目 次
要 約
はじめに
一 企業における「人権尊重」の潮流
二 CSR調査における「人権の尊重」
1 CSR指標の現状
2 人権から見たCSR指標の課題
三 研究所企業部会による企業評価調査
1 調査目的
2 調査対象企業の概要
3 主な調査項目と分析の基本構成
四 調査結果の主な特徴
1 前進面
2 課題面
五 今後の課題
注
要 約
今日企業は、人権を尊重することが、社会的責任の一環として求められている。しかし、その範囲とはどこまでなのか、これまで必ずしも明らかにされてきたとはいいがたい。そこで本論文ではまず、企業と人権との関係について試論的に整理し、またこのような取り組みを促す各種指標に見られる人権の項目について概観する。かかる指標の限界をいくつか指摘した上で、当研究所が二〇〇四年度に実施した「企業による人権の取り組みに関する調査」の視点と枠組み、そして調査結果の概要を紹介したい。
はじめに
今日、企業はその事業を推進するにあたって、一定の社会性に配慮することを求められている。このことは、「企業の社会的責任」(1)(Corporate Social Responsibility、以下CSRとする)と呼ばれ、この用語自体も、一般的な認知を得るに至っている。現在は、「なぜCSRか」から、「どのようにして」CSRを実施するかに、焦点が当てられている(2)。
CSRの内容について言えば、必ずしも一義的な定義が確立しているわけではないが、個別の課題については、概ね了解が成立している。そこでは、「人権の尊重」は常に言及される。ただ、「なぜに企業が人権を尊重しなければならないのか、そしてその内容はどこまでか」については、必ずしも十分に議論が深められているわけではない。
そこでまず、企業における人権尊重の潮流について紹介し、次に、各種CSR調査に含まれる項目の検討を通じて、企業に求められている人権課題が豊富化・包括化している一方で、いくつかの課題があることを指摘する。その上で、当研究所が策定した「CSRとしての人権」として考えられる項目をもとに実施したアンケート調査の内容と結果について、その概要を紹介し、今後の課題を示すこととする。
一 企業における「人権尊重」の潮流
企業と人権の関係については、経済活動の自由と、労働者の権利の尊重とをいかに調整するか、ここに淵源がある。企業が取り組むべき人権の課題は、何をおいてもまず労働問題である。また、昨今問題となっている社会的排除の問題(3)は、一面では困難層が労働市場から遠ざけられているというものである。一九七五年に発覚した部落地名総鑑事件は、採用の場面における身元調査が、部落出身者を雇用から排除している実態を明らかにした(4)。日本における企業の社会的責任を人権の領域で最も徹底して追及したのが、この事件であることは、決して看過されてはならない。
しかし、企業活動が要因となって引き起こされる人権侵害は労働問題には止まらない。大規模な開発が、地域住民、とりわけ先住民族の生活を破壊してしまうという現象は、八〇年代・九〇年代に大きな社会問題として注目されるようになった(5)。つまり、企業における事業活動それ自体が、個人の人権を侵害していないかどうか、この点が次に問題となる。
他方で、企業の本来業務によって生み出された様々な商品、価値が、特に人権の享有に資するという場合も見受けられる。貧困層の自立を促すための様々な配慮を施した資金提供(6)や、誰もが使いやすいユニバーサルデザイン商品の開発(7)などがある。また、本来業務を通じてではないにしても、収益の一部を社会に還元し、様々な社会的課題の克服に協力する実践(8)も活発である。さらに、NPOと企業との協働による事業(9)も広まりつつある。
これらの取り組みを進める前提として、社内的に基盤を整備しておくことが重要である。どのような課題に取り組むかという原則・方針を策定し、社内の推進体制を整備し、社内への浸透をはかり、取り組みの結果をフィードバックする仕組みを確立することが考えられる(10)。特に人権研修は、社内での人権文化を醸成し、従業員による人権への取り組みを促す前提として、きわめて重要である。
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