はじめに
「人権教育のための国連10年」もなかばとなり、この間、日本国内においても、1997年に国内行動計画がつくられ、府県レベルでも、国に先立って大阪府行動計画が策定された。以後、いくつかの府県で行動計画づくりが進められ、大阪市など市町村でも策定がなされたところがある。
同和施策をはじめとする人権施策では、西日本を中心とする自治体の取り組みが先行して、国の関わりが遅れる傾向があった。そこには、住民自治にもとづいて、部落解放運動など住民の自治体への働きかけがあり、それが国にもおよぶということがあった。その一方、地方分権の不十分さから、国の施策の展開を待って取り組む自治体も少なくないのである。
このような状況のもとで、府県が策定している行動計画は、国のそれとくらべてどのようなものであるか、それぞれどのような特色を示しているかを検討し、その意義と問題点を探ることが本稿の課題である。とりあげた行動計画は、長野、静岡、三重、滋賀、京都、大阪、奈良、和歌山、鳥取、香川、徳島、高知、福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎、熊本の18府県のものである。
1 計画策定過程
行動計画をつくるにあたっては、住民代表や学識経験者などからなる委員会を組織して案をつくることが、住民のあいだに計画が浸透することにつながりやすい。庁内組織だけでなく、このような組織を通じて策定したことが報告書からわかるのは12府県である。計画策定懇話会のかたちを採っているところが多く、長野、奈良、香川、徳島、熊本の諸県がそうである。また、人権教育推進懇話会で検討したところは、大阪、長崎、大分、宮崎といった府県である。静岡県は人権会議、三重県は人権施策審議会、和歌山県は人権教育啓発推進懇話会で審議が行われてきた。審議会は、通常条例による設置であるから、法的位置が安定していて、継続的活動が見られやすいものである。
これらの組織で部落解放同盟など運動団体代表が委員として参加していることがわかるのは数県である。もっとも、運動団体の代表者が別の組織の代表として参加しているところがあるし、同和教育研究協議会代表の参加も見られる。被差別当事者の意見を反映することは、人権教育推進を実質的なものにする上で重要である。
2 人権教育と人権文化
人権教育のための国連10年行動計画においては、人権教育は、「知識と技術の伝達及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及及び広報努力」と定義されていて、フォーマルな教育(定型的な教育)だけでなく、定型的でないノンフォーマルやインフォーマルな教育も含んだ幅広いものをさしている。国内行動計画や各府県の行動計画もこれを受けている。
奈良県の行動計画では、国連総会決議や国連行動計画さらにユネスコの「国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」(1974年)を勘案して、「……人権教育とは、人権が尊重され擁護される社会を築くため、あらゆる人々が生涯のあらゆる機会を通じ、人権に関する正しい知識を習得するとともに、自分で考え判断し、話し合って問題を解決する技能を培い、これを日常の態度として身に付けるための、また、これらに取り組もうとする雰囲気を醸成するための、教育及び啓発であると考えます」というように、詳しく述べている。
さらに奈良の行動計画では、この人権教育を行う基本的視点として
- 生きる力の育成
- さまざまな人々との共生
- 人権意識の日常化
- 人権侵害を許さない意識の醸成
- 社会の基盤となる人権意識の確立
が掲げられているのが注目される。
人権文化については、国連の計画でも国の計画でもとくに詳細な説明はないために、とらえ方はさまざまであり得る。ただここでいわれている文化が、日常的なものの見方や考え方、行動様式などを意味することは確かである。和歌山県の行動計画においては、その目標として、〈人権が尊重される社会づくり〉と〈人権文化の創造〉をあげ、「……私たちが知らず知らずのうちに身につけてきた方言や日常のあいさつなどのように、人権尊重の精神や人権感覚が日常生活のあらゆる言動に自然とあふれ、文化となるような取組が大切です」と述べている。
その上でさらに、「人権文化を創造するための共通認識」として、
- 「点検と気付き」からの始まり
- 「人権意識の継続」からの始まり
- 「偏見からの脱却」からの始まり
- 「世間体からの脱却」からの始まり
- 「家意識からの解放」からの始まり
- 「多様性の容認」からの始まり
- 「痛みの共感」からの始まり
- 「共生の心」からの始まり
をあげていて、具体的な取り組みのポイントとなるものを示していることが評価される。
3 重要課題
第2次大戦後、基本的人権についての教育が行われるようになったものの、部落問題など具体的な人権問題をとりあげての学習を欠いたため、一般的に人権についての理解は得られても、差別など人権侵害の事実に迫り、それを変えていく取り組みにつながらない面があった。人権確立にむけての歴史として、アメリカの独立宣言やフランスの人権宣言はとりあげられても、また日本の自由民権運動は記述されても、1970年代なかばまで、水平社宣言やその運動が教科書で扱われることはなかった。むしろ、部落の歴史を記述することが教科書検定で問題とされる状況があったのである。在日外国人や障害者に対する差別の問題も教育においてとりあげられず、男女平等は説かれても、現にある女性差別の問題を掘り下げる営みはきわめて不十分であった。このことが、人権問題の意識化を妨げ、問題の解決を遅らせてきた。一般的抽象的に人権を考えるのでなく、差別の現実に対する取り組みと重ねての人権教育が必要であり、同和教育の実践がその道を切り開いてきたのである。
「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画では、「女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人などの重要問題に積極的に取り組むこととする」とし、それぞれの人権問題について記述している。配列の順序は異なるが、同和問題、女性、子ども、高齢者、外国人、HIV感染者については、すべての府県が言及している。ハンセン病患者については、大阪、高知以外は触れている。受刑者については、三重、大阪、高知、鳥取、福岡、長崎、熊本以外は触れている。
国内行動計画ではクローズアップされていないものとして、犯罪被害者について、長野、静岡、徳島、長崎、熊本がとりあげている。加害者の人権にくらべて被害者の人権が守られていないとの言説があり、それが影響して、受刑者の人権には触れず犯罪被害者の方がとりあげられることもあるが、従来受刑者の人権の方が意識されにくく、烙印が押されることによって更生を困難にしてきたことも考慮しなければならない。O―157感染者について、大阪、高知がとりあげ、遺伝子工学のもたらす問題の指摘が大阪に見られる。婚外子について、奈良、佐賀がとりあげ、プライバシーについて、静岡、長野、大阪、鳥取、香川、長崎、大分、熊本が扱っている。
これらの人権間の関係について、国内行動計画は、「『人権教育のための国連10年』は、全ての人権の不可分性と相互依存性を認識し……」と述べている。この計画が策定される過程では、人権間の対立をことさらにとりあげるような記述が見られたこともあるが、各方面からの指摘で、相互関連性を重視した記述に改められたいきさつがある。ある人権への取り組みが、他の人権の取り組みにもつながることが重要であり、互いの関連に着目することが課題となっているのである。このことは、奈良など府県レベルでも記載されているところがある。人権教育が部落問題などを抜きにした一般的抽象的なもので終らないように留意する必要があるのである。
4 条件整備
人権教育を進めるにあたって、条件整備が課題となる。
この点について、奈良県では、
- 人権教育を進めるための学習環境の整備—
- 生涯を通した学習機会の提供
- 地域づくりと結合した学習環境の充実
- 人権教育を進めるための人材の養成—
- 身近なリーダー・指導者の養成
- 専門的な指導者の養成
- 人権教育を進めるための学習方法の整備—
- 人権教育プログラムの整備・充実
- 効果的な手法の開発・導入
- 効果的な教材の開発・整備
- 効果的な啓発手法・情報提供の実施—
- 人権についての啓発手法・情報提供の内容の充実
- マスメディア等の積極的な活用
- ボランティア活動の促進
- 国、市町村をはじめとする関係機関、民間団体、企業等との連携
があげられ、整理された記述が見られる。
教育施策では、教育内容・方法の工夫などソフト面に力点が置かれやすいが、教育活動を支える施設の整備などハード面もおろそかにされてはならない。身近な場で学ぶことを保障するために、公民館など社会教育施設の充実も課題である。また、障害者や高齢者が行動しやすい環境が整備されていることも、教育効果をもたらすことになる。あらゆる行政が人権教育に関わることについての指摘が必要である。すでに人権センターをもっているところでは、その一層の充実が課題となるが、ないところではその設置も促される。和歌山県は、人権教育啓発センター(仮称)を新たに設置することをうたっている。また、大阪府は、「アジア・太平洋人権情報センターの機能充実や、社団法人部落解放・人権研究所など民間の研究機関等が実施している人権問題に関する専門的な講座の発展方向や民間各界が推進する『国際人権大学(院大学)』構想をも考慮しながら、その方策について充実を図る」と記述されているのが注目される。
いずれの府県も民間団体との連携について言及しているが、人権問題に取り組むNPOといった用語を使って、それとの連携・支援・奨励などを掲げているのが、三重、高知、京都、大阪などであり、NGOFの用語を使っているのは、静岡、京都、大阪、徳島、高知、大分などである。人権教育・啓発が住民主体で展開されることは、効果の点でも、住民自治・民主主義の実現のためにも重要であり、住民団体の活動を支えることが行政の大きな役割となる。同和教育研究協議会、人権啓発推進協議会などはもとより、さまざまな団体の人権教育への取り組みを支援することが求められるのである。
5 人権教育の推進
人権教育の推進は、家庭教育、学校教育、社会教育、企業その他一般社会での教育のいずれにおいてもなされなければならないことが、どの府県においても強調されている。その中で、保育所についての言及がないところもある。企業における人権学習は、まだ一部にとどまっているのであり、これまでにも行われてきた採用担当者の研修をはじめ企業内同和問題啓発推進員など指導者の育成のための研修とともに、一般職員の学習機会の確保についての配慮を求めていかなければならない。とくに非常勤職員の研修の機会が少ないことも問題である。これらの教育においては、人権についての教育もさることながら、教育そのものを人権としてとらえることが必要であり、その点からも識字教育の位置づけが重要であって、長野、三重、滋賀、奈良などの諸県では、識字教育について触れている。
国連の行動計画でも、国の行動計画でも、人権に関わりの深い特定の職業に従事する者に対する人権教育の推進がうたわれている。1978年のユネスコの人権教育に関する国際会議最終文書でも、教員のほか、特定の社会専門技術部門(弁護士、判事、労働組合活動家、医師、精神科医、心理学者、社会学者を含む)、軍人、警官、司法関係者、ジャーナリストなどに対する人権教育が必要であることが指摘されていたのである。国連の計画では、警察官、刑務所職員、法律家、裁判官、教師および教育課程開発者、軍人、国際公務員、開発および平和維持に携わる人びと、NGO、メディア、公務員、議会関係者、ならびに人権の実現に影響力を与える特別な地位にあるその他の人びとをあげ、これらの人びとに対する研修に特別な注意を払うべきことを明示している。
国の計画では、検察職員、矯正施設・更生保護関係職員など、入国管理関係職員、教員・社会教育関係職員、医療関係者、福祉関係職員、海上保安官、労働関係職員、消防職員、警察職員、自衛官、公務員、マスメディア関係者があげられ、詳細になっている反面、法律家や議員などが明記されていない。広い意味では公務員に含まれるものもあろうが、それなら警察職員や海上保安官なども特記する必要がないということになる。府県の行動計画では、検察職員など国家公務員を除いて、ほぼ国の行動計画にある職業について記載している。特色があるのは和歌山で、議員について明記していることである。その責任や影響力からしても、議員を特記する意味は大きい。人権擁護委員や民生・児童委員などについても特記されるべきである。
人権教育の手法としては、これまで、講演会、地区別懇談会、映画観賞などがよく行われてきたが、マンネリに陥っているとの声もあるなかで、もっと多様な方法を組合せ、主体的な学習を進めることが課題となっている。大阪の計画では、「今後、人権教育を学習者・受講者の興味を引き出し、心に残るものにするなど、より効果的なものにするためには、従来の講義形式に加えて、対象者、教育・研修のレベル、内容に応じ、体験型、交流型、参画型学習といった手法の導入を図る」と述べられている。このことは重要であるが、同時に、当事者の話を聞いたり、ドキュメンタリーに接することの意味を再確認することも必要である。また、文化活動に人権の視点を入れることによって、大きな教育効果の得られることは、市民参加の演劇や音楽会で実証されているところである。
さらに、人権教育は、学校文化、職場文化、地域文化などが人権にそくしたものになることによって身についたものになるのであり、そのような文化の構築と結びつけて展開されなければならない。そのため、それぞれの場で身近な生活様式の点検を伴って人権教育が進められることが必要である。
6 推進体制
計画が実行されるには、全庁的に取り組む機構の整備が必要になる。各府県が行動計画推進本部を設置し、知事が本部長を務めているところがほとんどであるが、大分、宮崎のように副知事が本部長のところもある。ただ機構は整えても、定例会議の開催や日常的な取り組みが欠けては、絵に描いた餅に終わる。国、市町村、公的団体、民間団体、企業などとの連携体制を確立することも肝要で、いずれもそのことに言及している。京都のように、既成の人権啓発推進会議や人権啓発行政連絡協議会に加えて、国において計画されている人権啓発活動ネットワーク協議会(仮称)への構築に積極的に協力することを示しているところもある。
計画が計画倒れにならないようにするためにも、それぞれの事業について期間設定を行うことも大切である。三重は、詳細な事業を掲げ、それぞれ計画期間を定めている。もっとも多くが1998年から2004年で設定されている。社会教育に例をとると、地域住民への学習機会の提供、公民館などを拠点とした講座の充実、社会同和教育関係団体などの育成および諸集会の開催支援、親子共同体験交流活動の促進、識字学級担当者の交流の促進、「家庭の日」の普及啓発の推進などが事業としてあげられ、それぞれについてのより詳細な説明と期間が記載されている。また、効果的な人権啓発の推進としては、人権センターを中心とした啓発活動の推進、広域人権まちづくりの推進、マスメディアなどを活用した効果的な啓発事業の充実、世界人権宣言・人権関係諸条約の普及・啓発の推進、人権教育の推進の周知を図る啓発事業、差別をなくす強調月間事業の実施、マスメディアなどにおける主体的な啓発活動の促進、人権問題に関する県民意識調査の実施があげられていて、それぞれの説明と期間の設定がなされている。このような事業別期間設定は、他の府県の報告書では見られない。
7 全体的考察
国連の計画では、人権教育はかなり広くとらえられている。もとより、学校教育、社会教育、企業内教育などが中心とならねばならないが、啓発活動や広報活動、さらにはさまざまな事業が教育効果をもつことに着目して、人権の視点に立った取り組みを行うことが課題となっている。自治体は、住民の人権を確立することを最重点課題とするものであり、行政全体として人権教育にあたるものでなければならない。この点では、まだ府県の行動計画においても、取り扱われている範囲が狭いといわざるを得ない。
このことは、人権文化についての考察が十分ではないことに関係している。私たちを取り巻き、自分自身影響を受けている価値観や慣習を問い直す作業が求められているのである。非合理的な思考はもとより、世間体にしばられ、集団に埋没し、一人ひとりの差異を尊重せず、画一的に扱ったり、一元的な尺度で序列づけるといった文化が、民主主義の実現を阻み、人権の確立を妨げている。家庭、地域、学校、職場などそれぞれの生活の場における文化自体を変革することが必要であり、そのことに日常的に取り組むことを通じて人権教育が展開されなければならないのである。
このような文化は、政治・経済に規定されていると同時にそれらに影響を与えている。身近な生活の問題も、広い社会の動きにつながっている。「地球規模で考え、地域で行動する」ということばにもあるように、さまざまな問題を関連させてとらえ、それぞれの生活の場から行動を起こすことが課題である。教育というと、もっぱらソフト面に力が入れられ、ハード面がおろそかにされかねないことがあり、行動計画でも、施設の整備、財政的措置などへの言及が少ない傾向があるが、あらゆる人びとにとって行動しやすい環境整備がなされたり、就業保障が進むこと自体が、人権についての意識の高揚の結果であるとともに、その誘因ともなるのである。
人権教育では、心理的差別解消の役割が強調される。しかし、心理を規定する社会・文化に目をむけ、その改革について検討することを抜きにすることはできない。教育は実態的差別にも関わるものであり、子どもの学力保障のみならず、成人の生活保障とも関連して、現代に生きるのに不可欠な知識・技術を獲得する成人基礎教育の保障が国際的にも進められているのである。このことを行動計画で明記することも望まれる。
国連の計画では人権教育の生涯学習としての取り組みを促しているのであり、あらゆる機会・場所における学習に、人権教育の視点が貫かれているかどうかが問われることになる。生涯学習推進計画をもち、生涯学習施策を展開している自治体は多いが、人権教育が柱になっているものばかりではない。この視点を欠いては、生涯学習が人びとの間に格差を作り出すことになりかねない。教育・学習が市場原理に委ねられがちである今日、その恐れは一層増しているのであり、あらためて、だれのための何のための生涯学習かが問題になる(1)。
「人権教育のための国連10年」行動計画の比較検討 全庁的取り組みの体制を整え、あらゆる行政を通じて人権教育にあたるといっても、抽象的一般的記述では、これまでと変わりのないものになる恐れがあるのであり、それぞれの行政における具体的事業をあげての計画が伴わねばならない。具体性に欠ける計画が少なくないのである。また、さまざまな施策が、人権の視点に立ったものかどうか、人権教育の計画と整合性のあるものかどうかを点検し、矛盾するものの是正を図る必要があり、そのことに触れることも大切である。住民は、国民と異なり、外国籍の人も含み得るものであって、その権利保障が大きな課題となっている。さらには、人権規約にもあるように、国レベルでも内外人平等が実現されなければならない。内外人平等についての啓発に触れた記述のある計画はあるが、その観点からのこれまでの施策の見直しや国への働きかけも採り上げられてしかるべきである。
計画が机上のものに終らないよう、さらに具体的計画を立て、実行に移し、効果を確かめることが肝心である。長野では、行動計画書の中に住民意識調査結果や意見聴取内容を盛り込んでいる。実行過程でも、調査などによって効果測定を重ね、実効のあるものにすることが望ましい。大阪は、計画書に、国連や国の行動計画のみならずユネスコの人権教育関連文書も添付している(2)。ユネスコの文書の周知徹底が十分でない現状にあって、このことの意義は大きい。京都や滋賀などに見られる用語解説も、住民に親しまれるものにする上で重要であろう。
結び
人権教育のための国連10年に関する行動計画をもつ府県は、今日群馬、沖縄などまだほかにもあるが、今回は計画書を入手した上記の18府県について考察した。それぞれ国の行動計画とあまり変わらないものから、地域の実情をふまえて工夫がこらされているものまで種々であるが、なお具体的展開の必要性が高い。人権教育はこの10年で終るものではないものの、今後の進展に大きな弾みとなるものを確立するために、10年の後半を迎えるこの時期に、集中的な取り組みを行うことが課題となっている。地方分権が強調される今日、それぞれの自治体の主体的な施策の展開が求められるのである。
注
- ユネスコの生涯教育部門の責任者であったエットーレ・ジェルピは、生涯教育が抑圧の手段ともなれば解放の手段ともなることについて注意を促している。E.Gelpi, A Future for Lifelong Education, 1, Department of Adult and Higher Education, University of Manchester, 1979, p1.
エットーレ・ジェルピ、前平泰志訳『生涯教育』東京創元社、1983年、16頁。
- 人権教育に関するユネスコの文書については、次の書が詳しい。部落解放研究所編『人種差別と教育』解放出版社、1989年。