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2006.08.21
意見・主張
  
人権教育国際会議(台北)からの報告

平沢安政(大阪大学教授、当研究所理事)


 去る5月22日から24日までの3日間、台北にある東呉大学で人権教育国際会議が開かれた。テーマは「多様で変化するアジアにおける人権教育」で、主催したのは国際人権教育コンソーシアム(IHREC)と東呉大学張沸泉人権研究センターであった。台湾の人権教育関係者を中心に、アジア各国から人権教育研究者やNGO関係者(全体で約40名ほど)が参加した。

 今回の会議は、IHRECがアジア地域で初めて開催した地域会議としての位置づけをもっていた。IHRECは2006年1月にニューヨーク州教育委員会の認可法人となり、「人権教育のための国連10年」にも注目しながら取り組みを行ってきた。会員は人権教育に取り組んでいる大学、NGO、研究者、活動家などである。

 もうひとつの主催団体は東呉大学張沸泉人権研究センターであった。東呉大学は2004年8月に台湾の大学として最初に人権プログラムを設置した私立大学である。センター長の黄教授がIHRECの理事をつとめている関係で、今回の会議が東呉大学で開催されることになった。

 東呉大学においては、学部生は副専攻として人権を選ぶことができ、人権に関する基本的な授業とさまざまな選択科目(人文科学、社会科学、法学、科学技術など)が開講されている。各種NGOも人権に関する授業の一部を担当し、学生はインターンシップも行えるようになっている(主にジェンダーの平等、労働、死刑廃止などをテーマに)。また同大学は「人権講演シリーズ」や「人権週間」の取り組みも実施している。とくに台湾や海外のNGOと協力しながら、さまざまな人権問題に関する国際会議を開催したり、学生への教育・啓発にあたったりしている。今後、教師、公務員、NGO活動家を対象にした修士プログラムの創設も計画中とのことである。

 台湾においては1949年以降1987年まで戒厳令がしかれ、権威主義的な政治体制が続いていた。しかし、1980年代半ばから、消費者の権利、国際結婚をしたカップルの子どもの権利、女性の権利などに関わる社会運動が盛り上がりをみせるようになった。

 ただ、人権教育の本格的な推進は1990年代に入ってからのことである。台湾における人権教育は国連の人権文書や人権教育に関するイニシアティブおよび研究者・NGOの取り組みによって主導されている。

 1998年は世界人権宣言50周年であったが、台湾における人権教育の新たな出発点になった。教育省による教育9カ年計画に人権のトピックが加えられ、学校の裁量を拡大したり、生徒の内的能力を高めたりすることが重視された。また、人権、性、環境、情報、家事、職業選択などのテーマが各教科の中に盛り込まれ、知識と生活の融合をはかることや、教科の壁を破ることが強調された。

 しかし、問題も散見され、今後の台湾における人権教育の可能性は、政府(とくに教育省)とNGOや研究者の協力関係如何にかかっている。

 今回の会議が成功したことで、2008年にはフィリピンで2回目の会議が計画されており、日本の部落解放運動や人権教育に関する情報発信のさらなる強化が求められている。