2008年度第1回関西学長、人権・同和問題担当者懇談会が、2008年7月24日、大阪人権センターで、35大学が参加して開催された。
〈第1報告〉
第一報告は、「世界人権宣言60周年の意義と課題」をテーマに、部落解放・人権研究所所長の友永健三さんよりなされた。
人権とは、一人一人の人間の尊厳を尊重し、人間らしい生活を営んでいくことを保障するために、全ての国家や自治体はもとより、企業などが承認しなければならない権利。
人権の誕生は、フランス人権宣言(1789年8月26日)に求められ、人びとの努力によって拡大し深まってきた。分野(自由権→社会権→発展の権利などへ)、対象(白人の男性→すべての人へ)、地理的領域(フランスが支配していたところ→全世界へ)と拡大されてきた。
第一世代の人権・自由権は、国家の専制からの自由を求め、第二世代の人権・社会権は、国家に積極的な介入を求め、第三世代の人権・平和的生存権、環境権、発展の権利などが地球的な規模で主張されてきた。
現代における人権の到達点で、差別撤廃と人権確立を求めてきた人類の努力の集大成が、世界人権宣言(1948年採択)と、国際人権規約(1966年採択)である。その後、30もの人権条約が採択された。
戦争、内戦や飢餓、軍事独裁政権、若者の失業など深刻な人権問題に取り組むため、国連は人権委員会を人権理事会へ「格上げ」し、「人権教育のための世界プログラム」、「国連・持続可能な開発のための教育の10年」の推進や、グローバル・コンパクト10原則の提唱など、新たな努力をおこなっている。
日本国内でも、国のレベルでは「人権教育・啓発推進法」の公布・施行や人権侵害救済に向けた法制度の整備に、自治体レベルでは、人権施策基本方針、人権のまちづくり条例の制定などに取り組んでいる。
2008年は世界人権宣言60周年の年、パネル展の開催や冊子を活用して、創意工夫をこらした取り組みをと訴えた。
〈第2報告〉
第二報告は、「世界の大学院における人権教育・研究の動向」をテーマに、兵庫県立大学准教授の阿久澤麻理子さんよりなされた。このたび世界の大学院レベルでの人権プログラムの開設状況について冊子にまとめた。調査はインターネットによる情報収集によって行われ、各大学院の「人権プログラム」に関するサイトにアクセスし、情報収集した。
今回の調査で対象としたのは、英語による指導を行い、学位や修了証を授与する97プログラム。ヨーロッパ65、アメリカ18、アジア太平洋地域10、中東2、アフリカ2。
アジア・太平洋地域では、オーストラリア、香港、インド、ネパール、タイの8機関が英語による10プログラムを開設。その特徴は、単発の授業ではなく、「プログラム」として人権研究を深めるものとなっていること。ただし、マヒドン大学は開発、カーティン工科大学は社会福祉、カルカッタ大学は文化人類学と重点領域は異なっている。また、少数先鋭型の大学院教育で、専門家育成や現代社会のニーズに応える政策立案が可能。インターナショナル・コースで、世界各国から多様な人材が集まり、人権をともに議論するフォーラムが生まれたり、文化的側面を重視した地域的な文脈の中での学際的な研究が行われている。さらに、研究と実践を融合するため、国際機関、国内人権機関、NGO等との連携、インターンシップなど学生が実践に関わる機会、人権に関わる調査・研究などリサーチ文化を育むことなどが重視されている。
課題として、エリート教育、教育コストの負担、研究成果の還元、留学生の獲得などグローバル化のなかでの大学改革の手段として利用される可能性、ビジネス領域との連携などが指摘された。
こうした「人権プログラム」は日本にはない。人権を専門的に学び、将来さまざまな現場で人権政策の提言ができる人材を育成する人権プログラムの設立がのぞまれる。
詳しくは、「世界の大学院における『人権修士』プログラムの意義と課題」(『部落解放研究』183号、2008年10月)を参照されたい。
(文責:本多和明)
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