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2006.10.12
意見・主張
  
全国学力・学習状況調査に対する部落解放同盟の見解
学校評価制度に対する部落解放同盟の見解
解放新聞2290号(2006年10月16日)より

 部落解放同盟中央本部は、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力保障を実現できる「効果のある学校づくり」と、これまでの人権・同和教育の成果の上に、地域に根ざした「開かれた学校づくり」を実現していくために、「全国学力・学習状況調査」と「学校評価制度」にたいして、つぎの見解を明らかにする。


全国学力・学習状況調査に対する部落解放同盟の見解

2006年9月29日

 2007年4月、数10年ぶりに小学校6年生・中学校3年生を対象に、国語・算数(数学)について全国学力・学習状況調査(悉皆調査)が、約100億円(2007年度概算要求)をかけて実施されようとしている。そして以降、毎年実施されることとなっている。これは、近年の「学力低下」論を背景に、教育での国の役割は<1>全国的な教育水準の確保と教育条件の整備(インプット)、<2>結果の測定と評価(アウトプット)、という位置づけの後者にもとづいている。そして、かつての「学力テスト」の教訓などから、文科省も調査結果が「学校の序列化や過度の競争」に繋がることには懸念を示し、結果の公表は基本は都道府県レベルとしている。ただし説明責任の観点から、指導方法の改善とセットの場合には、学校レベルの結果の公表を認めている。

 これにたいする、部落解放同盟の立場は明確である。

 まず第1に、いかなる形でも、調査や調査結果が「学校の序列化や過度の競争」に繋がることには絶対反対である。とくに「調査結果を公表することで、互いが刺激をされ、競争し、学力向上に向かう」という考え方には強く反対する。それは「2極化傾向にある学力実態」や学力低下の原因に迫るものではまったくない。むしろ測定可能な「狭い学力」だけで子どもや学校を評価するという根本的誤りから、子どもや学校の疲労と荒廃を生み出すからである。

 第2に、全国学力・学習状況調査に、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力保障を明確に位置づけることを強く求めるものである。これまでも、多くの府県や市町村でこうした目的のための学力調査を実施してきたが、今回の全国学力・学習状況調査にたいしても、そのことを強く求めたい。

 具体的には、<1>調査レベルでは、生徒への質問紙調査のなかに、「パソコン所有の有無」「博物館・図書館に親と行ったことの有無」といった家庭の文化的指標となる項目を位置づけ、家庭の階層性を把握できるようにし、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力状況とその背景をしっかりと分析すること、<2>学校レベルでは、平均値だけの話ではなく、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもをはじめ、すべての子どもの個個人の学力状況とその分析をしっかりおこない、学力向上のための具体的指針やとりくみを検討していくこと、<3>市町村レベルでも、こうした学校レベルのとりくみをバックアップし、あるいは普遍化するようなとりくみをすること、である。

 さらに、こうしたことを契機に、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力保障を実現できる「効果のある学校」づくりをめざす必要がある。そうした「効果のある学校」は、学力保障に長年とりくんできた同和教育の成果としてすでに存在しているし、研究者による近年の調査によって明確に確認されている。そして、そのための「7つの鍵」が、<1>子どもを荒れさせない<2>子どもを元気付ける集団づくり<3>チーム力を大切にする学校運営<4>実践志向の積極的な学校文化<5>外部と連携する学校づくり<6>基礎学力定着のためのシステム<7>リーダーとリーダーシップの存在、として提案されている。

 あわせて、学力観の議論も大きく巻き起こす必要がある。2000年から始まったOECD(経済開発協力機構)によるPISA調査の根底には、「鍵を握る能力」として「社会的に異質な集団と交流」「自律的な活動」「対話的な道具の活用」という能力観があり、「解放の学力」や「生きる力」に通じる点がある。「習得した知識量」というこれまでの学力観とは大きく違っているのである。

 この視点は、まさに「公教育の責任や内容」を問うものである。

 われわれは、こうした立場から、全国学力・学習状況調査に関して、文科省や自治体にたいする働きかけを強め、部落をはじめ教育的に不利な立場の子どもの学力保障のとりくみが大きく前進することを求めるものである。同時に、保護者の一員として、地域住民の一員として、地域に根ざした「効果のある学校」づくりに大きく寄与していくことを決意するものである。

学校評価制度に対する部落解放同盟の見解

2006年9月29日

 2006年3月に文科省より学校ごとの自己評価・外部評価の枠組みを示した「学校評価ガイドライン」が示され、早ければ来年2007年度中には、学校ごとの自己評価の公表義務づけのための法制度改正が予定されている。ここでは教育における国の役割は、<1>全国的な教育水準の確保と教育条件の整備(インプット)、<2>結果の測定と評価(アウトプット)とし、<2>にもとづく重要なとりくみとして、全国学力・学習状況調査と並んで学校評価制度の実施が進められているのである。

 すでに本年から、学校評価のあり方の実践研究が全国61地域610校を対象に、また、「第三者機関による全国的な外部評価」の試行は61地域122校を対象に始まっている。

 われわれは、人権の視点をふまえた、地域に根ざした「開かれた学校づくり」のためには、学校と保護者・子どもや地域の人びととの協働が不可欠であり、そのためには、学校の情報を積極的に公開し、広く学校関係者が共有していくことが重要であると考える。これまでの人権・同和教育のとりくみを省みても、部分的ではあるが、そうしたことをすでに具体化してきている。また、「学校評価ガイドライン」の「学校評価の目的」でも、そのことは明記されている。

 しかし現実の動きを見たとき、具体的な評価の目的や指標の設定の仕方しだいで、「学校の序列化や過度の競争」「管理強化」、そして学校選択制や教育バウチャー(切符)制度に結びつく危険性に危惧を抱かざるを得ない状況がある。すなわち、東京都の動きに象徴される、トップダウン的な、数値目標重視の目標管理型の学校評価で、さらに教員評価とも連動させたものである。この点で、文科省の「学校評価ガイドライン」は、教員評価との連動については明確に否定している。

 これと対照的な動きが大阪府である。大阪府では、教員・子ども・保護者・管理職の4者による「学校教育自己診断」をベースに、広範囲な学校関係者による合意形成を重視した課題の究明とその克服をめざしており、そのための学校協議会の活用をめざしている。当然ながら、教員評価との連動も否定している。

 他方、「第三者機関による全国的な外部評価」にたいしては、明確に反対する。なぜなら、全国一律のモノサシで学校評価をすることは、第1に、学校教育に大きな影響をもたらす保護者や地域の経済社会文化的条件の違いを無視するものである。とりわけ被差別部落をはじめ教育的に不利な立場にある子どもを有する学校の真摯なとりくみを無視するものである。第2に、こうした評価は結局、学校の序列化につながる危険性が高いからである。

 われわれは、これまでの人権・同和教育の成果の上に、地域に根ざした「開かれた学校づくり」を実現していくことが重要と考える。そのことは、「公教育」の責任であり、内容づくりでもあると考える。

 したがって、この立場から学校評価制度を考えたとき、大阪府の「学校教育自己診断」の考え方や枠組みをもとにした学校評価制度をいっそう、創意工夫し、充実・発展させていくことがきわめて重要と考える。そして、こうした立場から、文科省や自治体への働きかけを強めるとともに、地域に根ざした「開かれた学校づくり」を校区の保護者や住民とともに推進し、学校評価制度の真の発展を求めていく決意である。