2006年5月におきたいわゆる「飛鳥会事件」以後、大阪市がすすめてきた「同和」施策見直しについて、同年11月末、市長方針が確定された。この方針は「地対財特法期限後の事業等の調査・監理委員会」(以後「監理委員会」と略)が同年8月末に出した「まとめ」を、若干の手直しの上で、あらためて市長方針として確定したものである。
この市長方針によって、2007年3月末で「青少年会館条例」廃止、各館からの市職員の引き上げが行なわれる見通しである。また、この間青少年会館で実施してきた「不登校など課題を抱える青少年に対する相談や居場所づくり」「青少年体験学習」「若年層職業観育成・社会参加支援」の三事業が、2007年度以降も全市的な青少年施策に位置づけられ、「(仮称)子ども青少年局」の所管に移される見通しである。また、これら三事業は現在の青少年会館だけに拠点を限定せず、他の社会教育(生涯学習)施設等も活用して行なわれることとなった。そして、これ以外の事業については「廃止」の方向である。
一方、今後の青少年会館施設については、体育館・グラウンドなどで利用可能なものは別条例に位置づけ、「公募による指定管理者制度」を適用することを検討することになった。また、その他施設については子育て支援サークル等の利用場所、多目的な事業の実施場所として活用することを検討することになった。なお、2007年度に限り、青少年会館は「普通財産」に位置づけ、市民の利用に供するとのことである。ただし、「普通財産」は現行地方自治法上、自治体がその事務・事業を執行するために直接使用する財産等(行政財産)に比べ、売却・譲渡・貸付等の規定がゆるやかであることを紹介しておきたい。
以上の市長方針の概要からわかるように、このままでいけば2006年度末をもって、解放子ども会以来の伝統を引継ぎながら、「地域社会における子どもの人権保障の拠点」として、1970年代から続いてきた大阪市の青少年会館事業は、「解体」される。当然、8月末の監理委員会「まとめ」の発表以来、例えば子ども・若者を含めた青少年会館の利用者と保護者、地域住民、協力NPO関係者、部落解放同盟の大阪市内各支部、大阪市人権協会など、多様な人々から反対の意思表明や抗議活動が行なわれてきた。しかし残念ながら、今後の施設利用等に関して市長側は利用者や地域住民の意見を聞く場を設けるとしたものの、2006年12月半ばの時点では、市長方針そのものの見直し等には至っていない。
ところで、私は大阪市の青少年会館での「ほっとスペース事業」(課題を抱える青少年への相談・居場所づくり事業)などに関わるなかで、これまでの青少年会館事業の成果と課題を検証しつつ、その成果を全市的な青少年施策へと展開できる道筋はないかと考えてきた。このような私の立場からするならば、上述の市長方針の内容はとても理解できない上、今までの青少年会館改革の取組みを否定するものだというしかない。
まず、大阪市の青少年会館への指定管理者制度適用は、大阪市教委から(財)大阪市教育振興公社を相手とする形で2004年度から実施されており、教育振興公社とNPOの連携による「居場所づくり」活動もこの数年で定着した。そもそも社会教育行政とNPOとの連携、指定管理者制度の適用などは、今後、大阪市の行財政改革が目指す方向性ではないのか。また、青少年会館がこの間担ってきた不登校の子どもや「障害」を持つ子どもの公的な居場所づくり活動、在日外国人の子どもへの学校外での支援活動等は、大阪市内ではまだまだ不足している。放課後の子どもの居場所づくりや子育て学習などについても、青少年会館が取り組んできた活動の成果と課題を検証し、その成果を残す必要があるだろう。
そして、若年者就労支援や職業観育成施策などは、国の青少年施策としても各自治体に求められている。しかし、大阪市は2006年度の早い段階で、青少年会館の前に勤労青少年ホーム(トモノス)や児童館を廃止し、「子ども・子育てプラザ」への転換を行なった。このように、今の青少年の直面する諸課題や行財政改革の動向からすると、青少年会館「廃止」方針を含め、今の大阪市の青少年施策の方向性には「再考」を促したいのである。
ところで、この間、青少年会館の問題に関わって発言をするなかで、私が気づいた青少年施策や人権施策に関する研究面での課題が三点ある。
第一に、すでに始められている部分もあるが、例えば「同和」施策見直しに併せる形で持ち込まれるNPM(ニュー・パブリック・マネジメント)改革や指定管理者制度など、最近の自治体行財政改革の動向や手法をよく研究することである。また、その自治体行政の動向や手法の適用が当面続くことを前提として、これまでの人権施策や青少年施策のなかで何を残し、何を新たに創り出すのかも検討課題であろう。
第二に、今後、指定管理者制度を適用しての自治体行政からの事業委託が進むことを前提にすると、例えば青少年や人権の諸課題に取り組むNPOの育成と、これに関わる理論・実践の蓄積も必要不可欠である。
第三に、最近の自治体行財政改革の動向や手法がマイノリティに著しい不利益を及ぼすのであれば、これに対抗する理論・実践をどう構築するかという課題もある。
このように、大阪市の青少年会館の存続問題からは、自治体行政の今日的状況に即した新たな社会運動の理論・実践の構築という、研究面での諸課題も見えてきた。このような諸課題に対して、どう我々が立ち向かうかも問われているのではないか。