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掲載日:2001.9
差別撤廃を求めた国際潮流と連帯し、部落差別撤廃の取組強化を!!

友永健三(社団法人部落解放・人権研究所所長)

1. 2001年の夏は、3つの大きな国際的な成果を上げた

 2001年の夏は、部落差別を撤廃していくうえで、国際的な差別撤廃の潮流が大きく前進した夏であった。具体的には、‡@国連・人権促進及び保護に関する小委員会(国連人権小委員会)でグネセケレ委員による報告が行われ、このなかで日本の部落差別が明確に取り上げられたこと、‡A国連・経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会(国連社会権規約委員会)で、第2回目の日本政府報告書の審査があり、その総括所見のなかで、部落差別撤廃に向け日本政府がさらなる取組を実施することを勧告した、‡B8月28日から9月8日まで国連主催で、南アフリカのダーバンで開催された反人種主義、差別撤廃世界会議のNGOフォーラムで採択された「宣言」と「行動計画」のなかで部落差別の撤廃を求めた項目が盛り込まれたこと、である。

2. 国連人権小委員会のグネセケレ報告で部落問題が指摘された

 この内、国連人権小委員会でのグネセケレ委員による報告は、2000年8月に国連人権小委員会が採択した「職業と世系(門地)に基づく差別」に関する決議をうけたものである。この決議は、日本の部落差別やインドのダリットに対する差別に代表される差別を「職業と世系(門地)に基づく差別」であり、これらの差別は国際人権法によって禁止された差別であると指摘した。さらに、この決議は、グネセケレ委員(スリランカ)に対して、このような差別がどの地域に存在しているか、またこのような差別を撤廃するための効果的な方策を調査し、2001年の人権小委員会に報告することを求めていた。(資料

 2001年の8月に開催された国連人権小委員会に、グネセケレ報告が提出された。このなかで、「職業と世系(門地)に基づく差別」は、世界の多くの社会において長年続けられてきた慣習であり、世界人口の大きな部分に影響を及ぼしていると指摘し、具体的には、インド、スリランカ、ネパール、日本、パキスタンに存在していることが指摘された。日本の問題としては、部落差別の歴史と現状と課題が簡潔に指摘されている。そして最終意見として、これらの差別を撤廃するために、「単に救済的な法律を通過させるだけでなく、これらの侵害が処罰されず放置されないようなポジティブ(積極的)な行動をとるよう努力するのは当該国家の責任である。」と指摘されている。さらに、今回の報告は、アジア諸国に絞られていて、今後アフリカ、南アメリカの一部にも存在する同様の差別についても調査する必要性が言及された。

 グネセケレ報告を受けた国連人権小委員会は、報告を承認するとともに、グネセケレ委員に対して、さらなる調査を継続することが求められた。

3. 国連社会権規約委員会の総括所見で部落差別撤廃等が勧告された

ついで、国連社会権規約委員会は、8月21日、日本政府から提出されていた第2回報告書を審査し、その結果を8月31日、最終所見として採択した。この最終所見には、31項目に及ぶ「提案及び勧告」が含まれている。

 この「提案及び勧告」のなかに、部落差別を撤廃していく上で、重要な次のような指摘が盛り込まれている。

  1. 「委員会は、部落の人びと、沖縄の人びと及び先住民族であるアイヌの人びとを含む日本社会のあらゆるマイノリティ集団に対し、とくに雇用、居住及び教育の分野で行われている法律上及び事実上の差別と闘うため、締約国が引き続き必要な措置をとるよう勧告する」(40パラグラフ)
  2. 「委員会は、締約国に対し、規約第7条(d)〔公休日の報酬〕、第8条2項〔スト権の原則付与〕ならびに第13条2項(b)および(c)項〔中等・高等教育の漸進的無償化〕への留保の撤回を検討するよう促す。」(34パラグラフ)
  3. 「委員会は、締約国が国内人権機関の導入を提案する意向を示したことを歓迎し、締約国に対し、1991年のパリ原則及び委員会の一般的意見第10号に合致した国内人権機関を可能な限り早期に設置するよう促す。」(38パラグラフ)
  4. 「委員会は、締約国に対し、強制労働の廃止に関するILO第105条約、雇用及び職業における差別に関する同第111号条約、及び先住民族及び種族民に関する同第169号条約に批准を検討するよう奨励する。」(45パラグラフ)

4. 反人種主義・差別撤廃世界会議で部落差別が大きく取り上げられた

さらに、8月28日から9月8日まで、国連主催で南アフリカのダーバンで開催された反人種主義・差別撤廃世界会議において、日本の部落差別やインドのダリットに代表される「職業と世系(門地)に基づく差別」が大きなテーマとして取り上げられ、とくにNGOフォーラムで採択された「宣言」と「行動計画」のなかに、日本の部落差別に関するパラグラフが盛り込まれた。(政府間会議とNGOフォーラムの成果文書は、それぞれ、ヒューライツ大阪の以下のアドレスでご覧になれます。http://www.hurights.or.jp/wcar/J/govdecpoa.htm http://www.hurights.or.jp/wcar/J/ngodecpoa.htm

 この内、「宣言」には、「日本の部落の人びとに対する職業と世系に基づく差別は、400年以上存在してきた。そして、今日も、結婚や就職、教育に関連した差別、差別的な宣伝や煽動などの新しい形態の差別が、とくにインターネット上で出現し、300万以上の人びとが差別を経験している。」とのパラグラフが盛り込まれた。

 また、「行動計画」には、「日本政府による時限的な、「特別措置」の実施にもかかわらず、彼・彼女らが継続的に直面している差別の性質と範囲を明確にし、そのような差別をなくすためにすべての必要な法的、行政的及びその他の措置をとるために、日本における部落の人びとの状況の調査を行うこと。」と指摘したパラグラフが盛り込まれた。

 なお、政府間会議で採択された「行動計画」では、当初スイス政府の提案で盛り込まれていた「職業と世系に基づく差別」の撤廃に関するパラグラフは、ヨーロッパやラテンアメリカなど多くの国から支持が寄せられたが、インド政府は強硬に反対し、大幅に後退した修正案を提案したが、多くの国の反対で採択されなかった。

5. 部落解放同盟やIMADR(反差別国際運動)等の取組の成果である

以上、2001年の8月から9月にかけて採択された3つの文書は、今後の部落差別撤廃に向けた取組を進めていく上で、いずれも極めて重要な文書である。これらの文書が採択されるために、部落解放同盟中央本部や部落解放・人権研究所によって、関係方面への資料提供をはじめ各種の積極的な働きかけが実施された。とりわけ、南アフリカのダーバンでは、パネル展やワークショップが開催されるとともに、部落解放同盟の代表団を中心に多様なパフォーマンスが展開された。これらの努力が、今夏の一連の成果を上げたということができる。

 けれども、部落解放同盟や部落解放・人権研究所の力だけで、これらの成果が獲得されたのではない。反差別国際運動(IMADR)やインドのダリットの人びとの運動団体やヒューマンライツ・ウオッチに代表される国際人権NGOの精力的な活動のおかげであること、とりわけジュネーブ事務所をはじめとする反差別国際運動(IMADR)の献身的な活動があったことを指摘しておきたい。

 また、ダーバン2001実行委員会(NGOネットワーク、事務局・東京)の協力も大きな支えであったことも明記しておきたい。

6. 今後の6つの課題

最後に、今後の課題を6点列挙しておく。

  1. 国連人権小委員会の「職業と世系(門地)に基づく差別」に関する決議(2000年8月)、 及び2001年8月のグネセケレ報告とこれをうけた決議を普及・宣伝し、具体化を求めていくこと。
  2. 第2回日本政府報告書の審査を踏まえた国連・社会権規約委員会の「総括所見」を、本年3月人種差別撤廃委員会が、日本政府の第1・2回政府報告書の審査を経て採択した「最終所見」とともに普及・宣伝し、その実施を求めていくこと。
  3. 反人種主義・差別撤廃世界会議のNGOフォーラムで採択された「宣言」と「行動計画」 を普及・宣伝し、具体化を求めていくこと。
  4. インド、ネパール、アフリカ等の地で「職業と世系(門地)に基づく差別」と闘う人び ととの連帯を強化すること。
  5. 反差別国際運動(IMADR)の活動に積極的に参画していくこと。
  6. 12月の人権週間に、国際的な視野をもった有意義な取組を各地で企画すること。