑑」が常備されていた。

  この事実は、不正入手された戸籍などと「部落地名総鑑」が照合され、結婚などの部落差別身元調査に使われていたことを明確に示している。

  以下、これまでの明らかになっている事実について紹介する。

「地名総鑑」発覚
部落差別身元調査との関わりは明らか
徹底した全容解明を

  神戸市のY(昨年4月に廃業)による不正は、大阪市内の興信所をめぐる裁判資料(業務日誌)のなかにある記述から発覚した。そこには興信所がYから「職務上請求書」を購入し、住民票や戸籍を不正に取得していること。部落地名総鑑の貸し借りのやりとりされていることが書かれており、で兵庫県連に相談がよせられたことから発覚した。

  これまでの調べでY関係では2001年から3年間に興信所6社の依頼を受けて、全国で653件の不正請求をしていたことが明らかになっている。

  宝塚市のK(昨年6月登録抹消)については、Yをめぐる調査のなかで不正が判明したもので、事務所の補助者に職務上請求書を渡すなどして、本来認められた職務以外で「職務上請求書」を不正に使用していた。Kの職務上請求書で不正に使用されたものは2200枚にものぼると見られる。

  大阪市のT(昨年3月に廃業)は、興信所経営者Gが、Tの事務所に勤務していたときに盗んだとされる職務上請求書、また、同事務所の社員から不正に購入した職務上請求書を使用し、住民票、戸籍謄本などを取得していたことから判明した。T関係では1860枚の職務上請求書が使用の有無、使途など確認できていない。またGのほかにも職務上請求書を使用して戸籍などを請求していた人物がいることもわかっている。

府の指示を見過ごし発覚後も交付 大阪市

事件の発覚、3人の行政書士の廃業・登録抹消をふまえて大阪府は府内の各市町村に対して、これら3人の行政書士の職務上請求書(行政書士ごとに別の番号が入っている)で請求があっても、住民票、戸籍などを交付しないように指示を出していた。

にも関わらず、大阪市ではこの指示の周知徹底がなされておらず、その後もKの職務上請求書を使用した不正請求により、戸籍謄本などを交付してしまっていた。

Kの職務上請求書に基づいて不正に請求を行っていたのは大阪市内に居住するMとN。昨年7月、城東区、都島区において合計7人の住民票、戸籍謄本などが不正に交付されていた。大阪市以外では尼崎市、京都市、柏原市で不正に住民票などが取得されていた。堺市、芦屋市、京田辺市では交付を拒否され未遂となっている。

M、Nの二人はKの知人から紹介された人物に依頼され一通3000円の報酬で戸籍などの不正請求を行っていた。

これらのケースのほか、別の行政書士の関わる不正請求も府内では豊中市や箕面市で明らかになっている。

興信所が偽の委任状で不正入手

さらに名古屋では偽造委任状による戸籍謄抄本などの不正取得が明らかになっている。名古屋市の興信所が結婚調査などの依頼に対して所有する約1500個の市販の印鑑を利用して、委任状を偽造。「財産分与」などの名目で戸籍を申請し、数百円の手数料で数十万円の調査費を得ていたという。この興信所は90年ごろから同様の不正をはじめ、これまでに全国の自治体から数千件に及ぶ戸籍などを不正に入手していたという。

一連の事件は氷山の一角にしかすぎず、さらに単なる戸籍の不正入手にとどまらない。関係する興信所が「部落地名総鑑」を所持していたことからも、部落出身者かどうかの差別身元調査が行われていたことは明らかである。

また、行政が持ちコントロールしている個人情報がいとも簡単に流出している実態は、現行の制度の不備とともに、市民の個人情報、プライバシーに対する行政の認識の甘さを露呈している。

この事件では部落出身者だけでなく、多くの市民も被害者であり戸籍が取られている。しかしこの事件の被害者には「戸籍を取られた」という自覚がない。このことは制度上の最も大きな問題である。

不正に取得された住民票や戸籍がどんな流れをたどり、どんな使われ方をしているのか。徹底した全容解明を通じて、差別身元調査の実態を明らかにするとともに、行政による個人情報の取り扱いの厳格化、さらには現行の戸籍制度そのものの問題点に迫る取り組みが急務となっている。