2009年8月4日、文部科学省の委託を受けたお茶の水大学の耳塚寛明教授らが実施した調査結果が公表された。この調査は2008年度の全国学力・学習状況調査に参加した小学校6年生のうち、5政令都市から100校、計約8000人を抽出し、その保護者と教員を対象に学習環境などを調査したものである。
学力低下のみがいたずらに叫ばれ、その社会的背景を冷静に調査・分析することなく、闇雲な教育実践が進められがちな風潮がある中で、この調査は、その社会的背景の重要な1つである家庭状況(所得や学歴等)を保護者から直接調査したという点、また欧米での「効果のある学校」論に基づき分析を深めたという点、それを委託とはいえ国が関与して実施したという点で、いずれも初めての意欲的な試みである。また、部落の子どもたちの学力問題を考える上でも重要な示唆を示すものと言える。
調査結果の概要は、<1>保護者の世帯収入や教育支出が多いほど、各教科の平均正答率が高い傾向がある―例えば最も平均正答率が高かった1200万~1500万円未満の世帯と200万円未満の世帯との平均正答率の差は20ポイントにも及ぶ、<2>しかし、保護者の子どもに対する接し方や保護者の行動(例えば絵本の読み聞かせやニュースについて子どもと話す等)と正答率は関係しており、それは世帯収入の影響を統制してもなお有意である、<3>さらに、家庭背景の問題(低収入や就学援助率の高さ等)にかかわらず成果をあげているいわゆる「効果のある学校」は、授業規律の維持、家庭・地域との連携、関心・意欲・態度等に特徴がみられる、というものである。詳細は文科省のホームページを参照されたい。
この調査結果からは、<1>家庭の経済的安定をいかに図るかが重要―教育行政だけの課題ではなく行政総体の課題(住宅・雇用・福祉医療等々)であること、同時に<2>教育は無力ではなく、学校教育や家庭への教育的支援の在り方が重要、という2つの学力保障に関する視点が導かれると言える。人権・同和教育のこれまでの教訓とも重なる重要な調査結果であり、大きく注目される。こうしたエビデンス(根拠)に基づいた教育行政や実践がさらに大きくなっていくことを強く願うものである。
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