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2007.03.29
意見・主張
  
関西学長、人権・同和問題担当者懇談会を開催

 関西学長、人権・同和問題担当者懇談会が2007年1月29日、大阪人権センターで開催された。
 第一報告は、「求められる人権救済法の論点」をテーマに、九州大学大学院法学研究院教授・内田博文さんよりなされた。
 2001年5月25日だされた人権擁護推進審議会答申「人権救済制度の在り方について」では、人権侵害の現状について、様々な差別や差別的取扱いが現在でも存在すること、そのなかには禁止規定を欠いているものがあることを指摘し、日本の被害者救済制度は、実効的な救済という面で限界があるとした。
 そして、答申は人権救済制度の抜本的な改革を提言、「差別や虐待の被害者など、一般に自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある人々に対しては、より実効性の高い調査手続や救済手法を整備して、積極的救済を図っていく必要がある」とした。
 審議会の答申を踏まえて、法務省は2002年3月8日に「人権擁護法案」を国会に上程した。
 人権擁護法案の特徴は、不当な差別、虐待その他の人権侵害を禁止、新たに独立の行政委員会としての国内人権機関の設置、人権委員会を主たる実施機関とする人権救済制度を創設するとしたことにある。
 人権擁護法案の批判と2005年10月に成立した「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」への批判は連動している。人権侵害の定義、メディアの規制、適正手続の保障、被申出人の保護、強制調査権、公表、 国籍条項、公権力による人権侵害への対応等についてだされている批判の当否を詳細に検討された。(詳細は、内田博文著『求められる人権救済法制の論点』解放出版社参照)
 最後に、メディアは憲法によって手厚い保護を与えられている。人権侵害の実態を明らかにし、被害当事者の叫びを社会に向けて発信していくことは、手厚い保護に値する報道の核心といえると指摘された。

 第二報告は、「若年層の人権意識−大阪府民の人権問題に関する2005年意識調査から」をテーマに、奈良教育大学名誉教授の中川喜代子さんよりなされた。
 特徴的な調査結果をあげると、若年層においては、普遍的概念としての“人権″の理解が十分ではなく、『個人情報保護法』や『世界人権宣言』に対する認知・関心度はかなり高いが『同和対策審議会答申』の認知度は一番低い。人権の考え方に対する意見は、自身の生活、職場の中、夫婦の間、幼児、外国人労働者などについては、「関係がある」と回答したものが40歳代に次いで多いが、結婚については最低、職業の選択については30歳代、40歳代よりも低い。「恥の文化」と“世間”=社会意識への同調傾向をみると、風習に対する意見は、結婚式は大安、家の建築と方角など、風習に対する世間同調意識が顕著で、これが差別の合理化につながっている。

結婚の相手を考える際気になることは、未婚者では相手の経済力、相手の職業、既婚者ではそれ以外に相手の家柄が最高率を示している。就職差別の解決に向けた展望については、なくすことは難しいが、30歳代とともに、一番多くなっている。同和地区出身者に対する差別的発言に対する態度は、「差別的な発言があったことを指摘して差別について話し合う」は19.0%で一番多いが、反面、「何もせずに黙っている(と思う)」と答えたものも25.6%で最も多い。同和問題を解消するために必要なことについての意見は、積極的な取り組みについて重要であるとする意見は20歳代が一番多いが、「そっとしておけば自然に差別はなくなる」「同和地区の人びとがかたまって住まないで、分散して住む」などの消極的意見も20歳代が一番多い。
 全体として、同和問題についての若年層の知識・情報はかなり乏しく、いわゆる“たてまえ”と、世間のうわさ・風評によって判断している傾向が認められる。「特措法」施行から35年有余、同和対策事業の目的と意義を理解している層は少数となり、人権教育・啓発の内容と方法の再構築が必要不可欠である。
(文責:本多和明)