2.指定管理者制度導入における全国的傾向と問題点
財団法人地方自治総合研究所の調査によると、2006年4月1日現在の指定管理者制度導入自治体数は1238自治体(非導入は330自治体)であり、回答自治体(1568回収率83.0%)のほぼ8割が導入を終えている。公の施設数で見ると、総数296,429施設中49,073施設(導入率16.4%)が指定管理者制度を導入している。決定内訳を見ると、公募での決定15,439施設、非公募決定(随意指定)は、33,618施設となっており、3対7の比率で非公募が多い。また指定管理者団体の内、株式会社等の民間企業に指定したものは5,117施設(10.4%)となっている。従来の財団、社団、公社は20,759施設(42.3%)であり、これらとNPOを除く団体(社会福祉法人、医療法人、学校法人、生活協同組合、一部事務組合、広域連合等)は14,557施設(29.7%)、NPOは863施設(0.2%)、自治会。町内会への指定と答えたものは7,769施設(15.8%)である。
(表1(財)地方自治総合研究所による指定管理者制度導入状況調査)
区分 |
地方自治総合研究所調査 |
公の施設総数 |
296,429 |
(100.00) |
|
指定管理者導入済施設 |
49,073 |
(16.4) |
(100.00) |
内訳 |
公募 |
15,439 |
|
(31.5) |
非公募
(随意指定) |
33,618 |
|
(68.5) |
民間企業 |
5,117 |
|
(10.4) |
NPO |
863 |
|
(0.2) |
説明 |
2006.10.1現在、都道府県、区市町村を対象。
1,568自治体から回答。回収率83.0% |
(()内は比率)
つぎに、全国自治体の公立文化ホールの大多数が加盟している、社団法人「全国公立文化施設協会(略称「公文協)」による、公立文化ホールの指定管理者制度への移行状況を参照してみる(公文協(2006))。この調査は2006年10月1日現在であり、前者の調査時点と6か月の時間差がある。
(表2(社)全国公立文化施設協会による指定管理者制度導入状況調査)
区分 |
(社)全国公立文化施設協会 |
調査回答施設数 |
2,189 |
(100.00) |
|
直営継続 |
1,249 |
(57.1) |
|
指定管理者へ移行済 |
881 |
(40.2) |
(100.00) |
内訳 |
公募 |
378 |
|
(42.9) |
非公募(随意指定) |
503 |
|
(57.1) |
民間企業及びJV型 |
131 |
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(14.9) |
NPO、市民団体等 |
26 |
|
(0.3) |
公共的団体 |
724 |
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(82.2) |
(公文協発表数値による。()内は比率)
(表3公立文化ホールにおける指定管理者の指定期間)
指定期間 |
数 |
割合 |
3年-4年未満 |
414 |
47.00% |
5年-7年未満 |
260 |
29.50% |
3年未満 |
117 |
13.30% |
4年-5年未満 |
83 |
9.40% |
7年以上 |
7 |
0.80% |
計 |
881 |
100.00% |
(公文協発表数値による)
直近の公文協調査では、広義の民営化への移行は15%強となり、少しばかり増加している。これらの動向を見る限り、純粋な民営化への移行はやや進み出したようにこ見える。しかし今回は、いわば手探り、現状維持型軟着陸の第一ラウンドとも言うべき段階であり、原初の指定期間が満了する次の段階、つまり3年、4年後に向けての本格的な競争がすでに始まっている、と言っても過言ではない。公文協調査における指定期間の分布を見ても、3年未満や3年-4年間という短期間の指定が60%強であることからもそれは明らかであろう。
現実には、「公の施設」の内容も多岐にわたり、それぞれが持つ使命、機能も多様である。それだけではなく、その規模や立地条件等もさまざまである。したがって、管理者として登場しうる主体もさまざまとなることが想定できる。とはいえ地方自治体側においては、指定管理者制度導入を公立施設運営におけるコストダウンの有効な契機ととらえる傾向が多い。他方で、コスト管理能力の優秀な民間事業者側が、これを推定市場規模2兆円のビジネスチャンス(三菱総研)と受け止め、新たな事業参入機会ととらえるのも、また自然なことであろう。ここで意識されているのは、両者ともにNPM理論と同じく経済性、効率性という市場性原理である。
しかしながら「公の施設」は、そもそもなんらかの公共的使命を持って設置されるものである。それらの公共的使命は、根拠となる法律及び条例の他に、地方自治体の総合計画、各種分野別計画、自治体宣言等の形態で表現した政策目的(計画等においては目標数値も)が示されているはずである。また当然の事ながら、個別の「公の施設」設置条例には、施設設置の理念、目的が明記されているはずである。つまり、この制度の運用に当たっては、経済性、効率性だけではなく、政策的使命(何のために、誰のために)の明確化を前提とした政策的有効性という価値概念もまた視野に入っていなくてはならない。
しかし驚くべきことに、国の通達に拘束力がなくなった2000年4月の地方自治法改正以後にもかかわらず、多くの自治体が管理者選定の基準となる価値軸を、国が示唆している例示的な指標(2003年7月17日総務省自治行政局長通知)からそのまま援用しているのである。そこには、この制度を前にした自治体担当者の当惑だけではなく、法改正以前の機関委任事務的思考の強固な残存、政策的主体性の弱さと政策型思考の希薄さ、自治体総合計画の計画としての薄弱さ、公共施設設置理念の曖昧さも示されているような気がしてならない。
さて国の通知では、1.「住民の平等利用の確保」2.「施設効用の最大化」3.「管理経費の縮減」及び4.「管理を安定的に行う物的、人的能力の保有」をあげている。要約すると、1.公平性、2.効用最大化、3.経済性、4.安定性が示唆されているといえるだろう。公平性の確保は「公の施設」の基本的な使命、性格からして当然のことである。安定性の確保も、長期にわたる指定期間や、受託団体側の経営基盤に関する安定性を期待すれば当然のことである。さらに、管理経費の縮減、コストダウンの追求、経済性も、経営の健全性を考慮するならば当然のことであろう。問題は、2.「施設効用の最大化」をどのように理解するかである。
ここでいう施設の「効用」を、「効率性(Efficiency)」と解釈する向きもある。効率性とは、投入費用(インプット)に対する生産量(アウトプット)の比率の上昇、または一定コストにおける生産量上昇のことである。しかし経済学的に言えば、効用とはUtilityを指すのであるから、消費者満足(市民満足)を意味するということになる。ただしそこには、供給者と消費者側とに情報の対称性が存在しなくてはならない。つまり、コストとパフォーマンス双方の情報が共有されていることが前提である(効率性概念の詳細については、本書の片山論文を参照されたい)。
だが筆者は、ここに要求されている価値概念は、消費者としての市民を単純に「満足」させるアウトプットだけを指標とするべきではなく、さらに「有効性=効果性(Effectiveness)」概念に昇華させてととらえるべきではないかと考える。つまり、サービス受益対象としての市民としての面からだけではなく、ステークホルダー、経営者としての市民と価値概念の共有を図り、そこから導出される成果(アウトカム)指標を適用するべきと考えている。
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