11月17〜18日、研究所教育コミュニティ研究会で関東の地で、学校と地域の協働を推進している東京都世田谷区用賀小学校と千葉県習志野市秋津小学校コミュニティルームを訪問した。大阪とは大きく条件が違う点もあるが、「教育コミュティ」づくりという点では、共通する部分も大変多い。以下、2回に分けて、その概要を報告したい。
1997年に学校協議会を設置し、「保護者・地域・学校が心をひとつに子どもを育む」教育改革をすすめる世田谷区
今、首都圏では、公立小中学校の学校選択制が急速に広がっている。東京23区のうち、小学校で選択制を導入しているのは14区、中学校で選択制を導入しているのは19区にのぼる。そうした中、世田谷は、通学区域制度を維持している数少ない区の1つである。なぜ世田谷は学校選択制を導入しないのか。それは、地域住民や保護者の「参画」と学校・家庭・地域の「協働」が、世田谷の教育を支える土台になっているからである。
1997年度、世田谷の公立小中学校には「学校協議会」が設置された。これは、地域防災、青少年の健全育成、学校教育支援について、学校、家庭、地域が協議・協力するための組織である。地域防災という課題が位置づけられているのは、阪神淡路大震災後の学校視察を機に、防災の観点からのコミュニティづくりやその中での学校の役割について、関係者の関心が高まったからだという。以来、世田谷では、学校協議会を基盤にして「開かれた学校づくり」と「地域とともに子どもを育てる教育」がすすめられてきた。この成果をふまえて、区教委は、2005年度に5つの小中学校を「地域運営学校」に指定した。用賀小学校はその指定校の1つである。
世田谷の地域運営学校には「学校運営委員会」(国の「学校運営協議会」に相当)が設けられている。用賀小の委員会は、保護者、地域住民、教員が講師をつとめる夏季休業中の講座「スマイルスクール」を運営したり、朝の「あいさつ運動」を実施しているとのことだった。校長先生によると、今後、基礎学力の定着、健康教育、情報教育などのテーマで学校教育活動を支援する組織を立ち上げる計画もあるという。学校運営に対して意見を述べたり学校運営方針を承認したりするだけでなく、保護者や地域住民の教育活動への参画を促していることは、ここの委員会の大きな特徴である。
一方、用賀小を含む中学校区では、2004年度に総合型地域スポーツ・文化クラブ「ようがコミュニティークラブ(YCC)」が発足した。YCCにはいくつもの「自主クラブ」があり、地域住民の文化・スポーツ活動が活発に行われている。YCCは、救命講習会、災害時支援ボランティア講習会、地域の風景観察オリエンテーリングなども主催している。YCCは、単なるスポーツ・文化教室ではなく、住民の交流やそれを通したコミュニティづくりをめざす組織だといえよう。
「保護者・地域・学校が心をひとつに子どもを育む(区教委の地域運営学校のパンフレットより)」。この理念のもとですすむ世田谷の教育改革は、市場原理・競争原理に基づく教育改革に対する強力な反証ではないかと思う。