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2006.09.15
意見・主張
  
第1回部落解放・人権研究者会議を開催しました(下)

  当研究所では、2005年度、様々な調査研究事業に取り組んでまいりましたが、その成果を研究所会員間で共有するために、去る7月9日、部落解放・人権研究者会議を開催いたしました。ここでは、後半部分の概要をご紹介したいと思います。一層の詳細については、当研究所紀要『部落解放研究』第172号で、ご報告する予定です。(文責:李 嘉永)

  第3報告:労働者の個人情報保護研究
「従業員等の個人情報保護と 企業の取り組みの現状と今後の課題」

報告者:竹地 潔さん(富山大学)
コメンテータ:内海義春さん(大阪企業人権協議会)

  2005年4月に個人情報保護法が全面施行されたが、顧客情報がメインになっている。しかし、従業員情報に付いてはどの程度取り組まれているか。法規定の抽象性・努力義務の多さから、実際の取り組みを進めるには困難が伴う。本研究では、そのような困難の中で、法やガイドラインに則した取組み状況について調査し、かつ取り組むに当って各企業が感じた困難やご苦労を伺った。その上で、企業・行政の課題を指摘した。

  主な調査結果としては、保護方針・取扱規程の策定、管理者の選任などの形は、一定できている。

  ただ、社会的差別につながるセンシティブな情報の取得については、多くの企業は行っていない。取得の経路も、基本的に本人から取得するとしているが、若干、本人以外からという場合もある。

  現在、個人情報保護の仕組みに、魂を入れる段階。繰り返し教育訓練を実施していく必要がある。顧客情報を守ってもらうためにも、従業員の情報もしっかり守っていくことが重要である。また、行政の課題としては、規定の明確化が求められる。

【コメンテータからのコメント】

  今回の報告では、予想以上に取り組みは進んでいる。しかし、今回の調査対象以外の、小規模な事業所や企業ではどうか。とりわけ、5000件以上の個人データを保有しない企業については、やや鈍いという結果となった。この点は、企業人権協としても取り組みを促す必要があろう。

  ただ、進んだ企業においても、社用紙や部落地名総鑑といった一連の経緯の中で、不適切な面接が行われている。そういった企業においてこの法の趣旨を入れ込み、問題解決を迫っていくかは大きな課題であろう。

  また、この個人情報保護を、「人権」の観点からいかに位置付けるか。おそらく現状としては法務・コンプライアンスという切り口で取り組まれ、人権のセクションのかかわりは例外的ではないか。

第4報告:高校三年生進路意識調査研究
「格差社会日本と若者の危機-「大阪フリーター調査」と「高校生の進路意識調査」の知見から」

報告者:西田芳正さん(大阪府立大学助教授)
コメンテータ:桂正孝さん(宝塚造形芸術大学教授)

  現在、競争が席巻しており、終身雇用は持たないという論理の下、労働力が都合よく使われている。その中で若者たち、特に不利な背景を持つ若者たちが最も被害を受けている。2000年の実態調査では、若年層の失業率は一般も高いとはいえ、同和地区では3割に上る。フリーター調査でおこなったインタビューでは、誠に厳しい背景が重層的に表れている実態が明らかになった。学校教育の早い段階で既に離脱しており、労働市場からも排除される結果となっている。学校からの排除が社会からの排除という事態に結びついており、そしてそのような家庭の子どもたちが学校から排除される。両者は、相互に原因結果として結びついているのである。

  これらの知見が広く妥当するかを量的に検証し、また、フリーターへのプロセスを明らかにするために、進路意識について高校3年生を対象としたアンケート調査を行った。ここでは、非常に不安定で困難を抱えた家庭出身の子どもたちが、勉強や先生との関係の悪化から、学校から離れてゆき、進路多様校・商業学校へ進学し、その後フリーターを選んでいる場合が多いことが明らかになった。また、伝統的な役割意識を強く内面化している女子生徒たちの姿も垣間見られた。

  だが、フリーターといっても、中卒・中退フリーターや退職型フリーターは含まれていない。そういう子どもたちをどう支えるか、そしていかに食い止めるかを探る必要があろう。

【コメンテータからのコメント】

  大阪での同和教育その他、様々な力があってこの調査が可能になった。東京では、被差別の側をきちんと捉えた調査はなく、またライフヒストリーも組み込んだ今回の調査は、非常に大きな成果をあげたといえる。

  同和教育・解放教育において、「生き方」の問題を絶えず議論してきた。学力と進路保障は大きな教育課題であった。前者との関連で、この調査は生きてくる。この成果を、教育はどう受け止めるか。大きな課題だ。