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国連文書・訳文
掲載日:2003.5.29
Advance Edited Version事前編集版
配布:一般
E/CN.4/2003/101
2003年2月28日 原文:英語
人権委員会 59会期
暫定的な議題項目17(c)  

     

人権の伸長と擁護:情報と教育
「人権教育のための国連10年」(1995-2004)へのフォローアップに関する調査
高等弁務官報告
(註1)


要約

本報告は人権委員会決議2002 /74のパラグラフ17に従って提出されるものである。同パラグラフにおいて、人権委員会は国連人権高等弁務官事務所に対し、「人権教育のための国連10年」のフォローアップ関する調査を実施すること、とりわけ国、地域(国際地域)、国際レベルで人権教育の取り組みを強化するために可能な手段、および現在の人権教育に関する主要な問題点に対処する目的で2003-04年に開催される一連の会期間ワークショップの構想について、具体的に報告するよう求めた。 本報告は,これに関して,人権高等弁務官事務所が行った一連の活動の結果を報告するものである。

 

I. はじめに

A. 背景

1. 人権委員会は第58会期において2000年4月25日の決議 2002/74 により、人権高等弁務官事務所に対してすべての関係者・機関との協力により、また資金的な示唆を含めない形で、「人権教育のための国連10年」 (1995-2004)のフォローアップについて、とくに以下の事項に関する調査を実施し,その結果を人権委員会第59会期に提出するよう求めた。

  1. 国、地域(国際地域)、そして国際的なレベルにおいて人権教育を強化する可能な手段
  2. 現在の主な人権教育の問題を扱うために2003-04年の一連の会期間ワークショップを開催するという考えの具体化。とりわけ、人権教育の取り組みの効果に関する評価と「最もすぐれた実践」の基準はどうあるべきかについて、人権に根ざしたアプローチを政府間組織、開発機関、金融機関や民間の活動の主流に位置づけるための人権教育の貢献,そして人種主義やあらゆる形態の差別や不寛容と闘うために、またとりわけ宗教的寛容を促進するために人権教育が果たす役割について。

2. 本報告は、これに関して、高等弁務官事務所によって実施された一連の活動によって明らかになったことを以下の第I章B項で詳細に報告する。多様な関係者・機関が「10年」のもとで行った最近の活動についての報告も、上記決議のパラグラフ18によって求められているところであり、別途、人権委員会に提出されている (E/CN.4/2003/100)。

3. 2000年に高等弁務官事務所によって実施された「10年」の地球規模での中間評価が、前期5年間の経験を振り返り、「10年」の残りの期間に人権教育をさらに進めるための視点から、国際、地域、国レベルでの活動についての勧告と同時に全般的な勧告を行ったことを強調することは重要である。報告書A/55/360に含まれているこれらの勧告の多くは、「10年」のフォローアップにとっても関連があり、将来に向けた政策を策定する際に考慮すべきである。

B.報告の準備

4. この報告の準備のプロセスにおいて、以下から情報を得た。

  1. 通信。 2002年10月、高等弁務官事務所は口頭通牒および書簡を、政府、国内機関、条約機関の議長に送った。国内人権機関への文書は、高等弁務官事務所がスポンサーとなっている国内人権機関の国際ウエブサイトにも掲載された。2002年12月31日の時点で、7カ国の政府、条約機関の議長1名、3つの国内人権機関から返事を得た。国際、および地域の政府間組織 もまた、書面によるコメントを求められた。2002年12月31日現在で、1つの組織から返答があった。
  2. 政府間組織との協議。2002年11月、高等弁務官事務所は国際、および地域の政府間組織の会議を組織し、主催したが、そこに13の組織代表が出席した。会議の議題には、2004年の「10年」終了にあたって何をするかについてのアイディアと同時に、国際、地域、小地域(国際地域内の小地域)、国内、地方のレベルでの「10年」のフォローアップが含まれていた。
  3. NGOとのインターネット上での公開討論。2002年11月18日から12月18日まで、高等弁務官事務所では人権教育者と、その他の関心を持つ個人と組織からなる電子メールネットワークで、公開討論を組織し、その助成を行った(Human Rights Education Associatesにより運営される人権教育リストサーブ)。討論の議題は、国と地方、小地域と地域、そして国際レベルでの「10年」のフォローアップを含んでいた。

5. このプロセスを通じて得た回答の中には、回答者の過去または現在の取り組みについての情報も含まれていた。こうした情報は、この報告の範囲を越えるため、高等弁務官が総会に対して行う、「10年」についての次の報告に含む。それは「10年」の下での多様な関係者・機関による活動に焦点をあてるものである。

II. 「10年」のフォローアップ: 可能な活動

6. 「10年」にフォローアップに関するいかなる考慮も、「10年」において達成されたことと、不十分であったこと、さらにそこから学んだこと(この間につくられた構造・法的枠組み、実施の状況、さらに不十分な点と残されたニーズという点で)に基づき、行われなければならない。 これらの局面についての分析は、先に触れた「10年」の世界規模での中間評価においてのべられている (A/55/360)。この報告を準備するために収集された情報の大半は、その中で示された調査結果を再度強調するものであるが、その結果をさらに詳述することは,今回の報告の範囲を超えることである。

7. したがってこの章は、国際(úK.A)、小地域と地域(úK.B)、国と地方のレベル(úK.C)における「10年」のフォローアップのための実際的な活動とともに、「10年」のフォローアップのための実際的な活動の方法について、「10年」のさまざまな関係者・機関が関連する経験に基づいて策定し、また第úJ章で記した過程を通して高等弁務官事務所が集めたあらゆるレベル(úK.D)における一定の優先課題を強調することだけを目的とする。

A. 国際レベル

(a) フォローアップのイニシアティブ

1.第二次「人権教育のための10年」

8. 「人権教育のための10年」 (1995-2004)は主に、人権教育のために役立つ「錨」 または「傘」、そして「触媒」の役割を果たす仕組みであると表現されてきた。 あらゆるパートナーにとって、その最後の数年間の焦点は、達成されたことを制度化し、そして「すぐれた」実践を共有することである。 明確に定義された指標に基づく「10年」最終評価が、可能であれば地域での協議を通して行われるべきである。その評価は,何が達成され、何がまだ達成されていないのかを強調するものになろう。

9. 人権教育が長期にわたるプロセスであることを考慮するならば、高等弁務官事務所が受け取った結果は、「10年」の枠組みを継続することの重要性を強く肯定するものであった。第二次「10年」は

- あらゆるレベルでパートナーシップを増す機会を提供するとともに、共通・共同のビジョン、目標、活動という認識を提供する。

- 最初の「10年」の方針に基づいて作りだされた地域や国レベルのプログラムに対して、国際的な支援を提供し、それらのプログラムを継続し、新しいプログラムを開始するためのインセンティブ(誘因)を提供する。

- 人権教育を継続して追求しようとする(国連 、政府、市民社会を含めた)国際社会のコミットメントを表すものである。

- 最初の「10年」を支持してきた人々が達成してきた仕事を認め、また、そのプログラムを他の機関やコミュニティに広げる機会を提供する。

- これまで人権教育に注意を払わなかった政府が、他の国や機関の経験に基づき、プログラムを開始する機会を提供する。

-人権教育が差別的な態度や行動を予防し、先入観や偏見と戦い、文化的多様性の真価を認める役割を果たすものであることから、「人種主義・人種差別・外国人排斥・関連する不寛容に関する世界会議」(2001)のダーバン宣言と行動計画の実施に対する貢献となる。

- 関連する諸活動への資金提供も含めて、 国際的なレベルで、人権教育に一定の関心が確実に向けられるようにする。

10. 第二次「10年」は、推進力と連続性を生み出すために、定期的、継続的なイベントを組織することを通じることによっても、適切に構成される必要があるであろう。適切な資源がそれに充てられるべきである。 成功を評価するための指標とともに、各国の最低限の取り組みを指し示す、現実的な内容の国際的行動計画が作成されるべきである。また,計画の具体的策定にあたって、地域も含めたあらゆるレベルで協議がおこなわれるべきである。 政府による定期的な報告システムも構想されるべきである。 最後に、第二次「10年」の採択は、人権教育を孤立させるのではなく、横断的な取り組みとして推進することを促すべきである。

2.人権教育のための基金

11. 国連人権高等弁務官事務所が国連開発計画と協力して運営し、草の根の人権教育活動に資金を提供しているACT (Assisting Communities Together:コミュニティの共同支援) プロジェクトの有用性を念頭に、これまで多くの関係者・機関が人権教育のための基金(特に、市民社会の活動のための)を設立することの重要性を強調してきた。 このようなプロジェクトは他の国連組織を巻き込む形に拡大することができよう。

12. 国連によって運営されているACTプロジェクトや基金(例えば拷問犠牲者のための自発的基金)は人権教育のための基金設立についての方向性とインスピレーションを提供してくれる。それはまた、開発途上国のプロジェクトに必ずしも限定されるべきではない。 広報とアドボカシーの戦略と結びついた、適切な資金提供の方法が、たとえば国連広報センターと共同で開発されるべきである。 また、もしこのような基金が設立されるなら、助成されたプロジェクトの評価とフォローアップの仕組みを含めることが重要であろう。

3.その他の提案

13. その他の提案としては、人権教育の主要な関係者・機関を含む、政府間または政府と非政府機関からなる合同委員会を設立し、人権教育の取り組みについて監視システムを開発し、進行中の取り組みの評価をおこなうこと、さらに特定の規範的文書、例えば人権教育に焦点をあてた条約づくりなどもあげられる。

(b) 既存の人権保障機構の更なる活用

1.条約監視機関

14. 人権教育を前進させる上で条約監視機関が有している可能性は、特に条約機関の政府報告書の審査を通じて、最大限に活用することができるだろう。NGOと、国内人権機関が存在する場合にはその機関も含めてであるが、これらがそのプロセスにより深く係わり、政府や既存の地域・国際レベルの機構と協力する道具となる人権教育について、報告書を作成するための調整をおこなうことができる。条約機関はまた、それが適当であれば、人権教育の多様な側面に関する一般的意見を採択することも検討できる。

2.条約以外の機構

15. 教育への権利についての特別報告者の任務と活動に、人権教育を完全に含めるべきである。さらに国レベルで実施の任務を負うすべてのもの、あるいは人権関連機関は、とくに現場の任務に関する活動と勧告を通して、また条約監視機構による関連する勧告を考慮し強調することによって、人権教育への取り組みをつねに促すことができる。

(c)政府間組織の貢献

16. 政府間組織の貢献、特に国連システムの貢献は、次の方向性に沿ってさらに進めることができる。

- 人権教育は権利を基本に据えた国連機関の計画づくりの一部としてとらえられ、その枠組みの中で扱うことができる。

- 国連職員の研修(現場と本部、とくに人権の促進に関わる者)は、人権教育の内容(例えば、人権基準と人権保障機構)のみではなく、人権教育の方法についても含むべきである。研修コースを計画する際の資源が不足しているため、国連スタッフの人権研修の教材づくりは一つの優先課題である。

- 国連現地国チームは、国内の関係者・機関が人権教育の計画、実施、評価の活動を行う際に?人権教育の要素を国内人権計画のなかで発展させたり、それが可能であれば人権教育に特定した行動計画を策定したりすることも含めて?緊密な支援を行うべきである。このような支援は、それに応じた技術協力プログラムの枠組みによって提供され、また促進されるべきである。

- 金融に係わる政府間組織(例えば世界銀行や国際通貨基金)は,本部や地域/国のレベルでも,人権教育プログラムの支援に、もっとかかわるべきである。そして

- 人権高等弁務官事務所は、人権教育や人権研修の教材・プログラムを開発したいと願っている他の関係者・機関にとって、情報センターとしての役割を果たすべきである。政府によるものも含めて、世界中に存在する人権教育のすぐれた実践・方法・プログラムの保管者としての役割を広げ、そしてそれらを分かち合うべきである。人権高等弁務官事務所はまた、政府の人権教育プログラム開発を奨励すると同時に、人権教育の実施に関してアドバイスを行うことができる。

B. 小地域、地域のレベル

17. 国レベルでの力量向上の手段として、小地域や地域の レベルにおいて、人権教育活動に適切な資源を充てることの重要性を強調してきた関係者・機関もある。地域での戦略が、国レベルでの活動や、政府と政府間組織の一貫したアプローチの発展を支援する。

18. 多様な関係者・機関が地域レベルで協力するための既存の枠組みが、政策策定において人権教育を強調する貴重な機会を提供する。 これには政府間組織の会合(すなわち高等弁務官事務所、ヨーロッパ評議会と欧州安保協力機構の三者会合)、政府間の会合(たとえばユネスコ国際教育局によって加盟国のカリキュラム部門・研究機関の責任者とともに組織された会合や、人権高等弁務官事務所が技術協力プログラムの中で開催する会合)、さらに国内人権機関どうしの会議も含まれる。

19. 地域と小地域での ワークショップは、あらゆる関係者・機関間の活発な協力と、地域のレベルで研修を実施できる人材の共有を促す。教材開発についてのワークショップは、適切な場合には、国際的な教材や他地域の教材の改良を促す。 従って地域でのキャンペーンと同様、これらすべての活動は奨励されるべきである。 ワークショップには、宗教的組織だけでなく、ノン・フォーマル(非定型的)教育システムの中で活動している関係者・機関も含めることができる。

20. 地域レベルの政府間組織と同様、例えば国連の経済委員会のような国際的な政府間組織の地域事務所などは、人権教育を政府の協議事項にするために、また、政府が人権教育を実施しているかどうかを監視する主要な役割を果たす。

21. 人権教育者やその他の関係者・機関、例えばコミュニティのリーダーたちに研修を提供し、彼らが各自のコミュニティで教育プログラムを開発できるよう、地域レベルでの人権教育機関が世界の全大陸において発展しつつある。 このような努力は維持されるべきである。

C. 国、地方のレベル

22. 国家と非国家的関係者・機関との緊密な協力が促進されるべきである。堅固なパートナーシップが政府機関、国内人権機関と市民社会の間に確立されるべきである。これらすべてのセクターは 人権教育の計画と戦略づくりに関わり、これら組織のスタッフはファシリテーターや研修生として参加するべきである。 人権教育のために、多様な関係者・機関が参加する基盤をつくることは、最も良いアプローチであると考えられた。

23. 「10年」の行動計画は、政府や他の関係機関のイニシアチブで、政府と非政府の関係者・機関の幅広い連合を含み、包括的、効果的で持続可能な人権教育の国内計画の策定に責任を有する、人権教育のための国内委員会の設置について規定している。 可能な場合には、人権に関する全体的な国内計画の一部とすることができ、また、差別と人種主義、子ども、先住民などに係わるその他の人権行動計画を補足するものとなる。 寄せられた意見によれば、このような行動は、人権教育の国内レベルでの前進に役立つと考えられ、「10年」終了後もひき続き強力に進められるべきである。

24. 特に教育システムに関しては、人権の学習と実践を統合する目的で、国内の教育改革の文脈において、人権教育は教育システムの民主化の基礎となるべきである。 人権教育は「万人のための教育」計画(教育省)に含められるべきである。 ユネスコ国際教育局 は,これらの取り組みについての情報やデータを集め,広めることができる。

25. 政府が、人権教育についても規定を持つ国際条約や地域レベルでの条約を批准することの重要性が指摘された。 すでに批准された条約に関しては、人権教育の専門家が、国内レベルでは国内人権機関と緊密に協力して、政府が人権教育に関する報告義務を果たす際に支援し、また条約機関の最終見解や勧告に対するフォローアップについて広く知らせるために取り組む必要性が強調された。

26. 国内計画や予算の割り当てによって実施される公共政策を策定したり、つくり直したりする目的で、国家が人権教育に係わる特別法やその他の関連法の中に人権教育に関する義務や原則を漸進的に盛り込むことができるという点が強調された。 このように人権教育を漸進的に豊かにするプロセスは、国際人権基準を国内法に組み入れるよう調整するプロセスを促す憲法改革という方法によっても取り組むことができる。

27. 国レベルで人権教育の取り組みを計画し、評価するために役立つ行動は、人々の人権についての理解と意見を把握するための世論調査を計画することであると強調された。 このような調査は人権教育の関係者・機関と受益者にとって、何が人権についての適切な理解であるといえるのかをめぐる議論を必然的に伴うであろう。

28. 適当である場合、 国連現地国チームを通して国内の活動に対する支援を求めることができる。 人権教育を計画、実施、評価するために、政府は国連機関の技術協力プログラムによる支援を活用することができる。

29. 市町村などの地方レベルにも、地方自治体連盟の諮問委員会を通して、特に配慮する必要のある地方行政官の人権研修が促進されるべきである。

D.あらゆるレベル

30. あらゆるレベルにおいて優先されるべき取り組みとして、繰り返し述べられていたものがある。それらは簡単に要約すると以下の通りである。

- 教育者と研修担当者を育てること

あらゆるレベルにおける研修は、教育者(教員、専門家集団への研修担当者からNGOのメンバーに至るまで)と同時に人権教育プロセスの管理者(教育省の役人、NGOのメンバーなど)として、人権教育活動に責任を有する(あるいは有する可能性を持つ)人びとに届くことを第一に目指すべきである。 彼らに対する研修は包括的であり、彼らの職務上の機能に基づくべきである。単に、人権基準と人権擁護機構について取り上げるだけでなく、教育活動を計画し実施するための幅広いスキル、たとえば対象となる集団のニーズ分析(幅広い文脈も含めて)や、カリキュラム・講座・ワークショップの計画、能動的教授・学習法、適切な教材や活動の選択、教材開発についても取り上げるべきである。

- 特定の対象となる集団:その地方のニーズに応じて優先順位を決定しなければならないが、多くの関係者・機関によって、人権教育を特に必要とする集団が繰り返し指摘されてきた。すなわち、政府官僚(とくに教育や司法に係わる人々)、メディア、ビジネスの世界で働く人びとである。

-影響についての評価:人権教育の影響を測定する質的な指標と評価システムを開発する必要性が、多くの関係者・機関によって強調され、この領域における研究を支援することは不可欠であると考えられた。 特に、長期的にみて、人権教育はどれほど効果があったのか、人びとの生活や学校環境はどう変化したのか、人々の行動はどのような影響を受けたのかについて調べるための、質的な評価を実施することは有用であると考えられた。

翻訳:阿久澤 麻理子
監訳:平沢 安政 


1 総会決議53/208のセクションBのパラグラフ8に従って、本報告は可能な限り最新の情報が含まれるよう、2003年2月に提出された。