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2007.06.12
意見・主張
  

第3回 識字活動支援「安田識字基金」助成対象事業の審査結果について

  安田信託銀行(当時)の公益団体「安田和風会」による「同和研修10年記念安田識字基金」から半額の寄付を受け、「安田識字基金」の名称で研究所事業として2005年度から始めた標記助成事業は、第3回の助成対象事業を昨年末から今年の2月20日まで募集した(国外からの応募については2月28日まで)。

  前回同様、『解放新聞』中央版・大阪版、「ヒューライツ大阪」やIMADR、識字・日本語センター、また今回は新たに「とよなか国際交流協会」「アジアボランティアセンター」等のご協力で告知を行い、2月末までの間に国外から3件、国内から8件の応募があった。

  3月7日の選考委員会(出席者:上杉孝實・榎井縁・友永健三)では、計11件の応募について審査を行い、国外1件(限度額の50万円)、国内6件(限度額の100万円)の計7件の下記助成を決定した(応募順)。

(文責:事務局)


〈国外〉

Society for Rural Education and Development(SRED; 農村部教育開発協会)による「マサマの解放」事業(申請・事業対象国ともにインド;新規)に対し、50万円。

 ヴェロア地区とシルバルア地区では、少女のうちに女神マサマとして寺院に捧げられ、性的搾取を受けるダリット女性たちがいる。この問題を地域社会に訴え、当事者と地域社会の変革をめざす事業である。マサマ女性のエンパワメント、「リーダーシップ・リテラシー」「法律リテラシー」のトレーニング等に加え、当事者の経済的自立、州政府に対する政策的働きかけ等をも視野に入れた活動が展開される予定である。

〈国内〉

<1>岬町地域教育協議会による「識字文化」発行事業(大阪;新規)の2007年度総事業予算50万円の申請のうち、「消耗品費と通信費」「印刷費」として計15万円。

 識字学級で学ぶ人々が自信をもって創作し、作品を発表できるように、「識字文化」という媒体を提供する事業で、初年度は大阪府内、2年目は全国の識字学級からの作品を掲載するという2年の計画である。

<2>「青春学校」による「『自分史』の執筆支援―自らの歴史と社会を結びつける想像力の獲得をめざして」事業(福岡;継続)に対し、最終報告書作成が予定される3年計画の最終年度にあたって、助成申請された15万円の全額。

 高齢の在日韓国・朝鮮人の識字学習の場として1994年に北九州市で開設されて以来、ボランティアの自主運営によって毎週1回の識字学習(ペア学習)、交流活動や文集作成等が行われてきた。最終年度は、2年にわたるハルモニの自分史聞きとりを通じた学びについて、支援ボランティア自身のふりかえり・聞きとり・分析を行い、最終報告書としてまとめられる予定である。

<3>「日本語の広場」による日本語読み書き教室「日本語の広場」(兵庫/大阪;新規)に対し、次年度からは別の方途を探ってもらう前提で、今年度の事業費10万円の全額。

 10年以上も箕面市教育委員会主催事業として行われてきた「日本語よみかき教室」が突然廃止されたことから、昨年度以来、生活に即した学習の場として講師・学習者有志で開設されたのが「日本語の広場」である。1名の講師が経費を全額負担することで、在日韓国人、中国人、ブラジル人、日本人の学習者4-8名を対象に、月に4時間×3回の年間33回の日本語学習、年に3回の多文化交流事業が箕面市内の生涯学習センターで実施されている。

<4>「高槻メディア・リテラシー・プロジェクト」による2008年度までの3カ年計画「若い人々への識字教育―メディア社会を生き抜くためのメディア・リテラシー」事業(大阪;継続)の2年目20万円の申請に対し、実践的側面に比重をおいた事業計画にしてもらうことを前提に、助成申請された20万円全額。

 部落の若者世代にも社会を読み解く広い意味での識字が必要だという問題意識から、高槻市立富田青少年交流センターでは2001年度から若者対象のメディア・リテラシー連続講座事業を主催してきた。講座を受講した中学校教員による総合学習の時間を使ったメディア・リテラシー授業を中学校全体での取り組みとするために、昨年度は中学校・地域・研究者の協同で条件整備を行い、今年度はいいよメディア・リテラシー教育カリキュラム案にもとづく授業が実施される予定である。

<5>ききとり識字教材化委員会による「『被差別部落の女と唄』の再構成と新たな識字教材の創造」事業(大阪;継続)の最終年度にあたり、教材の編集・印刷製本まで申請された50万円に対し、他の基金を紹介するという前提で半額の25万円。

 部落のおばあちゃんの語りや唄を収めた247本のMDから文字化して再構成された約70本の「語りを活かした短文」に、注釈をつけるなど工夫して、識字教材としての使いやすさを検討し、最終的な識字教材としてまとめられる予定である。

<6>「NPO法人在日外国人教育生活相談センター・信愛塾」による在日外国人のミニ・コミュニティ育成の日本語教室(神奈川;新規)の開設・実施のため、今年度・来年度各50万円の申請に対し、最終報告で日本語教室の実施状況を詳細に記述してもらう前提で、15万円。

 在日韓国人を初めとする在日外国人の子どもたちの集える場として1978年から活動し、2004年にNPO法人となった信愛塾では、地域での多文化・相互理解、交流を進め、さらにはコミュニティにおいて在日外国人たちが自立的に問題解決のはかれるよう、同胞同士が集い学ぶ場をつくろうと、日本語教室の開設を計画している。