地域就労支援事業とは
2008年4月、国民生活審議会は『消費者・生活者を主役とした行政への転換に向けて(意見)』を発表し、「就職困難者について、厚生労働省において、よりきめ細かい実態把握を行うとともに、一人別のチーム支援体制について、就職困難者の属性に応じた支援チーム(労働・福祉分野の行政及びNPO等の民間団体で構成)を着実に整備する取組を進める必要がある」と提起している。
2002年度から大阪府と府内各市町村が取り組んできた地域就労支援事業は、この指摘を先取りした先駆的な事業であり、近年では同様の事業が他府県の市町村でも取り組まれてきている。事業は、「相談」「コーディネーター」という機能を軸に、就職に至るまでの独自の支援の枠組みを構築し、自治体の縦割りの仕組みに対して相談者の問題解決にあたって庁内関連部局の連携や支援NPO、ハローワークや地元企業や商店主との連携のもと、利用者も増加してきている。課題としては相談件数や就職率等の成果について、市町村間の大きな違いがみられ、個々のコーディネーターの力量に差があるものと思われる。
また、就職につながらなかった人が8割にものぼりその理由の分析も十分なされていないし、就職した2割の実態、すなわち安定生活に足りる給与があるのかどうか等についての分析も十分になされていない。さらに、生活保護についての相談が多いものの福祉担当部局との連携不足の自治体が多く、他方では、生活保護自立支援事業としての就労支援が取り組まれていることもあり、両者の一層密接な連携が求められるところである。また、仕事の確保については市町村の枠を超えた、ある程度広域な地域雇用の発見や掘り起こしが求められる。
地域就労支援事業「相談者実態調査」
地域就労支援事業「相談者実態調査」は、教育水準や技能、就業経験だけではなく、健康・障害や生活をとりまく諸条件、社会的なつながりと過去の経歴の把握等、総合的に「就職困難者」が実際に抱えている「不利な条件」や「困難」を明らかにし、その結果をふまえて広く社会生活支援も含めた就労支援のあり方について政策上の提起をすることを目的として実施された。
調査項目としては、基本属性、就職相談の利用、就労経験、健康及び障害の有無、経済的な暮らし向き、居住環境、社会とのつながり、15歳時の生活環境等を項目としている。
なお、調査は2008年1月から6月の間に行われ、回収データ数252人のうち有効票240人の回答が得られている。
調査結果から
- 就職困難者には、多様な社会集団が存在しているが、とくに世帯構成から見てそういった傾向が強くみられる。
- さまざまな障害をもつ人たちが多く、とくに若年層で精神疾患を抱えている者が多くみられる。
- これまでに就労経験のある人も多いが、安定した就労経験が乏しい人が多いことがうかがえる。
- 所得については有効な回答が得られず、きちんとした分析をするには至らなかったが、生活保護受給世帯の多さ、公共サービスの停止等の回答結果から鑑みて、調査対象者には低所得の者が多いことがうかがえる。
- 「貧困感」について、それが一般市民のもつ貧困感とは、ずれがあるように思える。(イメージされる標準生活の基準が異なるのでないか)
- 公的年金制度未加入者も多くみられ、社会保障制度からもれ落ちていることを意味している。
- 家族や友人などとの関係が希薄、あるいはそうした関係をもたない人が多い。
- その人の15歳時の生育環境も大きく影響している。
就職困難者と社会的排除
就職困難者がかかえている諸問題は、相対的には社会的排除として捉えることができるだろう。
そして、一般的に求められる就職困難の克服に向けた施策としては、<1>学校教育や社会教育、職業訓練等エンプロイヤビリティの増大に向けた施策、<2>最低限所得保障、<3>育児や介護などに対する社会的支援やメンタル部分のヘルス等個別的な困難克服やニーズに対する施策、などが考えられる。
社会的排除を克服する社会的包摂論とは、「排除された人びとを社会メインストリームへ包摂することをめざす」ことといえる。詳細は紀要187号(10月刊)に掲載予定である。
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