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2007.11.22
意見・主張
  

福岡のとりくみ 奨学金を必要とするすべての子どもに制度を

解放新聞 2007年5月14日 第2318号 より

 旧日本育英会の廃止にともなう高校奨学金補助事業が実施され今年4月で3年になる。新しい事業のもとで子どもたちの学びはどう保障されているのか、フォローアップが重要な時期だ。地方移管にともない各地ではさまざまなとりくみが展開されてきた。解放新聞・福岡県連版をまとめた。全国の現状にもふれた。

県奨学金制度を改善し

 1966年当時の福岡県全体の高校進学率は77・9%、これにたいして部落内は43・3%、地域によってはさらに格差があった。高校進学率の低さは子どもの夢や希望を奪っている。不安定な仕事、低収入、生活不安など、進学率の低さは部落差別の悪循環を象徴していた。

 「悪循環を断ち切りたい」。その思いが解放奨学金要求運動となった。解放奨学金制度は部落の子どもたちの高校進学や大学進学を支え、結果として就労の保障と生活安定に大きな役割をはたしてきた。

 2002年3月31日で、解放奨学金(地域改善対策奨学資金)が終了した。なくなることで、多くの部落の子どもたちの高校、大学進学が困難になるだけではなく、学習意欲の低下、社会的自立からの疎外など、新たな社会的問題が発生するのではと危機感をもって、福岡県の奨学金制度改善のとりくみがはじまった。

 まず、部落解放同盟北九州地区協議会が北九州市の部落に住む中学生と奨学金を受給している高校・短期大学・大学生と保護者505組に聞き取り調査をおこなった。期間は01年5、6月。調査の結果、部落差別はなくなるどころか、日びの暮らしのなかに存在し、子どもや親たちに困難を強いていることが明らかになった。同時に、成績と家庭の経済状況には密接な相関関係があることもわかった。

 この調査結果は県内に大きな波紋をよび、その後おこなわれた各地の調査でも同様の結果がでた。

必要とする子どもに

 部落差別の実態を置き去りにし、制度がなくなろうとしているいま、一般施策の奨学金制度を問い直した。

 一般の奨学金は解放奨学金よりハードルが高い。解放奨学金は 1.成績条項がない 2.貸与額が高めに設定されている 3.入学時の支度金がある 4.返還免除制度がある 5.手続きが簡素化されているなど、一定の所得制限はあるものの、学びたい部落の子どもすべてが活用できる優れたものだ。

 調査をとおして、奨学金を必要としているのは部落の子どもたちだけではないということが明らかになった。同時に、当時の一般の奨学金制度の現状では奨学金を希望する子どもたちの多くが受給するどころか、申請さえできないことに気づいた。

ていねいな論議重ね

 解放奨学金打ち切りにともない、文科省で「高校奨学事業費補助」制度が新設され、低所得者層に学力の厳しい子どもが集中している現実から、はじめて成績条項が撤廃された。これは、国がかかわる一般施策の奨学事業としてはじめてのことだ。

 この制度にそって、私たちは福岡県で「解放奨学金制度の成果を損なわず、奨学金を必要とする子どもすべてが受給できる福岡県奨学金制度の実現」に向けてとりくみをおこなった。

 文科省への要請行動では高校生が北九州市の調査結果や奨学金への思いを訴えたり、各関係機関がおこなった調査結果をもとに県内各地の議会や行政首長、教育長、校長会などに要請行動をおこなった。高校生や中学3年生の親たちだけにとどまらず、小学生や就学前の子どもをもつ親とともに、奨学金について学習会を積み上げてきた。県内22の地区協議会担当者を対象とした「県連教育対策部長会議」を10回ひらき、ていねいな論議を重ねた。

 福岡県には県独自の一般施策「福岡県奨学会」がある。01年度を例にあげると採用枠は380人、入学支度金なし、別世帯で独立生計、定職をもつ収入要件を提示できる保証人が2人必要など、門戸の狭いものだった。この課題を改善するために県教委交渉を重ね、採用枠1868人、支度金新設、保証人は一人で保護者でもよく、収入要件は必要がない、と大幅な改善をかちとった。

 改善された県奨学会の申請者は年ねん増加している(下の表を参照)。申請者の増加は、リストラ、不況などの社会不安を反映していることがあげられるが、奨学金についてていねいにとりくんだこともくみとることができた。

「育英」から「奨学」へ

 部落解放同盟は、「解放奨学金」制度の存廃にかかわり、①「育英」主義から「奨学」主義へ②部落解放運動の成果を一般施策へを確認し、全同教など関係団体の協力をえながら署名運動、自治体交渉など高校奨学金制度の改善・拡充を求める全国的な運動をすすめてきた。

 高校奨学金事業は制度変更に2度の大きな転換点があった。

 1度目は「解放奨学金」にかわる制度としての「高等学校奨学事業費補助」事業の創設(2003年度)である。この制度は、経済的困難を理由として実施される一般施策の奨学金として全国規模で実施される初めての制度となった。愛知、和歌山、鳥取など、県独自の高校奨学事業をもたなかった自治体で、はじめての奨学金事業となった。また、成績条項がはずされ、日本育英会高校奨学金制度を利用できなかった高校生も奨学金の受給が可能となった。

 2度目の転換点は旧日本育英会の廃止にともなう、高校奨学金事業の地方移管だ(05年度)。「補助」事業制度の継続と、「成績条項(学力基準)」の撤廃が大きな焦点だった。

 運動の成果として、福岡、愛知は「補助」事業制度を受け皿に旧日本育英会制度を吸収し、成績条項を撤廃し、制度の一元化を実現した。

 いま、すべての都道府県で高校奨学金事業が実施されている。

 しかし、大きく2つの課題も残されている。

 ひとつめの課題は、制度の「枠組み」である。「成績条項」の撤廃が実現できなかった自治体は、「奨学」と「育英」の2制度が併存している。この場合、事業実績や財政事情によっては、制度の統廃合にともない内容の後退を招く恐れもある。

 ふたつめの課題は、「所得基準」や「連帯保証人」など、制度内容にかかわることである。2制度が併存したところではそれぞれの「所得基準」と「成績条項」の隙間に落ち込み、どちらの制度も利用できない場合がある。予算内で運用による救済が図られているようだが、根本的には予算の拡充と制度の改善をおこない、すべての子どもたちを支援する仕組みを整えていくことが必要だ。

 奨学金を必要とするすべての子どもたちが制度を活用できるように、それぞれの地域のニーズや実情に応じた制度の改善と拡充をすすめていこう。