2007年4月、数10年ぶりに小学校6年生・中学校3年生を対象に、国語・算数(数学)について全国学力・学習状況調査(悉皆調査)が、約100億円(2007年度概算要求)をかけて実施されようとしている。そして以降、毎年実施されることとなっている。これは、近年の「学力低下」論を背景に、教育での国の役割は<1>全国的な教育水準の確保と教育条件の整備(インプット)、<2>結果の測定と評価(アウトプット)、という位置づけの後者にもとづいている。そして、かつての「学力テスト」の教訓などから、文科省も調査結果が「学校の序列化や過度の競争」に繋がることには懸念を示し、結果の公表は基本は都道府県レベルとしている。ただし説明責任の観点から、指導方法の改善とセットの場合には、学校レベルの結果の公表を認めている。
これにたいする、部落解放同盟の立場は明確である。
まず第1に、いかなる形でも、調査や調査結果が「学校の序列化や過度の競争」に繋がることには絶対反対である。とくに「調査結果を公表することで、互いが刺激をされ、競争し、学力向上に向かう」という考え方には強く反対する。それは「2極化傾向にある学力実態」や学力低下の原因に迫るものではまったくない。むしろ測定可能な「狭い学力」だけで子どもや学校を評価するという根本的誤りから、子どもや学校の疲労と荒廃を生み出すからである。
第2に、全国学力・学習状況調査に、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力保障を明確に位置づけることを強く求めるものである。これまでも、多くの府県や市町村でこうした目的のための学力調査を実施してきたが、今回の全国学力・学習状況調査にたいしても、そのことを強く求めたい。
具体的には、<1>調査レベルでは、生徒への質問紙調査のなかに、「パソコン所有の有無」「博物館・図書館に親と行ったことの有無」といった家庭の文化的指標となる項目を位置づけ、家庭の階層性を把握できるようにし、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力状況とその背景をしっかりと分析すること、<2>学校レベルでは、平均値だけの話ではなく、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもをはじめ、すべての子どもの個個人の学力状況とその分析をしっかりおこない、学力向上のための具体的指針やとりくみを検討していくこと、<3>市町村レベルでも、こうした学校レベルのとりくみをバックアップし、あるいは普遍化するようなとりくみをすること、である。
さらに、こうしたことを契機に、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力保障を実現できる「効果のある学校」づくりをめざす必要がある。そうした「効果のある学校」は、学力保障に長年とりくんできた同和教育の成果としてすでに存在しているし、研究者による近年の調査によって明確に確認されている。そして、そのための「7つの鍵」が、<1>子どもを荒れさせない<2>子どもを元気付ける集団づくり<3>チーム力を大切にする学校運営<4>実践志向の積極的な学校文化<5>外部と連携する学校づくり<6>基礎学力定着のためのシステム<7>リーダーとリーダーシップの存在、として提案されている。
あわせて、学力観の議論も大きく巻き起こす必要がある。2000年から始まったOECD(経済開発協力機構)によるPISA調査の根底には、「鍵を握る能力」として「社会的に異質な集団と交流」「自律的な活動」「対話的な道具の活用」という能力観があり、「解放の学力」や「生きる力」に通じる点がある。「習得した知識量」というこれまでの学力観とは大きく違っているのである。
この視点は、まさに「公教育の責任や内容」を問うものである。
われわれは、こうした立場から、全国学力・学習状況調査に関して、文科省や自治体にたいする働きかけを強め、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力保障のとりくみが大きく前進することを求めるものである。同時に、保護者の一員として、地域住民の一員として、地域に根ざした「効果のある学校」づくりに大きく寄与していくことを決意するものである。
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