去る6月5日、大阪府の橋下徹知事は、今年度に1100億円の収支改善を図る財政再建策を盛り込んだ「大阪維新プログラム案」を発表しました。4月に改革プロジェクトチームの試案(PT案)が掲げた目標額を維持しつつ、治安、福祉、医療などの事業削減に強い反発を受けた結果、PT案にあった一般施策経費の削減額330億円を85億円圧縮したものです。このため歳入増の上積みが必要になり、退職手当債を発行するとしています。府の最終案として、7月臨時議会にかける本格予算案にこの内容を反映させたいと発表しています。
なお、プログラム案では、私学助成はPT案に沿って削減するとされており、府職員の人件費は一般職で退職金5%、平均給与12%の削減を図ることとされています。
このような中で、知事査定を終えた人権関係予算についても厳しいものとなっています。たとえば、アジア・太平洋人権情報センターについては、2009年度以降大阪府職員を引き揚げ、運営補助金を廃止するとされていますし、大阪府総合福祉協会についても2009年度以降大阪府職員を引き揚げ、運営補助金を廃止し、自立化を求めるとされています。また、大阪府人権協会については、2009年度で大阪府職員を引き揚げ、プロパー職員の人件費補助についても2010年度末までに段階的に廃止し、運営補助を事業補助に転換し抜本的に見直すとされています。この結果、世界に誇りうる、大阪が営々として築きあげてきた人権・平和・文化の取り組みを手放すことになってしまうのではないかとの強い危惧の念が、各方面から表明されています。
部落解放・人権研究所に関する知事査定では、<1>最終年度を迎えた「大阪の部落史」については、1割縮減の予算がつけられ、<2>人権情報収集・提供事業(図書室「りぶら」の運営)についても、必要額を絞り込み一定額の予算がつけられました。但し、この予算は2008年度限りで終了とされています。
PT案では、両者について「ゼロ」査定であった状況を考慮したとき、これらは、理事長や所長等を先頭にした数度に及ぶ大阪府への要請や、短期間であったにもかかわらず、研究所が把握しているものだけでも国内28通(個人16名、団体12団体)、国外15通(個人14名、団体1団体)、合計43通にも及ぶ橋下知事等への要請文の送付等が最低限の歯止めをかけたと言えます。改めて、要請文を送付していただいた皆さまに心より感謝の意を表したいと思います。
この結果、2008年度は、寄付金等を含む収入の確保、人件費等諸経費の縮減を盛り込んだ更正予算を組むことによって、従来と大きく変わることのない事業を実施できることとなってきました。
しかしながら、橋下知事査定による予算案では、2009年度以降研究所事業に対する大阪府の補助金は「ゼロ」となっています。私たちは、大阪府が陥っている厳しい財政状況を直視したとき、研究所自身による財源の確保や経費の削減を行っていくことにはやぶさかではありません(近年そのための努力を強めてきています)が、大阪府による事業補助が「ゼロ」という公的責任を放棄したこのような決定を到底承認することはできません。
大阪府には人権尊重の社会づくり条例やこの条例に基づく審議会からの答申があります。また同和対策審議会答申や同和問題解決推進審議会提言があります。さらに、橋下知事は3月議会で今日なおも深刻な部落差別の実態が厳存していることを明確に答弁されています。だとするならば、これらの条例や答申等を踏まえ、橋下知事として部落問題解決をいかにして実現していくのか、その説明責任があるということを強く指摘したいと思います。また、大阪府議会も、これら条例や答申等を踏まえて、橋下知事が提案する予算案をチェックする責務があると考えられます。
部落解放・人権研究所は、1968年8月、大阪部落解放研究所として大阪府、大阪市等の自治体、部落解放同盟大阪府連合会や大阪府同和事業促進協議会等の民間団体、部落問題をはじめとする人権問題の研究者等が力を合わせることによって創立され、本年で40周年を迎えます。部落問題の解決と人権確立に向けて、1.調査・研究と政策提言、2.各種講座の開催による人材育成、3.各種出版物等の発行による情報提供、4.図書・資料の収集と閲覧、5.国際連帯等に取り組んでいくとした研究所創立時の初心に立ち返り、会員、研究者、関係団体、自治体等との連携を今後一層強化することによって未来を切り拓いていく決意です。
2008年6月11日
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