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2006.08.21
意見・主張
  
第1回部落解放・人権研究者会議を開催しました(上)

 当研究所では、2005年度、様々な調査研究事業に取り組んでまいりましたが、その成果を研究所会員間で共有するために、去る7月9日、部落解放・人権研究者会議を開催いたしました。ここでは、前半部分の概要をご紹介したいと思います。後半部分については次号で紹介することとし、また、一層の詳細については、当研究所紀要『部落解放研究』第172号で、ご報告する予定です。(文責:李嘉永)

 第1報告:

憲法問題プロジェクト「憲法改正問題への中間提言の概要」

報告者:金子匡良さん(法政大学)
コメンテータ:ûü野眞澄さん(香川大学名誉教授)

 ここ数年憲法改正論議が活発化しているが、これに対して、部落解放運動をすすめてきた立場から何を言うべきか、何を守り、変えるべきものは何か、という視点から、議論を進めてきた。現行憲法に対する大まかな評価としては、第14条を中心として、自主解放の手がかりを部落解放運動に与えている。これは高く評価すべきである。また、憲法はそもそも権力を縛るルールであるということが前提であるが、権力をもたない人による差別に対して、憲法が何を果たせるのかという点は問題である。人権救済について、十全の役割を果たしていくべきであろう。

 また、各論については、天皇制が主権在民・部落解放と相容れないこと、9条の不戦の誓いと自衛隊の問題、さらには基本的人権の尊重を定める諸規定(とりわけ14条の平等権規定、24条の男女の本質的平等規定、25条の生存権規定)、が、戦後の部落解放運動にとって大きな役割を果たしてきたことなどを検討している。

【コメンテータからのコメント】

 基本的なスタンスは、差別の解消や平等権規定を憲法解釈の基本に据えるということであり、既存の差別禁止事由に加えて、国籍・障害・年齢などの新しい問題のクライテリアをいれて差別解消を強化することが重要である。

 いずれにしても、来年の夏、政界レベルで議論が本格化するかもしれない。それをにらみながら、議論を深める必要があろう。

 第2報告:

維新の変革と部落研究「維新の変革と部落問題研究」

報告者:北崎豊二さん(大阪経済大学名誉教授)
コメンテータ:黒川みどりさん(静岡大学教授)

 この研究は、移行期の研究であるが、その意義は幾つかある。特に解放令の意義については、確かにその後も差別は続いたものの、水平社運動では糾弾の際に援用されたという意味で、一定の意義があった。また、維新の変革によって、部落は「どう変わったか」、そこを明らかにする必要があるであろう。

 五箇条の誓文から解放令に至る様々な文書は、多くの限界を指摘されながらも、旧来の「陋習」である身分差別をやめ、法的な身分として賎民身分は廃止された点で、やはり開明政策と捉えるべきであろう。戸籍制度も、解放令以後、多くの改正がなされている。また、地租改正や学制、徴兵令によって部落はどう変化していったかは、まだ明らかにされていない点が多い。本研究で、各地域の特徴を明らかにし、解放令の再評価もできた点は成果である。しかし、充分取り上げることの出来なかったテーマ(生業、教育文化など)が残されている。今後の課題である。

【コメンテータからのコメント】

 歴史研究において時代区分を乗り越えるという意味は非常に大きい。近世後期から近代・近世研究者を交えて研究が行われた点は非常に重要だ。近代において部落差別が存続する要因としては、松方デフレ以降、中間層が貧困層に貶められ、部落も貧困の象徴とされたことが挙げられる。では、松方デフレ以前の部落の状況については、既存の研究は不十分であった。ここを明らかにした点も意義深い。