安田信託銀行(現みずほ信託銀行)の公益団体であった「安田和風会」の「同和研修10年記念安田識字基金」から半額の寄付を受け、「安田識字基金」の名称で研究所事業として2005年度開始した標記助成事業は今年度で5回を迎え、国外の申請を2月-3月末まで募集した。
国内については、大阪府内に200カ所以上ある識字学級・日本語教室ネットワークの中心として、識字・日本語学習のための相談に随時応じ、学習者の交流事業、学習教材・各種講習会をはじめ識字・日本語に関わる幅広い情報を発信している「おおさか識字・日本語センター」事業への助成を昨年末の運営委にて決定しており、一般募集は中止した。同センターは、国際識字年を機に府内の識字関連諸団体により結成した識字・日本語連絡会と、大阪府、大阪市、(財)大阪府人権協会、(社)大阪市人権協会の5者により2002年設立され、現在は堺市を加えた6者で協同運営されている。ところが、橋下府政が「大阪維新」の名のもとで進める財政再建政策によって人権や教育・文化に対する予算が大幅に削減されるなか、今年度の府の予算措置が全廃されたのに伴い、大阪市・堺市からの補助金も受けられなくなり、同センターの存続そのものが危機に瀕する事態に至った。民間と行政の協同で識字・日本語活動をつなぐ事業は、他府県に例のない先進的な取り組みであるだけに、府内にとどまらず他府県の識字・日本語施策にも波及する重大な問題であるとの認識から、緊急支援を決定した。
国外からは短期間に3件の応募があり、5/15の運営委で1-3の助成を決定した。1,2は3年計画として申請されたが、2年目以降の助成は、中間・最終報告、再申請の内容をもとに毎年度検討することとなった。
1)Society for Rural Education and Development (SRED: 農村地域教育・開発協会) の申請、Tamil Nadu Dalit Women's Trust (タミール・ナドゥ女性トラスト) の実施による「女性の人権とダリットの権利キャンペーン」に対し、申請された232,000インドルピーの全額(振込手数料等込み)45万円(申請・事業対象国ともインド; 新規)。
知識や情報を否定され差別と従属を強いられてきたダリット女性に対し、権利を主張するための法教育を通じてダリット女性をエンパワーする3年間の事業計画では、ダリット女性のリーダーに法的権利について教育を行い、政治的権利を主張できるようにすることが目標とされている。そのために、自らの権利を守るための憲法をはじめ種々の国内法、国際的な人権条約や人権をめぐる動向についてのセミナー、ワークショップ、キャンペーンのほか、必要な法律扶助・支援なども実施される。
2)Nepal Suppressed Community Protection Centre (NEPSCON: ネパール被抑圧コミュニティ保護センター)とDalit Studies and Development Centre (DSDC: ダリット研究・開発センター) の実施による「スルケットにおけるダリットの教育とエンパワメント」に対し、申請された412,500ネパールルピーの全額(振込手数料等込み) かつ助成上限額の50万円(申請・事業対象国ともネパール; 新規)。
ネパール社会はカーストに分割され、かつて不可触とされていたダリットは開発のあらゆる領域で遅れをとってきた。ダリットの識字率は33.8%(全国平均54%)、貧困率は47%(全国平均31%)である。中西部地域のスルケットに8万人以上が暮らすダリットのうち、女性の識字率は50%以下で、大半は読み書きができない。彼女らが読み書きでき、権利行使できるようになることをめざし、各々1千世帯以上が暮らす3行政村で事業が行われる。1年目は、まず貧窮ダリットコミュニティを特定、グループを形成(25世帯×8グループ)、ファシリテーターを8名採用し10日間の研修実施(5日間のフォローアップ研修も)、8つの初級識字学級を週6日×9カ月実施、さらに、グループで社会的行動をして権利を要求、所得創出のための貯蓄・貸付を開始、社会活動をして自ら生活向上させる計画で、事業完了には3年を要する。識字学級のほか2年目は、週一度の会合で1週間の活動について話し合い、3年目は、地域の各種グループと連携し、連合体として権利を主張することが目標とされる。
3)Vikalpani Jathika Kantha Sanvidanaya(オルタナティブ全国女性連合)の申請・実施による人権・平和教育を通じて人種間の調和を発展させる東部州での事業(被差別カースト/エスニック集団に属する女性の教育等)に対し、申請された449,750スリランカルピーの全額(振込手数料等込み)37万円(申請・事業対象国ともスリランカ; 新規)。
20年の内戦で疲弊した東部州3地区、トリンコマリ(シンハラ、タミール、ムスリムが唯一ほぼ同比率を占める)、バティカロア(より多くのタミール人口、武装集団、3千人の国内避難民を擁する)、アンパライは、各々異なる地域事情とともに共通して各エスニック集団間の緊張を抱えている。異なる集団間、特に経済的、社会的、文化的に低位に置かれ性暴力にさらされる女性たち、その子どもたちの間で、相互理解を進めるため、女性差別撤廃条約等の国際文書にもとづく女性やマイノリティの権利に関するワークショップ等のリーダー研修プログラム、子どもの権利に関する絵画プログラムが実施される。
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