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2009.10.30
意見・主張
  

第4回部落解放・人権研究者会議開催される

7月19日、大阪人権センターにおいて第4回部落解放・人権研究者会議が開催された。

開会にあたり、法政大学現代法研究所・国連グローバル・コンパクト研究センター所長、江橋崇さんより、CSR研究の協同と連帯の来賓挨拶がなされた。

以下、この日報告された4本の2008年度調査研究事業の概要を紹介する。

なお、各報告の詳細については紀要『部落解放研究』188号(2010年1月号)の特集として紹介される予定である。

第1報告:歴史部門「『大阪の部落史』全10巻から見えてくるもの」

報告者/渡辺 俊雄(大阪の部落史委員会)

1995年に「大阪の部落史委員会」を発足以降、この3月にようやく全10巻が完結した。以下、『大阪の部落史 第10巻 通史編』より各時代ごとの問題意識を簡潔に紹介していく。

古代では、<1>「五色の賤」が直接、のちの部落(かわた、など)につながることはない、<2>馬の渡来は5世紀初頭、牛の渡来は6世紀前半頃で当初は権威の象徴であった、<3>死牛馬の処理は当初、主として国の組織(技術者集団)によって担われていたが、穢れ観念の変化や律令制の崩壊にともない都の外や在野へと移っていった。

中世では、宣教師フロイスの著書『日本史』の一節に戦国末期の堺にエタと呼ばれる人びとがいたことを詳しく紹介している。また、日本における物流経済の要として発達した大阪は、中世の被差別民もそうした港や交通の結節点におり、「小領主」としての「地侍」は領主というより地主としての性格をもっていて、被差別民に対しても比較的寛容であったと思われる。

近世では数多くの新しい知見があった。例えば、<1>南王子村以外のかわた村の人口増加についての史料、<2>草場(死牛馬処理権)については単純に1部落1草場ではなく複雑な権利関係があった、<3>幕末、部落に広範な博労が存在していた、<4>と畜を扱う部落が「屠者村」、「殺生村」などと呼ばれ部落からも差別を受けていたこと、などである。

近代では、水平運動(部落解放運動)にも多様な潮流があるとともに、部落改善運動(融和運動)も積極的な意味があった。また、部落改善運動から米騒動、そして水平社から戦後の解放運動というような簡単な直線的な流れではなく、もっと重層的、複線型な運動の流れがあった。

現代では、大戦をはさむ戦前から戦後への歴史は断絶ではなく、基本的に続いており、高度経済成長をはさむ変化こそ重要である。また、現代はとくに差別撤廃の多様な取り組みが多様な人びとによって取り組まれてきている。

なお、今後の課題としては、<1>年表の作成、<2>人権教育、人権啓発での活用、<3>収録しきれなかった史料の活用、などがある。

第2報告:人権部門「CSR報告書と人権」

報告者/中村 清二(部落解放・人権研究所)

この調査研究事業は、<1>CSR報告書の人権記載から「好事例」を抽出すること、<2>旧来の「利益配分」レベルだけでなく、「本業やステークホルダーとの関係」レベルの人権CSRを鮮明化すること、<3>個別企業の人権に関する「顔」を可視化すること、<4>CSR報告書の人権記載の充実、<5>ステークホルダーの人権CSRへの関心の高まり、を目的として実施してきた。

好事例の横断的な選定基準としては、PDCAサイクルを意識し課題を明確化している、本業がらみの特徴があること、海外での人権・ミレニアム開発目標等に関連した記載があること、等である。

個別テーマごとの選定基準としては、トップの見解、CSR体制や企業行動憲章、CSR調達、ステークホルダー・ダイアログ、非正規社員に関連した記載、本業を活用したビジネス、本業を活用しているがビジネスではないもの、本業とは関係ないが事業や資金等の支援、CSRの指標化への取り組み、第3者意見、などを選定基準とした。

調査は、対象企業数が323社で上記の基準で選ばれた好事例の紹介があった。

今後の課題としては、2010年秋に発行が予定されている「ISO26000」をにらんだ人権CSRの一層の鮮明化があり、具体的には、<1>2009年版の継続した分析、<2>どの部局が人権CSRの主担当部局となっているのかについてネット・アンケートの検討、<3>自己診断としても活用できる人権CSRのガイドラインの作成、<4>中小企業の人権CSRについての事例、意味づけ、経営効果などの整理、がある。

第3報告:啓発部門「第2次食肉業・食肉労働に関するプロジェクト」

報告者/友永 健三(部落解放・人権研究所)

差別の実態から学ぶことと、食肉業・食肉労働、とりわけ食肉労働に携わる人びとに対する偏見を取り除き、自らが従事する仕事を何のわだかまりもなく語れる状況を作り出すために学校教育、とりわけ小学校のカリキュラムに位置づけていくことを基本的な視点として取り組んできた。

おもな論点となったのは、第一に、「畜魂碑」はと畜に携わる労働者は命を大切にしている証だという点に重きをおいた教育実践に関する議論があった。つまり「生き物を殺すことはいけないこと」という一面的な価値観を強化してしまうことになりかねず、命の実践とと場労働についての実践は分けるべきではないだろうかということである。

第二には、と畜に携わる労働者の「誇り」についてであり、すなわち、おいしい肉をつくる、品物を大切にする(枝肉・皮)、道具を大切にするといったことについてである。これらのために不断の技能習得の努力と一定の年数が必要であるものの、日本では社会的には評価されていないといえる。マイスター制度の整備など社会的評価を上げていく試みの必要がある。

今後については、まず報告書の有効活用、とりわけ大阪市内小学校での実践を進めていく必要がある。第二には、<1>日本人は「魚の活け造り」や「海老の躍り食い」には偏見を抱かないのになぜ牛や豚のと畜には偏見を抱くのか、<2>関東では食肉労働従事者する人に対する偏見は職業差別的要素が強いが関西では職業差別と部落差別が重なり合って存在していると思われること、等についての課題の究明がある。

第4報告:調査部門「大阪の部落女性実態調査」

報告者/内田 龍史(部落解放・人権研究所)

2008年に部落解放同盟大阪府連合会からの受託事業として2008年7月から8月に、15歳以上の大阪府内47地区の部落女性を対象に行い、有効回収数は個人票1314票、世帯票1173票であった。また、本調査は結果として部落外に居住する者も含まれることとなった。

(1)教育・識字・情報

若年世代になるほど高学歴化しているものの、大阪府平均(女性)との差は依然存在している。また、本人の学歴は子どもへの進学の期待と強く結びついており、とりわけ子どもが女子だった場合で強く、学歴が親世代から子世代へと再生産されていく可能性が高いことを示唆している。

また、20歳から40歳代という相対的に若い世代においても読み書きに何らかの困難を抱えている層が5~8%程度存在している点は注意すべきかもしれない。あわせて自宅でパソコンを利用している割合は33%で大阪府のパソコン世帯普及率の68.5%を大きく下回っている。

(2)就労

労働力率をみると、大阪府平均(女性)の労働力率にみられる30歳代で低くなるM字カーブではなく、30歳代後半にへこみがみられる程度の台形型を描いており、職業構成においては、大阪府女性と比べると「サービス職」、「専門職」でポイントが高く、「事務職」、「生産工程・労務職」で低くなっている。また、産業構成では、公務員層の厚みが若年層で急速に薄くなっており、非正規雇用比率については15歳から24歳で7割を超え、大阪府平均(女性)より24ポイントも高い。中年層における雇用の相対的安定の一方で、若年層と高齢層における雇用の不安定さが見出される。とりわけ、若年層における雇用の不安定傾向に注意する必要がある。

(3)部落問題

6割が自身を「部落出身者」だと思っている。部落出身であることを肯定的にとらえているのは60歳以上の高齢層であり、不安を感じているのは30~50歳代である。被差別体験の特徴として、高学歴層、高経済階層ほど差別体験の割合も高く、社会関係の広がりとともに差別される可能性が高いことを示唆している。一方、若年になるほど被差別体験、差別認識ともに減少しており、その分析について今後のさらなる調査が必要となっている。

(文責・松下龍仁)