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2009.01.28
意見・主張
  

日弁連が「人権委」の制度要綱提出

国際社会から日本での設立を望む声が出ている国内人権機関について、日本弁護士連合会(宮崎誠会長)は十二月三日、公権力による人権侵害への調査・勧告権限を持つ「人権委員会」の設置を盛り込んだ「制度要綱」を、森英介法相に提出した。「人権委」は独立性の強い行政委員会とし、内閣総理大臣が所轄することや、取り扱う人権の範囲は広く国際人権法で認められたものとすることなどを掲げている。

2008年11月18日
日本弁護士連合会

(はじめに)

 世界人権宣言はいう。「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利を承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」。国際連合憲章や国際人権規約をはじめとする人権諸条約は人権の実現と保障を加盟国の責務とし、加盟国の活動ならびに各種国際人権機関の活動を通じて世界のすべての人類が平和の中に人権を護られることを目標としている。国際連合は、その約60年にわたる経験を通じ、目標達成のためには政府や裁判所、立法だけではなく、人権保障を任務とした、政府から独立した組織の活動が必要であると認識するようになった。各国内における人権保障のための組織が実効的に機能するための原則として、国連は、1993年に「国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)」(総会決議48/134)を採択している。国連はさらに、それぞれの国が国内人権機関の設置を促進することを要請している(1997年12月国連総会決議52/128)。国連人権理事会は、日本についてのUPR審査の結果、2008年5月30日付け決議により、国内人権機関の設置について世界各国からの意見に基づいて、日本が早急に人権機関を設立することを勧告している。

 日本弁護士連合会は1949年の設立以来、弁護士の社会的使命である基本的人権擁護の活動を全国各地の弁護士会とともに行ってきた。公権力による深刻な人権侵害を初めとする多様な分野にわたる種々の人権侵害救済の申立てを受け、調査をおこない、人権侵害を行うものに対して、警告、勧告、改善の要請などの実績を積み重ね、幅広い市民のみならず、国連など国際人権にかかわる組織からも評価を受けている。その活動の経験と教訓を踏まえて、日弁連は、パリ原則に則った国内人権機関の設置を求めて、「政府報告書に対する国際人権規約委員会の最終見解にあたっての会長声明」(98年11月10日)、「国際人権(自由権)規約委員会の最終見解の実現に関する総会決議」(99年5月21 日)、「日弁連・人権のための行動宣言」(99年12月)、「政府から独立した調査権限のある人権機関の設置を求める宣言」(2000年10月6日)、「人権委員会の独立性を確保するための最低条件」(03年2月21日)などを発表してきた。この度これらの宣言決議を実現するものとして、以下の制度要綱案のような「政府から独立した国内人権機関」の設立を求めるものである。

 一方政府は、人権擁護施策推進審議会の答申を受け、「人権擁護法案」を作成して2002年3月、国会に提出したが、「人権委員会」は法務省の所轄とされるなど、その内容がパリ原則に適合するものでなく、報道の自由、市民の知る権利を侵害する恐れが指摘されるとともに、公権力による人権侵害の多くが救済の対象とはされないなど、種々の問題点をもつものであった。そのため、同法案は廃案となり、今日に至っているが、現在なお政府は報道規制につき一部手直しをしただけで、再度これを提出すると報じられている。

 最近においてもしばしば報じられる、捜査機関による人権侵害、刑事拘禁施設における人権侵害、入国管理手続と収容・送還における人権侵害、学校教育や職場における人権侵害、外国人などに対する差別、医療・福祉機関における人権侵害など、調査権限をもって有効な調査と人権の促進と侵害の中止を求める政府から独立した機関を求める声は日増しに高まっている。

 このような声に応え、国内人権機関の実現を促進するため、早急に実現されるべき国内人権機関の組織と活動の原則を、日弁連要綱案の形で示し、市民各界、各層に提案するものである。

(国内人権機関の基本設計)
あるべき国内人権機関の概要について、日弁連は次のように考えている。

(独立性)
1、政府からの独立性をもち、人権の尊重、保護、促進を図る活動を行なう国内人権機関を設置すること。

(権限)
2、国内法における人権に限定せず、広く国際人権法により認められた人権を取り扱う組織であること。

(公権力による人権侵害)
3、公権力による人権侵害について、調査・勧告権限をもつ組織であること。

(私人による人権侵害)
4、私人間や行政との間で生起する人権侵害事例については、調停あっせんによる解決を図る機能をもつこと。

(人権教育)
5、広く人権教育を企画し、実施する活動をする組織であること。

(政策提言)
6、政策提言能力をもち、立法、行政に対し、人権の観点からあるべき方向を示すことができる組織であること。

(人権諸条約の実施の促進)
7、国際人権条約の批准促進と国内で発効している人権諸条約の実施の促進

(構成・組織)
8、委員会は構成の多様性をもち、活動においては市民、NGOと交流し、その意見を取り込む組織であること。
9、人権の専門家を擁し、問題の調査、研究、解決ができる組織であること。
10、人権擁護に情熱をもつ職員を多数擁する事務局体制を確立すること。
11、これらの活動を行うに必要十分な人員と予算が確保されること。

(市民アクセス)
12、案件の渋滞を起こさない事件の合理的な仕分けと迅速な手続を採用すること。
13、市民が気軽に駆け込める、利用しやすい組織であること。

制度の要綱

前 文

日本国憲法は、その基本理念として基本的人権の保障を宣言し、国際人権規約は、国際連合憲章及び世界人権宣言を受けて、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由・正義及び平和の基礎をなすものであることを考慮し」ている。そこで、これらの趣旨を具体化し、我が国において基本的人権の享有を平等に保障するために、政府から独立した国内人権機関を設置し、もって人権の伸長と保障を実効あらしめることが必要である。そのことが、国際社会において差別のない平和社会建設の基礎となるものであることを確信し、我が国が、基本的人権の伸長と保護をさらに発展させるための名誉ある国際的責務を達成するために、本法を制定する。

第1 目的及び任務

1-1(法の目的条項)

日本国憲法、国際人権規約をはじめとする国際人権諸条約などで保障された基本的人権が、すべての人に平等に享受されることを実現するために、人権委員会を設置すること。

1-2(人権委員会の任務)

  1. 人権救済
    ・憲法、国際人権規約をはじめとする国際人権条約等によって保障された人権が侵害された旨の申立てがなされたときは、これを受理して相談、調査、調停、勧告その他必要な措置を行うこと
  2. 人権状況等の調査
    人権状況などの調査として次のことを行うこと
    ・国内の人権状況の調査
    ・国内法の遵守状況
    ・国際人権法の国内実施状況
  3. 立法、行政への提言、援助
    立法、行政政策の立案と施行などに際し、人権の保護、尊重、促進の観点から検討し、国、地方自治体、その関係機関などに対して必要な助言、政策提言、意見書の提出を行うこと
  4. 人権教育
    人権教育として次のことを行うこと
    ・人権教育の研究、教育プログラムの作成、人権教育の実施
    ・各官庁、公共団体などが行う人権教育への情報提供、助言、協力
    ・裁判官、検察官、弁護士、警察官、刑事拘禁施設職員などに対する人権教育の実施ならびに協力
  5. 非政府組織との協力
    ・人権分野で活動するNGO組織と協力し、活動に反映させること
  6. 国際人権条約の推進
    国際人権条約の適用を推進するため、次のことを行うこと
    ・国際人権条約の批准促進と国内で発効している人権諸条約の実施の促進
    ・人権諸条約に基づき、国が国際条約諸機関に提出すべき報告書の作成にあたり、意見を述べ、助言し、援助を行うこと
  7. 国際諸機関との連携と協調
    国際連合その他の国際機関、地域機構及び他国の人権機関との協力及び情報の交換をすること
  8. 国会への報告
    人権状況、活動状況につき、定期的に国会に報告すること

第2 組 織

2-1(人権委員会)

  1. 人権委員会は、中央委員会と地方委員会をもって構成すること
  2. 中央委員会は首都に設置し、地方委員会は各都道府県庁所在地に設置すること
  3. 中央委員会と地方委員会の職務分掌については、規則によって定めること
  4. 人権委員会は、組織運営のために、中央委員会委員及び地方委員会委員長により構成される全体協議会を設置すること
  5. 全体協議会に関する事項は、この法律に定めるものを除く外、規則をもって定めること

中央委員会と地方委員会は上下関係には立たないものとする。特定の分野について専門の部局を設けることもできるようにすべきである。

2-2(設置・所轄)

  1. 内閣府設置法49条3項に基づいて第1の目的を達成することを任務とする人権委員会を置くこと
  2. 人権委員会は、独立性の強い行政委員会であり、内閣総理大臣の所轄に属すること

「所轄」とは、内閣総理大臣及び各省大臣がそれぞれ行政事務を分担管理することについて、その管轄下にあるが独立性が強い行政機関との間の関係を表す語であり、「設置」とは、機関を法律上の存在として設けるという語である。公正取引委員会の場合は「内閣総理大臣の所轄に属する」と規定されており(独占禁止法§27Ⅱ)、食品安全委員会の場合は、内閣府に設置されていると規定され(食品安全基本法§22)所轄についての規定はない。

2-3(委員の数)

中央委員会は委員長を含む15名の委員をもってこれを組織し、地方委員会は各都道府県の規模に応じて規則で定めること

2-4(委員及び委員長の選任)

  1. 中央委員会の委員は、国会に設置された推薦委員会の推薦に基づき、両議院の同意を得て、内閣総理大臣がこれを任命すること
  2. 地方委員会の委員は、各都道府県議会に設置された推薦委員会の推薦に基づき、都道府県議会の同意を得て、内閣総理大臣がこれを任命すること
  3. 委員長の選任は、委員の互選によること
  4. 推薦委員会は、人権委員会委員選任の適切性、透明性を確保することを目的とすること、推薦委員会委員は衆参両議院(地方委員会については都道府議会)、裁判所、内閣府(地方委員会については都道府県庁)、メディア、日本弁護士連合会(地方委員会については各都道府県に対応する弁護士会)、日本学術会議(地方委員会については学識経験者)等から選任すること、人権委員会委員を推薦するに当っては候補者について公開の聴聞会を開催すること

2-5(委員の構成)

人権委員会は、次に掲げる要件を満たす委員から構成されなければならないものとすること

  1. 人権に関して高い識見を有し、人権擁護に必要な知識と経験を有する者でなければならないこと
  2. 男性または女性の一方が3分の2を超えてはならないこと
  3. 人種、民族、信条、社会的身分、国籍、門地、障がい、疾病または性的指向により資格が排除されてはならないこと
  4. 委員長、委員及び委員会の職員は、在任中、左の各号の一に該当する行為をすることができないこと
    1. 国会または地方公共団体の議会の議員となること
    2. 中央委員会の許可のある場合を除く外、他の業務に従事すること

2-6(委員の身分保障)

  1. 委員は定期に相当額の報酬を受けるものとし、在任中減額されないものとすること
  2. 委員の任期は5年とし、1回に限り再任されることができること委員は、年齢が75歳に達したときは、その地位を退くこととすること
  3. 委員は、人権委員会により心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除き、公の弾劾によらなければ罷免されないものとすること
  4. 弾劾により委員を罷免するのは、次の場合とすること
    1. 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき
    2. その他職務の内外を問わず、委員としての威信を著しく失うべき非行があったとき
  5. 罷免手続きにおいては、中央委員会の委員については両議院の同意権、地方委員会の委員については都道府県議会の同意権、および推薦委員会の意見表明権を規定するものとすること
  6. 罷免権者は内閣総理大臣とすること

2-7(職権行使の独立性)

  1. 人権委員会の委員長および委員は、独立してその権限を行使するものとすること
  2. 内閣総理大臣は、人権委員会の職務に関し、調査中止を含む指揮監督権を有しないものとすること
  3. 内閣総理大臣は、人権委員会の職務に関し、報告を求める権利を有しないものとすること
  4. 設置法が定める場合を除き、人権委員会の調査、決定、勧告、報告などが政府の他の部局による審査の対象とされないものとすること

2-8(事務局)

  1. 人権委員会に事務局を置くものとすること(中央委員会には事務総局を、地方委員会には事務局を、置く)
  2. 事務局長および事務職員には、人権擁護に必要な知識と経験を有する者をあてるものとすること

2-9(職員人事)

  1. 職員は、委員と同様に適格性を有するものから任命し、国家公務員法2条の特別職とすること
  2. 職員の任免は、人権委員会が独自に行うものとすること
  3. 職員につき、他の省庁との人事交流は原則として行わないようにすること

2-10(調査官及び調停官)

  1. 調査官及び調停官の任免は、全体協議会の意見を聞いて、中央委員会の議決に基づき、委員長が職員の中からこれを行うこと
  2. 調査官及び調停官は、国家公務員法第2条の特別職とすること
  3. 調査官及び調停官は、在任中、左の各号の一に該当する行為をすることができないこと
    1. 国会または地方公共団体の議会の議員となること
    2. 中央委員会の許可のある場合を除く外、他の業務に従事すること

2-11(人権委員会が関係する争訟)

人権委員会は、自らが関係する争訟につき、処理する権限を有するものとすること

2-12(規則制定権)

人権委員会は、職務に関する事項について、規則を定める権限を有すること

2-13(予算)

人権委員会の経費は、独立して、国の予算に計上しなければならないものとすること

第3 救済の対象となる人権の範囲と人権基準

3-1(救済の対象となる人権)

憲法、国際人権諸条約及び法令で規定されたすべての人権の侵害を救済の対象とすること

但し差別については、人種、民族、国籍、信条、性別、門地、社会的身分、障がい、疾病又は性的指向による合理的理由がない分け隔ては、差別として救済の対象とすること。障がいによる差別は、合理的配慮を欠く処遇を含むものとする。

差別事由は限定列挙とする。新たな差別事由とする判断権限は、司法機関ではない国内人権機関に与える必要はない。

3-2 侵害主体による区分

3-2-1 (公権力による侵害)

公権力または公権力に準ずるものによる場合は、3-1 のすべての人権の侵害について救済の対象とすること

法案のように差別・虐待に限定する理由はない。例えば警察・拘置所による面会・外部通信の妨害なども特別救済の対象にすべきである。「公権力に準ずるもの」としては独立行政法人や、刑務所の業務の一部が民営化された場合などを想定している。

3-2-2(私人による侵害)

私人による人権侵害は、社会的影響力のある組織、集団または個人によりなされるものを救済の対象とすること

但し、私人による差別については、雇用、教育、公共的施設の利用、業として対価を得て行う物品、不動産、権利または役務の提供における、合理的理由がない人種等による差別を救済の対象とすること

私人による人権侵害も社会生活の中で相当なウェイトを占めている。弁護士会による救済事例の中でも私立の医療機関による人権侵害の事例などがある。

私人間の差別も含まれるべきである。私人による差別については、他の人権侵害と異なり、主体による限定ではなく、公的場面などの限定がなされる必要がある。

3-2-3(報道機関等による侵害)

  1. 人権委員会は、放送、新聞及び雑誌などの報道機関等による過剰取材及び名誉プライバシー侵害の申立てについては、取材活動及び報道内容の外形から判断できる場合にのみ救済の対象とするものとし、誤報など取材内容の信用性の評価が問題となる場合は、救済の対象から除外すること。
  2. 前項前段に該当する場合であっても、政治家、高級官僚及びその関係者に対する過剰取材あるいは名誉・プライバシー侵害については救済の対象としない。
  3. 報道機関等につき過剰取材及び名誉・プライバシー侵害について自主的第三者機関が設置され、実効的に運営されている場合は当該機関が優先的管轄権を有するものとし、被害者がその決定に不服である場合に限り人権委員会に救済申立ができること。

 メディアの取材や報道による人権侵害も重大となっている。報道機関等は、3-2-2の「社会的影響力のある組織、集団または個人」に含まれる。3-2-3は、3-2-2の特則であり、さらに以下の限定をした。まず、誤報など取材内容の信用性の評価が問題となる場合については、救済の対象から除外し、裁判所による裁判にゆだねるものとする。また、政治家高級官僚などに対する過剰取材あるいは名誉・プライバシー侵害については、公益性を考慮し救済の対象から除外した。報道の自由の重要性、国内人権機関の独立性が確保されるか、などの点から、その救済のための自主的第三者機関の設立を求め、その判断が尊重されるべきである。

3-3(不特定多数の者の属性に関する情報の公然摘示)

3-1記載の人種等の属性を有する不特定多数の者に対する差別的取扱いの助長又は誘発の目的で、当該属性を有することを容易に識別しうる情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為で、当該不当な差別的取扱いの助長または誘発のおそれが明らかである場合は、当該行為をやめるべきことなどの警告あるいは勧告を行なうことができること

公権力及び私人によるもののいずれも対象とする。私人による場合でも社会的影響力の有無を問わない。

 いわゆる地名総鑑の頒布などを念頭においたものである。掲示は、インターネットでの表示も含むものとする。差別そのものではないが、差別に直結する行為ということで救済の対象とした。

 不特定多数のものに対する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示など公然と表示する行為は、まさに対象を明確に限定できないため対象としないこととする。

第4 人権救済手続

4-1(個別調査の開始)

  1. 被害者及びその親族等は、本法が救済の対象とする人権が侵害されたと思料するときは、人権委員会に対しその事実を申し立て、適当な措置をとるべきことを求めることができること。但し、当該人権侵害を受けたと思料される個人、団体の明確な意思の表示に反して申し立てることはできない。
  2. 国、地方自治体および民間の設置する施設に収容されている者が前項の申立てをしようとするとき、同施設の職員は、その申立ての内容を検閲してはならないこと。同施設の職員は、人権委員会宛の申立書を受け取ったときは、速やかに、人権委員会に提出しなければならないこと
  3. 人権委員会は、次の各号に掲げる申立て及び規則の定める申立てについては、調査手続を開始しないこと
    1. 申立ての内容が明らかに人権侵害に該当しないとき
    2. 人権侵害の事実がその終了時から申立時までに既に3年を経過している申立てで、申立てが遅れたことに相当な理由がないとき
  4. 前項の調査不開始に対して、申立人は、調査不開始の通知を受けた日から1週間の不変期間内に、人権委員会に異議を申し立てることができる。人権委員会の決定を経て委員長は、異議の申立てを受けた日から30日以内に、調査不開始を取り消して調査手続を開始するか、異議の申立てを却下しなければならないこと
  5. 人権委員会は、第3項の調査不開始の事由がないときは、調査手続を開始しなければならないこと
  6. 人権委員会は、第1項に該当する人権侵害の事実があると思料するときは、職権をもって調査手続を開始することができる。但し、当該人権侵害を受けたと思料される個人、団体の明確な意思の表示に反して調査手続を開始、続行することはできないこと
  7. 人権委員会は、この章で規定する人権救済手続を行うにあたり、表現の自由、思想及び良心の自由、信教の自由、学問の自由など憲法や国際人権法で保障された基本的人権の重要性を認識し、これらを最大限尊重すること

4-2(調査の権限)

  1. 人権委員会は、規則を以って定めるところにより、次の各号に揚げる調査をすることができること
    1. 相手方、関係人、又は参考人に出頭を命じて質問し、又は、これらの者から意見若しくは報告を徴すること
    2. 鑑定人に出頭を命じて鑑定をさせること
    3. 申立てにかかる事件に関連する書類その他の物件の所持者に対し、当該物件の提出を命じ、提出物件を留めて置くこと
    4. 事件の関係場所に立ち入り、関係者に質問し、関係場所および資料を調査すること
  2. 公務所は、人権委員会の調査に積極的に協力しなければならない。
  3. 人権委員会は、規則を以って定めるところにより、調査官に第1項の権限を行使させることができる。
  4. 第1項の規定による調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

4―3(調査拒否)

人権委員会の調査に対しては、次の各号に定めた場合を除き拒否できない。

  1. 刑事訴訟法146条ないし149条に定める証言拒絶事由があるとき
  2. 公衆に報道する目的で取材することを業とする者が業務上第三者から取得した資料又は情報の取得源を対象とするとき

 調査を拒否できる場合は、明記するべきである。そこで、刑事訴訟法で証言拒絶をすることが認められた場合に拒否できることとした。ただし、公務員が公務上の秘密を理由として証人資格を否定される旨の規定については、採用すると公権力による人権侵害を調査できなくなるため、除外した。なお、報道機関については、取材源の秘匿の重要性、近時の最高裁判例などを考慮し、刑事訴訟法には規定がないが、限定的に調査拒否できるものとした。

4―4(調査拒否への対処)

人権委員会の調査を拒否した場合、人権委員会は拒否した事実を公表し、また公務員についてはその懲戒を求めることができること

 調査についての間接的な強制力としては、刑事罰(懲役、罰金、科料など)、民事罰(過料、過怠金など)、事実認定上の不利益判断、公表による不利益などがある。ここでは公表による不利益の限度にとどめた。また公務員について、人権委員会の調査に協力すべき義務があると考えてよく、その違反については懲戒を求めることができることとした。

4-5 調停・仲裁

4-5-1(調停・仲裁による終了)

<1>人権委員会は、人権侵害による被害回復のために、調停(職権付調停を含む)又は当事者の同意を得て仲裁に付することができること

<2> 人権委員会は、調停で当事者間に合意が成立した場合、合意を証する文書を作成すること

<3>人権委員会は調停の履行確保のため必要な措置をとることができる。合意文書の履行が完了した時点で人権侵害救済申立事件が終了したものをすること

簡易・迅速な人権救済のために人権委員会に調停と仲裁の権限・機能をもたせることが必要不可欠である。調停による合意には、自由かつ柔軟な解決をめざすということで債務名義としての効力を与えない。そのため、履行されたことが確認された段階で人権侵害救済申立事件が終了したという扱いが必要である。

4-5-2(調停・仲裁の担当者)

  1. 調停委員会は、人権委員会の委員長若しくは委員又は調停官のうちから、事件ごとに、人権委員会の指名する三人の調停委員をもって構成すること。調停委員のうち少なくとも一人は、弁護士でなければならないこと仲裁委員会も同様とすること。但し、当事者の合意による選定がなされときは、その選定に従うこと
  2. 調停又は仲裁の手続に参与した者は、当該事案について調停又は仲裁以外の人権救済手続に関与することができないこと

調停・仲裁の担当者は事件毎に3名で委員会を構成させる。予断排除と当事者から見た公平らしさ確保の観点から調停又は仲裁の手続に参与した者は、人権侵害救済事件の調査に関与できないものとした。性差別が問題になる事案では調停委員の少なくとも1名は女性とすべきであろう。

4-5-3(措置)

  1. 人権委員会は、調査を経て人権侵害と認める場合は、警告、勧告、要望などの措置をとり、人権侵害の事実が認められない場合は不措置とすること
  2. 人権委員会は、第1項の措置の決定と同時に、国又は地方自治体、その他関係機関又は関係者に、措置内容を示す書面を送付することができること
  3. 人権委員会は、第1項の措置をとった場合、相手方に対して当該措置の実施状況の報告を求め、必要のあるときは措置の事実を公表することができること

4-5-4(異議の申立て)

4-5-3<1>の警告、勧告又は要望の措置に対して、申立人及び相手方は、決定の通知を受けた日から2週間の不変期間内に、人権委員会に理由を付した書面をもって異議を申し立てることができること人権委員会は、異議の申立てを受けた日から90日以内に、措置の取消、変更をするか、異議の申立てを却下しなければならないこと

4-5-5(懲戒請求、告発、提訴)

  1. 人権委員会は、調査の結果、国又は地方自治体の公務員が故意又は重大な過失により人権侵害を行ったと認めるときは、その公務員の懲戒の処分を求めることができること
  2. 人権委員会は、調査の結果、刑罰法令に違反する犯罪があり、そのまま放置することができないと思料するときは、検察官に告発しなければならないこと。この告発にかかる事件について公訴を提起しない処分をしたときは、検察官は遅滞なく、法務大臣を経由して、その旨及びその理由を文書をもって人権委員会に報告しなければならないこと。3-3の当該行為をやめるべきことなどの警告あるいは勧告に相手方が従わない場合は、人権委員会は自ら当該行為の差止訴訟を提起することができること

第5 人権状況等の調査

5-1(人権状況調査)

人権委員会は、随時次の各号について必要な調査を行わなければならないこと

  1. 国内の人権状況
  2. 国内法の遵守状況
  3. 国際人権諸条約の国内における履行状況
  4. 国の機関と国連その他の国際機関、地域機構および他国の国内機構との協力状況
  5. 国および地方自治体の機関ならびにその他の関係機関と人権分野で活動する市民団体との協力状況

5-2(調査方法)

  1. 前条の人権状況調査については、4-2(調査の権限)の規定を準用すること
  2. 人権委員会は、前条の人権状況調査を行うために、いつでも、国および地方自治体が設置する拘禁施設を視察することができること
  3. 人権委員会は、前条の人権状況調査を行うために、公聴会を開き、必要があるときは、国、地方自治体及びその関係機関の公聴会への出席を要請することができること

5-3(勧告、提言等)

  1. 人権委員会は、人権状況調査の結果、改善すべきことが明らかになった場合は、国及び地方自治体、その関係機関、団体等に対し、人権状況改善のための勧告、提言及び意見表明をすることができること
  2. 人権委員会は、人権状況調査の結果を公表することができること
  3. 前項の公表に当たっては、個人のプライバシーを不当に侵害することがないよう配慮しなければならないこと

第6 人権教育等

6-1(人権教育)

  1. 人権委員会は、人権尊重の意識を高め、人権という普遍的文化を普及発展させるため、次の各号に掲げる業務を実施し、人権教育の任務を行うこと
    1. 人権教育の研究、人権教育の基本プログラムの作成、人権教育研修の実施
    2. 国及び地方自治体の各機関、各種団体が実施する人権教育活動への情報提供、助言、協力及び援助
    3. 人権侵害防止のためのガイドライン・行動計画の策定
    4. その他人権教育に必要と考えられる事業
  2. 次の各号に掲げる特定の職業に従事する者(以下、特定職業従事者という。) は、その職務の遂行にあたって、特に人権尊重への配慮が求められることから、人権委員会は、特定職業従事者に対する人権教育に努めなければならないこと
    1. 裁判官、書記官等の裁判所職員
    2. 検察官及び検察事務官等の検察職員
    3. 弁護士
    4. 司法修習生
    5. 矯正施設・更生保護関係職員等
    6. 入国審査官、入国警備官等の入国管理関係職員
    7. 海上保安官
    8. 労働基準監督署及び公共職業安定署職員等の労働行政関係職員
    9. 警察職員
    10. 自衛官
    11. 教員・社会教育関係職員
    12. その他、規則で定める者

6-2(提言、援助等)

<1>人権委員会は、いつでも、国及び地方自治体、その関係機関、団体等に対し、人権状況改善のための助言、立法・政策提言、意見書の提出を行うことができること

<2>人権委員会は、国及び地方自治体に対し、人権状況改善のために必要とされる援助を求めることができること

6-3(政府報告書の作成支援)

  1. 人権委員会は、国際人権諸条約に基づき、政府が国連またはその他の国際機関に提出すべき報告書等の作成に助言、援助を行うこと
  2. 政府は、前項の報告書等の作成にあたり、人権委員会の意見を求めなければならないこと

第7 非政府組織(NGOなど)との協力

人権委員会は、第1 1-1に掲げる目的を達成するため、人権に関わる各種非政府組織の意見を広く聴取し、人権に関わる基本的施策の策定、人権教育の実施、人権侵害事案の救済等において、これらの意見を反映させるよう努めるものとすること

第8 国際人権条約の推進など

  1. 国際人権条約の推進
    人権委員会は、国際人権条約の批准促進をはかるものとすること。また既に国内で発効している国際人権諸条約については、その国内の実施状況を調査し、促進すること
  2. 国際諸機関との連携と協調
    人権委員会は、国際連合その他の国際機関、地域機構及び他国の人権機関との協力、情報の交換を行うこと

第9 国会への報告

人権委員会は、国内の人権状況、人権委員会の活動状況について年に1度国会に報告をすること