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2008.07.17
意見・主張
  

「部落問題の今」国際ワークショップとシンポジウムの意義

平沢安政(大阪大学大学院人間科学研究科教授、部落解放・人権研究所理事)

 部落解放・人権研究所は、今年8月で創立40周年を迎える。これを記念して、7月31日から2日間、「部落問題の今」をテーマに若手研究者による国際ワークショップを大阪で行い、8月2日には同じテーマで公開シンポジウムが開かれる。

 研究所が1980年代はじめから英語のニュースレターを発行して部落問題の現状や調査・研究動向を海外の研究者向けに定期的に発信し、また部落問題に関する英語による出版物を発行するなどしてきたことにより、海外の研究者との交流が広がってきたことを背景に、この企画が生まれた。実際、数多くの海外の研究者が研究所にコンタクトをとり、情報収集やフィールドワーク、また意見交換を幅広く行ってきた経緯がある。

 英語で出版されている部落問題研究書の中には、偏ったデータや情報にもとづいて書かれた、必ずしも実態を反映しない内容のものも存在するが、意味で「当事者」の視点や問題意識をふまえながら、学術的な情報や分析を蓄積してきた研究所を中心にした研究ネットワークが形成されてきたことにより、新たな枠組みで部落問題の「今」と「これから」を国際的な視点から捉え直すのに必要な条件が整ってきたように思われる。

 実際、今回のワークショップやシンポジウムでは、部落問題を部落問題としてのみ考えるのではなく、マイノリティの中間層(ミドルクラス)が果たす役割やマイノリティのアイデンティティ変容、あるいはマイノリティという存在をつくりだす社会的仕組み(メカニズム)といった切り口から捉え、他のマイノリティと比較しながら考えるという試みを行う予定である。そのため、アメリカ、インド、韓国、フィリピンなどの国々から部落問題を研究してきた若手研究者を招き、日本の若手研究者との対話を通じて、部落問題に関する今後の国際共同研究の発展に向けた「種まき」をすることが、今回の企画のねらいである。

 筆者は、大阪府羽曳野市の同和教育推進校での教員経験をもとに、アメリカの大学院でマイノリティ教育の比較研究に取り組み、その後国内外の人権教育や多文化教育の研究を行ってきたが、アメリカ留学時代に部落問題に関する英語文献や研究者と出会って以降、部落問題の国際比較研究は常に大きな関心事のひとつであった。1984年にアメリカ留学から帰国した直後に、研究所の英文ニュースレターの作成に関わらせていただいたり、その後大阪府内のいくつかの被差別部落に海外の研究者が訪れた時に、通訳兼共同研究者として同行したりした経験があり、今回のワークショップでコーディネーターを務めさせていただくのを楽しみにしている。

 ぜひ多くの皆さんに、今回の企画に関心をもっていただければと願っている。